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 マルセルに時折手を貸してもらいながら進んだ先に、問題の場所を発見した。


 茂みに身を潜め、斜面の下の様子を伺うベルンハルトが、眉根を寄せる。


「やはり、報告よりも数が多いようだね」


 グフィという魔物の見た目は、猪に似ている。……あくまで見た目は。

 私が知っている猪は、地面の中をモグラのようには動かないはず。


「これは確かに放置していたら、最悪この森が潰れていたな」

「巣穴を見つけたのはいいが、どうする?」

「まずは穴からおびき出さないことには対処が難しいだろうぜ。あいつら素早い上に、地の魔術がお得意だからな」

「取り敢えず二手に別れようか」


 作戦はまとまったのかしら。


 少し離れた位置で立っていた私には関係ないだろうけど。

 相変わらず空気のような扱いだ。


 王宮騎士団第四部隊は、私を含めて8人で構成されている。

 私が入隊することを快く思っていなさそうなのが、4人。どちらとも言えないのが1人。

 腹の中は何を思っているがわからないが、表面上は歓迎してくれている姿勢のベルンハルトとエドゥアルトの2人。


 ベルンハルトは一度こちらを見たものの、結局何も告げずに他2人を連れて行った。

 その逆方向へ進み始めたのは残りの3人。 

 エドゥアルトだけがこの場に留まっており、ぼうっと立っている私の方へ近づいた。


「……私は、空にいたらいいんですよね?」

「うん。昨日と同じように、待機してもらうことになるんだけど……ちょっと予定が狂ったんだよね」


 狂った予定というのは……予想以上にグフィの群れが大きかったことを指しているのだろうか。

 

「空から確認しないことには何とも言えないけれど、グフィの巣穴は相当な数だと思う。だから、ミオちゃんには、今日は雷の魔術を使ってもらうつもりだ」

「雷の?」

「その代わり、今日は俺が補助として風の魔術を使うよ」


 まずエドゥアルトの風の魔術で飛行しつつ、魔物の巣の規模を確認、空から私が雷の魔術で巣穴を攻撃して、中のグフィを外へ追い出す作戦らしい。

 そんなにうまくいくかしら? と首を傾げるが、すでに決定事項のようで、エドゥアルトがさっさと魔術を発動させた。


 くん、と体が引っ張り上げられる感覚と同時に、独特の浮遊感を感じて反射的に眉を寄せた。

 この世界にきてから何度か空を飛んでいるけれど、なかなかこの感覚に慣れないものだ。


「こうやって俺がずっと支えているつもりだから、待機中のことは何も気にしなくていいからね」

「わかりました」

「昨日みたいに、奴らが何か良からぬことを仕掛けたら、止めてくれると助かるよ」


 グフィの援軍たちによって向けられた木の投擲のことを言っているのだろうか。


「さ、この辺りでいいかな」


 浮上の速度がぴたりとやんだ。

 高度はどれくらいなのだろう……結構な広さを見渡せる位置で止まった私たちは、きょろきょろと眼下の景色に目を配る。

 

「この高さじゃ、巣穴なんて見えないのでは?」


 例えば、下が森ではなく、ただの草原だとか砂地だとか、そういう環境であればこの高さでも見つけられたかもしれないが。

 そもそも、グフィの巣穴というのがどういうものか知らないし。

 空から巣穴を確認すると言っていたが、これでは難しいだろう。


「うーん、もう少しこのまま待機かな。幸い、今は日が昇ってからそう時間が経っていない。こちらが刺激しない限り、グフィは昼間までは巣穴で大人しくしているはずだよ」


 昼行性、それも活動開始は正午からってことかしら?

 確かに、昨日はお昼から空に赤みがかかる前まで戦いは続いていたけれど。


「昼間しか動かないんですか?」

「正確に言えば、正午から夕方までは地表で行動して、暗くなると地面の中で過ごす、朝方から正午までは巣穴の中で休息中ってところかな」

「へえ」


 一括りに魔物と分類しても、それぞれ生態の違いが存在する。

 本来、魔物とは魔力を持った獣を総称してそう呼ぶのだと教わった。これは極端な話だが、魔力を持った人間だってある意味では魔物と変わりない存在と言える。


 魔物を討伐するという依頼が来るのは、魔物に分類される獣たちの繁殖力が非常に高く、人間の生活を脅かす危険性が高いからだ。

 魔物は魔力に惹かれやすい。だからこそ、人が多く集まる都市や街などは狙われる確率が高いのだ。


 ここ数日で教わったことを頭の中で復習しつつ、エドゥアルトの言葉にも耳を傾けた。


「ここからグフィの巣穴を見つけるのは困難だというのは、わかりきっていたことだからね。二手に分かれたベルたちがまず巣穴の位置を探る。見つけたら――」


 何かを言いかけたエドゥアルトが、言葉を一旦止めてにやりと笑みを浮かべた。


「――ああやって合図が出る」


 木々の間を縫って突き出した、やけに背の高い木を指差す。


「今のはきっとベルだな……」


 次に、別の場所から似たような木が突き出た。


「あれはきっとカシミールだ」


 カシミール、と出た名前を呟いて、あの赤毛の人のことか、とひとりの男の顔を思い浮かべた。

 やけに顔の整った第四部隊の面々の中でも、一番人に好かれそうというか、突っつきやすそうというか、親しみやすい顔つきをしている。


 私と第四部隊の人たちが対面したあの日、扉を開けて実質顔を合わせた最初の男だ。

 カシミール・アイヒホルンという名前だったかな。


「随分と巣穴が密集している場所に赴いたみたいだなぁ」


 エドゥアルトの見立てでは、緑の魔術を使っているのはカシミールらしい。

 立て続けに突き出す木を目で追っていると、「うーん、予想以上」と困ったようにエドゥアルトが声を漏らした。


「本当、こんなになるまで放置していたのかと思うとゾッとするよ……比較的好戦的ではないとは言え、繁殖期を迎えた時を考えるとね」


 普通の動物でもそうであるように、子供を産んだ魔物は凶暴性が増す個体が多い。

 人に危害を加えることがあまりない種類でも、その時期は油断してはならないのだ。


「さて、と。なかなかの数だけど、問題はないかな?」

「あの木の周辺に巣穴が存在すると思っていいのでしたら、その周辺にだけ影響が出る程度に調整します」

「そうだね。あくまで、巣穴のグフィたちを刺激するだけで大丈夫だ」


 ただ、休息中のグフィたちが慌てて巣穴から飛び出すように仕向ける威力って、具体的にどれくらいなんだろうか?

 下手に強くし過ぎて、巣穴の位置を探っている仲間に被害が出てはいけないし。


 最初に突き出した合図の木と、次に突き出した合図との距離が十分開いていることを確認して、私は手のひらを地上に向けた。


「試してもいいですか?」

「もちろん」


 放たれた閃光は、真っ直ぐに伸びた木の周囲を覆うように降り注いだ。

 轟音が響く。


 このくらいでいいのだろうか? 首を傾げつつ、ちらりとエドゥアルトを伺えば、頷きがひとつ返ってきた。

 なるほど、これでいいのね。


 もう一発、と放った雷の魔術も、先程と同じような威力だ。

 数回連続で行使すれば、コツはだんだんと掴めてくるもの。

 だんだんとリズミカルに雷の魔術を放ちながら、目に見えて溢れてくる魔物の姿を視界に入れる。


「いい感じに追い出せているね」


 エドゥアルトにとって、眼下の状況は好感触らしい。


 グフィたちも雷に驚いて逃げ惑っていたが、徐々に空から攻撃をされていることに気づいたのだろう。

 昨日と同様に、ただ昨日と違うのは、空から攻撃を仕掛ける私を狙って明確に攻撃を向けてきたことだ。

 地の魔術で吹き飛ばされた木の残骸が、真っ直ぐに私たちを目掛けて飛んでくる――それを、火の魔術で呆気なく灰に変えた。


 そうそう、本当はこれがやりたかったのよ。


 昨日はひとりで空を飛んでいたからできなかったが、今は体をエドゥアルトに支えてもらっている。

 思う存分に魔術を扱えた。


「ふう」


 しかし、さすがに連続で魔術を行使したからか、疲労感を覚え始めた。

 思わず漏れたため息を拾ったのか、エドゥアルトがこちらを向く。


「大丈夫?」

「ええ、問題ありません」


 疲れてはきたが、まだまだ魔力の余裕を感じる。

 軽く頭を振って、両手を構えた。





 ――……下の様子は、かなりすごいことになっている。


 討伐も大詰めといったところか、私の放った魔術の影響で、巣穴から飛び出したグフィを容赦なく狩っていく様は、思わず眉根が寄るものだ。

 貴族のご令嬢が目にしたら卒倒するのではないだろうか。


 討伐しなければならないことは理解しているものの、やはり生き物が狩られていくのを見るのは気分が悪い。


 恐らく顔色が悪いのだろう、先程からエドゥアルトがしきりに私の方を振り返っている。


火よ(ファイロ)


 下の戦況の余波か、時折空へ飛ばされる木の残骸などを火の魔術で処理をするのがメインになってきた。

 巣穴を見つけた合図として突き出た木は、数刻前にぱたりと動きを止めていた。

 しかし、それまでに出た合図は百を超えているかもしれない。一個の巣穴に何匹のグフィが暮らしているのかはわからないが、個体数は何千匹以上といったところだろう。


「あの辺りなら攻撃しても大丈夫だ」

「了解」


 他の第四部隊が交戦している場所を避けて、グフィが密集している場所へ雷の魔術を落とす。

 魔術には相性が存在する。通常の力関係なら、地の属性の魔物に雷の魔術は効果が少ない。しかし、私の雷のランク付け(・・・・・・・・・)は最高ラン(・・・・・)クに位置する(・・・・・・)


 最高ランクの魔術をお見舞いすれば、相性が悪く、いくら効果が少なくとも無事ではすまない。


「っ、」


 くらりと目眩がした。

 先程から感じる疲労感も、強くなってきている気がする。

 貧血――? 眉根を寄せて、息を吐き出す。


「ミオちゃん?」


 様子がおかしい私に声をかけてきたエドゥアルトの方を向こうとして、


「――?」


 ぐにゃりと視界が歪んだ。

 手足が痺れ、バランスが取れなくなる――ああ、これはまずい。



 ぐるぐる回る視界、靄がかったようにぼうっとする頭――突然の事態に抗うこともできず、ふっと、私は意識を手放した。






 今後、話の流れで本編に書く可能性がありますが、この物語における魔術の相性について記載します。


 魔術の種類は全部で“7種”(内、1種類に関しましてはこの場では伏せさせて頂きます)。

 相性関係は、以下の通りです。


 水→火

 火→緑

 緑→地

 地→雷

 雷→水  


 (力関係は、強い力→弱い力 と見ていただければと思います)


 なお、風の魔術に関しましては、特にこの力に弱い、強いということはないです。

 また、相性の優劣はあるものの、術者の能力次第では相性の力関係が無効になる場合もあります。


 今回のお話でちらりと出ましたが、地の属性の魔物にミオの雷の魔術が効いたのは、単純にミオの力が強いからです。


 力関係はあくまで一般論、規定というだけなので、「個人の持つ魔力の強さと量が全て、単純に力の強い者が“強い”」の世界。


 この場では、取り敢えず相性についてお話してみました。

 ここまでお目を通してくださった方、ありがとうございます。


 是非、今後もお付き合いくだされば嬉しいです。

 よろしくお願いします。


 (後書きに記載している魔術の相性が一部抜けていたので加筆しました)

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