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青い半魚人  作者: 松下真名
第二章
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151/206

トコヨノクニ――言質

「お! 偶然」

「高橋先輩」

 貸しスタジオの出口で、裕貴は懐かしい人物と遭遇した。

「今終わったとこ?」

「はい」

 高橋遼。侑子の従兄弟であり、愛佳の兄であり、中学時代の部活の先輩でもある。接点は多いはずだったが、遼の卒業以来、顔を合わせる機会はあまりなかった。

 せっかくだからどこか寄っていこうという話になり、二人が向かったのはカラオケ店だった。通されたのが先日侑子と二人で歌った部屋だったので、裕貴は密かに苦笑した。

 互いに軽く近況を報告し合ったあと、自然と話題は音楽や部活のことへ移っていく。遼の高校の軽音楽部も、部員数の多さで有名だった。

「へえ。ゆうちゃんと歌うのか」

 合宿最終日の出来事から、その後の顛末までを語ると、遼は「楽しそうだな。学祭、見に行くから」と笑った。

「ユウキちゃんの曲、いいもんな」

「先輩は会ったことあるんですか? 手塚勇輝さんに」

「えっ」

 親しげに「ユウキちゃん」と呼んだ遼に、裕貴は驚いた。一方、予想以上の食いつきに、遼はあからさまに狼狽えた。分かりやすく「まずい」の三文字が顔に浮かんでいる。

――なんで動揺してるんだ?

 裕貴にとっても、その反応は予想外だった。真意が分からず、眉をひそめる。

「な、ないよ。俺は。ユウキちゃんと会ったことあるのは、ゆうちゃんだけ。俺は話したこともない」

「……ゆうちゃんと手塚勇輝さんって、どういう関係なんですか」

 遼の取り乱しようが気になりつつも、裕貴は一番知りたいことだけに質問を絞った。

「付き合ってるんですか」

「えっ」

 遼は「うーん……」と言葉を詰まらせた。動揺は収まったようだが、代わりに唸りながら首をひねっている。ずいぶん真剣に考えているようだった。

「……それはないんじゃないか。会えないんだし」

「それ」

 腕を組み、苦心して絞り出した遼の答えに、裕貴は食い気味に言葉を重ねた。

「『会えない』って、ゆうちゃんも言ってた。どういうことなんですか。譜面はよく送られてきますよね」

 分からないことは、それだけではなかった。

 パート譜まで揃った譜面が送られてくる一方で、音源は一度だって送られてきたことがない。音声データのやり取りなんて、スマートフォン一つあれば簡単にできるはずなのに。

「言葉通りの意味だろ。会いたくても、会えないんだ」

 それ以上どう説明すればいいのか分からない。遼はそんな困りきった顔をして、もう一度大きく唸ると、ぼりぼりと頭を掻いた。

「ごめん。俺が分かるのは、本当にこれくらい」

「いえ……ありがとうございました」

 裕貴がそれ以上追及する気はないと分かったのだろう。遼はほっとしたように肩の力を抜いた。

 分かりやすい人だな、と裕貴はおかしくなった。頬が緩んだ、その勢いのまま口を開く。

「俺、ゆうちゃんのことが好きなんです」

「え」

「ちゃんと意味分かってます? 彼女になってほしいって意味の好きですよ」

 突然の告白に、遼の口がぽかんと開いた。

「なんで今それを俺に」

「言質を取ってもらいたいんです」

「言質?」

「俺がゆうちゃんのことをそういう目で見てるって、証人になってほしいんですよ。あとで俺が逃げないように」

 遼がちょうどいいのだ。侑子と縁が深く、手塚勇輝のことも知っている。おそらく裕貴が知る以上に、侑子と勇輝のことを知っているのだろう。

 そんな人物に自分の想いを言葉にして聞かせておくことは、裕貴にとって重要だった。

――これで、後には引けなくなった

 裕貴は小さく息を吸い込んだ。

――進むしかない。近づくしかない

 侑子の心の中にいる、手塚勇輝に。

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