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◇◆◇




 ふっと、目を開けた私は、視界に飛び込んだふたつの顔に、ずっと覗き込まれていたことを知る。


「「あ、起きた」」


 眠りから目覚めてすぐの視界に、至近距離で自分を覗き込む顔が映り込めば、誰でもきっと混乱する。


 動揺している私に構うことなく、青年たちは同時に口を開いた。タイミングもさながら、口にした台詞まで全く同じだった。

 合わせ鏡のような彼らの顔の造りは言うまでもなく、声音も、灰色がかったブロンドの髪も、薄い青紫色の瞳も、違いがわからないほどよく似ている――まぁ、彼らは双子だから似ていて当たり前なのかもしれないけれど。


「「気分はどう?」」


 こてり、首を傾げるタイミングまで全く同じだ。

 

 この2人は、何もかも揃えないといけない使命でも背負って生まれてきたのだろうか?

 ……何て、馬鹿らしいことを考えられるくらいの余裕が出てきたところで、ゆっくりと口を開いた。


 取り敢えず、彼らの質問には「少し頭がぼんやりするけれど、大丈夫です」と答えておく。


「……ここは?」

「「君の部屋だよ」」


 一瞬、ちらりと視線を交わした後、また声を揃えて答える――ミュラー兄弟は、やっと私の傍から離れた。

 一歩二歩と、彼らがベッドの傍から下がったことを確認して、私はそっと体を起こした。


 ゆっくりと部屋の中を見渡す。確かに、ここは私に与えられた部屋で間違いないようだった。


「……私に、何があったんですか?」


 フリンメルの森を管理する者が時折使用すると言っていたコテージ、任務中は第四部隊が拠点として使用している。

 しかし、確かにここは私に与えられた一室で間違いないものの、自分でベッドに入った記憶が一切ない。

 自身を見下ろせば、服装は部屋着ではなく団服のままだし、仮面も付けたままである。

 何故か靴だけはベッドの脇に揃えて置いてあるけれど。


 ――討伐に向かった記憶はあるのに、討伐から戻ってきた記憶はないわ。


 取り敢えず、マントだけは外して小脇に置いた。


 私が話を聞く体勢を整えたところで、ふたりが口を開く。


「君が魔力切れで倒れたから、ここに運ばれた」

「んでもって、俺たちはそろそろ目が覚めるかなー? って様子を見に来たってわけ」


 やはり、彼らは私の身に起きたことを把握しているらしい。

 しかし、聞き慣れない言葉に首を傾げた。


「“魔力切れ”……?」

「「そう」」


 魔力切れで倒れた?

 初めて聞いた言葉ではあるが……魔力切れの意味は、その言葉通りだろう。

 私の魔力が一時的に枯渇したらしい。

 少なくとも、今の私は体内に魔力の動きを感じているため、意識を失っている間でいくらか回復しているようだが。


 しかし、倒れた、というのは一体……?


 ふと、魔術を使い続けていた時に、強い目眩や手足の痺れが急に襲ったのを思い出す。

 あの突然の体調不良が、もし魔力切れに関係したのだとしたら。


「……魔力切れを起こすと、もしかして体調不良を起こして、最悪の場合――」


 考えついた可能性を口にするが、だんだんと声が小さくなっていく。


「「最悪の場合、気絶だね」」


 死ぬのでは、と一瞬過ぎった考えだが、そこまでのことにはならないらしい。

 彼らの言葉であっさりと、考えは覆された。


 それにしても、最悪気絶か……死なないから良かった、とは素直に喜べないわね。状況によっては、気絶=死という場合もあるでしょうし。


 ちらり、目線だけ動かして、私を見下ろす2人の顔を見上げた。


 何故ベッドで寝ていたのかその理由がわかったのはいい。……経緯を考えたらあまり良くないかもだけど。

 それと別に、もう一つ気になる点がある――どうして、この人たちは私に接触してきたのだろうか。


 入隊してから、約1週間といったところ。

 その期間、まともに顔を合わせて会話はしていない。このように近づかれることもなく、遠巻きに様子を伺われているくらいだった。

 というより、このふたりと会話らしい言葉を交わしたのは、これが初めてではないだろうか。


 一体どういう風の吹き回しか。 


「……ほんと、ベル隊長の言うとおり」


 くす、と笑みを零した方を見た。


「仮面で顔を隠してるのに、わかりやすい、ね?」


 やけに「わかりやすい」という部分を強調しながら、一歩離れた距離を詰めてくる。

 顔を覗き込まれ、怪しげに目を細められた。


「君の警戒は最もだ。あれだけ自分を邪険にしていた相手が、何事もなかったように近づいてくるなんて、何か裏があると思うのが普通だよね」

「……確かに、そう思ったことは認めます……が、それをわざわざ指摘した上に、敢えて同意するんですね」

「そりゃ、僕たちだって君のことを警戒しているもの。腹の中で思っていることは、お互い様さぁ」


 にんまり、意地悪げに口元を歪めた双子の片割れに、目を細めた。


「なら、どうしてわざわざ近づいてきたんです? いつもみたいに遠巻きにしておけばいい……どうせ、私は3年後にはここを抜ける身ですよ」

「そうだね。でも、3年間、同じ部隊にいて会話しないなんて有り得ないでしょ?」

「……必要最低限の接触はともかく、わざわざ近づく意味は?」


 確かに、彼の言うとおりだ。

 同じ部隊にいて、3年間近づくことなくいられるとは思っていない。

 仕事を一緒にする上で、報告や伝達といった接触は必ずあるだろうし、気に入らないからと距離を置くことだって現実的に考えて有り得ないだろう。


 けれど――仕事中ではなさそうな今の状況(プライベート)は、どうだ?


「少しばかり、君と仲良くしてもいいかなって思ったんだよね。ほんの少しだけ」

「……生憎と、私にはそんな気持ち微塵もありませんね」

「まぁまぁ、そう言わずにさ? 3年間一緒に仕事をする仲間になったんだし、ちょっとくらい打ち解けない?」


 どの口が言うか。

 思わず生ゴミでも見るような視線を向けると、堪えきれないとばかりに吹き出した。


「君も、騎士団の仲間になったのなら、もうちょっと表情を取り繕う努力をしないと」

「余計なお世話です」


 厳密に言えば、仲間になったのではなく“期間限定”の仲間になったのだ。

 そこのところはきちんと認識してもらわないと困る。


「あーあ、面白い」


 ひとしきり笑った後、目元に滲んだ涙を指で拭いながら、青年は私に片手を差し出した。


「何です、この手は」

「お近づきの印に、取り敢えず握手でもどう?」

「馬鹿にしてるの?」


 思わず敬語が外れた。彼らとの一線をはっきり示すため、敬語で接しようと決めたのに。


「大真面目だよ」

「ふざけているとしか思えないわね」


 ふい、と青年から目を離し「まだ体調が優れないの、出て行って」と告げる。


「ありゃりゃ、ふられちゃった」

「……クラウス、悪ふざけが過ぎる」

「悪かったって」


 態度を咎められたクラウスは、完全にそっぽを向いた私へもう一度謝罪の言葉を口にすると、くるりと踵を返した。


「様子も見れたし、気がついたってことを報告してくるわ」


 ひらひらと手を振りながら、もうひとりを置いて部屋を出ていく。

 しん、と沈黙がおりた。


「騒がしくてすまなかったな」


 ぼそり、沈黙が続いた中で呟かれた言葉だったので、聞き逃すことはなかったが、随分と小声の謝罪が耳に届いた。


「悪いと思うのでしたら、貴方も出て行ってくれませんか?」

「……ああ、そうする」


 声を揃えて喋っている時は思わなかったけれど、何だ、クラウスと比べると随分と大人しい。

 訝しげに逸らしていた顔を向けると、ほんのりと申し訳なさを滲ませた表情が目に入る。


「ゆっくり休んでくれ」


 そう言って出て行った後ろ姿を眺め、ふっと私はベッドに倒れ込んだ。

 ぼふん、と大きめの枕に頭が沈み、「はぁ」とため息を吐く。


 あ、なんだか頭が痛くなってきたような……。


 目を伏せて、額に手を当てる。

 ひやりとした感覚が手の平に伝わり、そう言えば仮面を付けたままだったのを思い出す。


「一体、何が何だか……」


 私に絡んできた方、クラウス・ミュラーの行動が謎過ぎる。

 あっちがクラウスなら、大人しかった方はユリウスの方だろう……ユリウスは絡んでくることはなかったものの、今までの距離感を考えるとやはりおかしいと思う。


 付けたままの仮面を外そうと、少し頭を上げて後ろの留め具に手を伸ばした。


 こんこん。ノックの音がして、外すのを止める。


「……はい」


 こういう時に部屋を訪れるとすれば、ベルンハルトかエドゥアルトのどちらかだろう。

 そう思って入室の許可を告げれば、入ってきたのはベルンハルトだ――ただし、その後ろにいたもうひとりは、マルセルだった。


 思わぬ人の訪問に、目を丸くする。


「先程クラウスから聞いたよ。休もうとしていたところに悪いね」

「……いえ」


 ベルンハルトの謝罪に、曖昧に返事する。


「少し話をしたいんだけれど、構わないかな?」

「……ええ……はい」


 またも、どこか曖昧な返事を口にした私に、ベルンハルトは片眉をあげた。

 私の意識は、何故かこの場にいるマルセルの方へ向いていた。そのことに気づいたらしい。


「彼のことは気にしないで」

「はぁ」


 にっこりと微笑まれながら告げられた。

 そうは言っても、やっぱり気になるんだけど……。




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