29
◇◆◇
相変わらず何かと絡んでくる面々をあしらいつつ、業務というより雑務的なことや、お勉強をする傍ら、ヴィオレットにマナーを習う。
さて、そんな毎日を繰り返して、数日が経った頃。
ベルンハルトの執務を手伝っていた時、唐突に告げられた。
ぽん、ぽん。小気味良く渡された書類に判を押していた私は、その手を止めて聞き返す。
「……王都の警備ですか?」
「そう」
ぺら、と最後の1枚にサインをしたベルンハルトは、ぐーっと伸びをしながら「休憩にしようか」と時計を確認した。
私も判を押す作業は終わりかけていたので、残りをさっと終わらせて、席を立つ。
「祭りも無事終わったことだし、豊富だった警備は、通常の状態に戻ったわけだけど……少し魔物の発生が多いと報告がきていてるからね」
「そう言えば、昨日も何だか騒がしかったですね」
私が倒した魔物程ではないが、なかなか手強い魔物だったようで、ちょっとした騒ぎになっていたと思う。
第四部隊には声がかからなかったが、王都を守護することを主としている第一部隊は、結構な人数が向かったとか。
ベルンハルトの前に、用意した紅茶と、お茶請け用として作ったクッキーの入った器を置いた。
私に礼を言うと、さっそくクッキーに手を伸ばす。
「第一部隊と合流するんですか?」
「いや、それはないよ。警備といっても、魔物と遭遇しない限りはただの見回りをする予定だ」
「そうですか」
「まあ、あくまでついでだけどね」
警備がついでだって?
怪訝そうな顔をした私に、ベルンハルトはニヤリと笑った。
「そろそろ噂の“仮面の少女”が正式に第四部隊の仲間になったことを宣伝しないとね」
「……」
歪ませた口元で大体の表情を察したのだろう、「嫌そうな顔しても、事実じゃないか」と笑われる。
「期間限定ですよ」
「わかっているよ」
私が不満を込めて言えば、あっさりと頷かれる。
「見回りには、私とマルセルと君で向かおうと思っている」
「……そうですか」
内心ホッとしながら頷く。
そんな私の様子に気づいているのか、ベルンハルトの目が悪戯っぽく細められた。
「休憩が終わったら、準備の時間を少し取る。ちゃんとマントや、剣を忘れずにね」
常に身につけている騎士団の団服はもちろんのこと、ちゃんと正装しろよってことらしい。
マントも外出時は身に付けるようにしているが、細剣については必要な時だけで構わないと聞いているため、いつも部屋に置いてある。
もしかして、篭手や膝当ても必要なのだろうか……動きづらいのよね、あれ。
私が若干遠い目をして考えている間に、ベルンハルトは用意してあったクッキーを全て食べてしまったようだ。
「ご馳走様」
結構盛ってあったはず何だけど……全部食べたわね。
意外と甘い物が好物らしい。
ベルンハルトが優雅に紅茶を楽しみ始めたところで、私は退室しようと扉の方へ向かった。
「それでは、私は休憩と準備を兼ねて下がらせてもらいますね」
「いいよ。また後ほど」
「失礼します」
準備をし、休憩した後、ベルンハルトとマルセルと共に久しぶりの城下町に訪れていた。
相変わらず仮面をつけたままの私は、背の高い男ふたりの後を、大人しくついて歩いていく。
仮面のせいで若干視界が悪いものの、慣れてきたし、日常生活において不便というほどでもない。
祭りでの印象が強いため、今の街の様子が何だか不思議に感じる。目立たない程度にきょろきょろと眺めた。
「はぐれないでくれよ」
私があまりにも大人しいせいか、ベルンハルトが肩ごしに振り返って声をかけてくる。
「ちゃんとついて行ってますよ」
このやり取りも、既に3回目だ。
第四部隊駐屯地を出発してまだ1時間も経っていない気がするが……。
聞いていた通り、私たちは青石の街をただ歩いているだけだった。
基本的に、魔物の被害が多いのは王都を取り囲む防壁の近くだ。そのため、ひとまず目指すのは東の大門となった。
青系色で揃えられた町並みを眺めながら――ちらちらと向けられる視線たちに気づかないフリをしている。
いや、そもそも視線を集めているのは、前を歩くお二方だ。どちらも見目麗しいため――しかも、ひとりは王子様だ――主に若い女性からの視線が熱い。
そして、後ろをひっそりとついてく私のことを、ついでとばかりに見つけ、驚きの表情を浮かべる。
豊穣祭でも思ったけれど、市民から圧倒的人気を誇る王宮騎士団。
それに、王子様が率いる部隊が特に人気だという話だった――そう、紛れもなく我が第四部隊の話である。
断りきれる話ではなかったとは言え、私、王宮騎士団の中でもとても面倒な隊に入ってしまったのでは……? と、不安になる。
嫉妬に狂った女たちの本性を、これでもかと見てきた私は、頭が痛くなるような気持ちでため息を吐いた。
だめだ、だめだ。まだ私が入隊してひと月も経っていないんだから……。最低でも2年以上は我慢しないといけない。
王宮騎士団に嫉妬から突っかかってくるような人物は、そう多くないことを願うしかないか。




