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◇◆◇



 相変わらず何かと絡んでくる面々をあしらいつつ、業務というより雑務的なことや、お勉強をする傍ら、ヴィオレットにマナーを習う。

 さて、そんな毎日を繰り返して、数日が経った頃。

 ベルンハルトの執務を手伝っていた時、唐突に告げられた。


 ぽん、ぽん。小気味良く渡された書類に判を押していた私は、その手を止めて聞き返す。


「……王都の警備ですか?」

「そう」


 ぺら、と最後の1枚にサインをしたベルンハルトは、ぐーっと伸びをしながら「休憩にしようか」と時計を確認した。

 私も判を押す作業は終わりかけていたので、残りをさっと終わらせて、席を立つ。


「祭りも無事終わったことだし、豊富だった警備は、通常の状態に戻ったわけだけど……少し魔物の発生が多いと報告がきていてるからね」

「そう言えば、昨日も何だか騒がしかったですね」


 私が倒した魔物程ではないが、なかなか手強い魔物だったようで、ちょっとした騒ぎになっていたと思う。

 第四部隊には声がかからなかったが、王都を守護することを主としている第一部隊は、結構な人数が向かったとか。

 

 ベルンハルトの前に、用意した紅茶と、お茶請け用として作ったクッキーの入った器を置いた。

 私に礼を言うと、さっそくクッキーに手を伸ばす。


「第一部隊と合流するんですか?」

「いや、それはないよ。警備といっても、魔物と遭遇しない限りはただの見回りをする予定だ」

「そうですか」

「まあ、あくまでついでだけどね」


 警備がついでだって?

 怪訝そうな顔をした私に、ベルンハルトはニヤリと笑った。


「そろそろ噂の“仮面の少女”が正式に第四部隊の仲間になったことを宣伝しないとね」

「……」


 歪ませた口元で大体の表情を察したのだろう、「嫌そうな顔しても、事実じゃないか」と笑われる。


「期間限定ですよ」

「わかっているよ」


 私が不満を込めて言えば、あっさりと頷かれる。


「見回りには、私とマルセルと君で向かおうと思っている」

「……そうですか」


 内心ホッとしながら頷く。

 そんな私の様子に気づいているのか、ベルンハルトの目が悪戯っぽく細められた。


「休憩が終わったら、準備の時間を少し取る。ちゃんとマントや、剣を忘れずにね」


 常に身につけている騎士団の団服はもちろんのこと、ちゃんと正装しろよってことらしい。

 マントも外出時は身に付けるようにしているが、細剣については必要な時だけで構わないと聞いているため、いつも部屋に置いてある。

 

 もしかして、篭手や膝当ても必要なのだろうか……動きづらいのよね、あれ。


 私が若干遠い目をして考えている間に、ベルンハルトは用意してあったクッキーを全て食べてしまったようだ。


「ご馳走様」


 結構盛ってあったはず何だけど……全部食べたわね。

 意外と甘い物が好物らしい。


 ベルンハルトが優雅に紅茶を楽しみ始めたところで、私は退室しようと扉の方へ向かった。


「それでは、私は休憩と準備を兼ねて下がらせてもらいますね」

「いいよ。また後ほど」

「失礼します」


 



 準備をし、休憩した後、ベルンハルトとマルセルと共に久しぶりの城下町に訪れていた。


 相変わらず仮面をつけたままの私は、背の高い男ふたりの後を、大人しくついて歩いていく。

 仮面のせいで若干視界が悪いものの、慣れてきたし、日常生活において不便というほどでもない。

 祭りでの印象が強いため、今の街の様子が何だか不思議に感じる。目立たない程度にきょろきょろと眺めた。


「はぐれないでくれよ」


 私があまりにも大人しいせいか、ベルンハルトが肩ごしに振り返って声をかけてくる。


「ちゃんとついて行ってますよ」


 このやり取りも、既に3回目だ。

 第四部隊駐屯地を出発してまだ1時間も経っていない気がするが……。


 聞いていた通り、私たちは青石の街(ブルゥアストーノ)をただ歩いているだけだった。

 基本的に、魔物の被害が多いのは王都を取り囲む防壁の近くだ。そのため、ひとまず目指すのは東の大門となった。

 

 青系色で揃えられた町並みを眺めながら――ちらちらと向けられる視線たちに気づかないフリをしている。


 いや、そもそも視線を集めているのは、前を歩くお二方だ。どちらも見目麗しいため――しかも、ひとりは王子様だ――主に若い女性からの視線が熱い。

 そして、後ろをひっそりとついてく私のことを、ついでとばかりに見つけ、驚きの表情を浮かべる。


 豊穣祭でも思ったけれど、市民から圧倒的人気を誇る王宮騎士団。

 それに、王子様が率いる部隊が特に人気だという話だった――そう、紛れもなく我が第四部隊の話である。


 断りきれる話ではなかったとは言え、私、王宮騎士団の中でもとても面倒な隊に入ってしまったのでは……? と、不安になる。

 嫉妬に狂った女たちの本性を、これでもかと見てきた私は、頭が痛くなるような気持ちでため息を吐いた。


 だめだ、だめだ。まだ私が入隊してひと月も経っていないんだから……。最低でも2年以上は我慢しないといけない。

 王宮騎士団に嫉妬から突っかかってくるような人物は、そう多くないことを願うしかないか。



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