20
ブックマークありがとうございます
……――その後行われた測定の結果、私の能力は少し……いや、かなり……普通の人と比べると強かった、ということが証明された。
所謂“チート”に分類されるかもしれない。
懸念していた“英雄扱い”は受けていないものの、状況が状況だったら確実にその名声を手に入れていたであろう。もちろん、全力で拒否するが。
私が魔物モドキと対峙しているところを見た3人でさえ、正式に測って出た結果に唖然としていた。
ルワーノなんて驚き過ぎて、かなり挙動不審になっていたし。
――とにかく、言葉通り実力を見せつけた私は、取り敢えずは入隊を認められたわけだ。……もちろん渋々というか嫌々だったが。
「――っと」
少しぼんやりし過ぎたか。思い返していた意識を現実に引き戻す。
眼下の戦況を見る限り、劣勢ではなさそうだけれど。
「……ん?」
すっと目を細めて、気づいた違和感のある方向を見る。
ざわざわと揺らぐ木の動きが、どこかおかしい。
違和感の正体は、すぐに判明した。
爆発音によく似た凄まじい音と共に、揺らいでいた木々が吹き飛んだ。
その勢いのすごいこと、木の根元についた石や土も宙を舞い、やがて重力に逆らえず落下を始める――落下地点は、戦場となっている位置だ。
吹き飛ばされた木々の動きは、まるで竜巻に巻き上げられたようだった。
実際には竜巻ではなく、明らかに風の魔術を使われたことによる現象だろうが……とんだ災害だ。
「……敵側の援軍ってとこかしらね」
呟きながら、だらりと力を抜いていた両手を持ち上げる。
「風よ」
不測の事態には動いていいと許可は貰っている。まぁ、これが不測の事態かどうかはさておいてだけど。
練り上げたイメージが、落下する木々の動きをピタリと止めた。
一時停止した映像のように、空中で留まったそれらから視線を外し、地上の様子を確認する。
「援軍に気づいたかな」
あれだけ騒がれたら気づくか。
わらわらと土の中から現れた今回の“討伐対象”であるグフィという名の魔物。風の魔術と地の魔術を操る個体だ。
数匹だけならば対処に問題ないが、今回はその数の多さが異様だった。近隣の住人たちでは対処できないと王宮騎士団に討伐依頼がくるほどだ。
個体数を増やしたグフィの群れを討伐することが、第四部隊が請け負った任務内容である。
援軍として合流したグフィの群れに、強力な魔術が繰り出されるのを目で追った。
「……さてと」
眺めながら、魔術で止めたこれらをどうしようかと首をひねっていると、眼下の戦場から離脱してきた人影がひとり私の方へ近づいてきた。
「ミオちゃん、援護ありがとね」
軽い調子で私の隣に並んだエドゥアルトは、ピクリとも動かない木々などを見て関心したように頷いた。
勝手に動いたことに対するお咎めはなしのようだ。
「丁度いいところにきましたね」
「ん?」
「これ、どうしようか困っていたんですよ。副隊長って火の魔術使えます?」
私が空中で燃やしてもよかったが、そうなると風の魔術が扱えない……炎で燃やし尽くすまで火の魔術を使うとなると最悪地面と衝突だ。
木っ端微塵になるように風の魔術を操ってもよかったが、細かくなればなるほど取りこぼしが出て雨のように降り注いでしまうかもしれない。そうなれば、下の戦況に水を差すことになってしまう。
この木たちをどう処理しようかと悩んでいる最中だったところだ。
そこに丁度やってきたエドゥアルトは、その悩みの解決に貢献してくれるのではないだろうか。
そんな期待を込めて質問したが、返ってきた答えは残念ながら否。
「俺、火の魔術使えないんだよねぇ」
「……」
「仮面越しからでも伝わる冷たい視線を感じる……」
がっかりだ、という思いを込めて送った視線を受けて、エドゥアルトは口元を引きつらせた。
「俺は使えないけど、火の魔術で何をするつもりだったの?」
「燃やしてもらおうと思って」
「燃やしちゃうの?」
不思議そうに聞き返されてしまった。
「ずっとこのまま維持し続けるのも疲れます」
「維持しなければいいんじゃない?」
「落ちますよ?」
「うん」
当たり前だ、とばかりに頷かれ、私はちらりと眼下を見る。
つられたのか、エドゥアルトも目線を下にやって、派手に魔術が飛び交う様子を見た。
「落としたらまずいでしょう」
「まぁ、真下に落とされるのは困るけれど……例えば」
すっと戦況から離れた場所を指差した。
「ああやってどんどん溢れてくる奴らに投げるのとかどう?」
つまり、奴らが仕掛けた攻撃を、こちらもお返しするということか。
「私は別にいいですけど、そんな乱暴な攻撃していいんですか?」
「元よりこの森は、すでにめちゃくちゃな状態だよ。大丈夫、最終的に何とかすればいいんだから」
言い方は悪いけれど、森のことを考えていたら、このどう頑張っても状況は良くならないでしょう?
そう指摘され、それもそうかと納得する。
相手の魔物の攻撃はともかく、応戦する彼らの放つ魔術もかなり被害を拡大させる要因となっていた。
「森の被害は、多少目を瞑ってもらえるんですね」
「そうだね」
わかりました、と頷いて、両手をすっと広げた。
無造作に浮いていた木々が向きを揃え、全て地上に向かうように角度を調整する。
そのピシッと揃った動きを見て、エドゥアルトは面白いものを見るように目を細めた。「何を始める気だろう?」と興味津々な顔になる。
「風よ」
私は、もう一度風の魔術をかけ直した。
途端、地上を向いた木々の先端部分が削り取られ、鋭利で巨大な槍となる。
全てをそれに変えると、なかなか荘厳な景色だ。
「おお」
関心したようにエドゥアルトは声を出した。
「あの辺りにいるのは、全て討伐対象の魔物だと思っていいんですよね?」
最終確認だ。
エドゥアルトは私がこれから取る行動に気づいているだろう。
「遠慮なくいってくれて構わないよ」
ならば、遠慮はしない。
挙げた右手を、すっと振り下ろす――巨大な槍が、それを合図に一斉に地面へ降り注いだ。
木々を裂き、地面を抉り、ここからでは目視できないが……地面から這い出た魔物を次々と死に追いやっているだろう。
攻撃の手を緩めたところを見計らって、エドゥアルトが近くへ寄ってきた。
「見事だね」
一方的なな殺戮行為と取れる行動だった。
魔術とは、使う目的と目標を変えればとてつもない凶器となりうる。
褒められたことに、少し眉を寄せた。あまり素直に喜べることでもない。
「俺は下に戻るから、ミオちゃんは引き続き警戒をよろしくね」
「……はぁ」
ひらり、手を振って降下を始めたエドゥアルトにため息混じりの返事を返した。
私が入隊をすることを反対していない様子のエドゥアルトは、馴れ馴れしく「ミオちゃん」と相変わらず名前を呼ぶ。
一度抗議をしてみたが、抗議する私を面白がっているだけで、改める気はなさそうだった。……現に「ミオちゃん」と呼ばれ続けているし。
みるからに馴れ馴れしく接してくるのは、今のところエドゥアルトだけで、それ以外の人たちは私とは一線を置いている。
基本、必要最低限のことのみ言葉を交わすだけだ。
仲良くなるつもりがないので、私自身も壁をつくって接しているが……正直、この状態で“長くて3年”過ごさないといけないとは気が重い。
――私が、ベルンハルトと交わした条件。
私は、ずっと王宮騎士団に身を置くつもりはない意思をはっきりとさせた。
入ったら最後なんて、そんなことはありえないだろうと。
入隊するならば除隊も当然存在する。
『気づいていらっしゃると思いますが、私は王宮騎士団に身を置くことを快く思っていません。当然、許されるのであれば、今すぐにでも村に帰りたいくらいです。けれど……納得はできませんが、それでも私に非があったことも事実です。こうなってしまった以上は諦めます――が、損害賠償を全て支払い終わった時には、除隊することを認めてください』
働けば、その働きの対価に支払われる給金が存在することも当然だ。
約2000万ウイルと言われた賠償額だが、聞けば王宮騎士団の給金は一般的な仕事と比べ、かなりいいらしい。
無駄遣いせず真面目に働けば、3年もあれば2000万ウィルに近い額を稼げるだろう。働き次第では、昇給という形で貰える額も増えるとも教えられたので、うまくいけば3年もかからないかもしれない。
『……わかった』
渋々といった様子だったが、ベルンハルトは了承した。
もちろん、口約束だけでは心もとないので、書面に書き起してしっかりと判を押してもらっている。
その代わり、できる限りのことは力を尽くし協力することを約束するよう告げられる。
言われるまでもなく、こうなった以上は真面目に働くつもりだったので、これには素直に了承した。
その約束の一部、“常に仮面をつけて行動する”という命令を守り、王宮騎士団としての私は、人前で仮面を身に着け続けることとなった。
既に素顔を見られているベルンハルト、エドゥアルト、ルワーノ、フィナたちの前でならば外しても問題はないそうだが、その後顔を合わせた第四部隊の隊員たちには晒すなと念を押されている。
一応ベルンハルトから許可が下りれば外せるようだが。
3年だ。
何とか3年で私はまたクプソン村へ戻る。
それまで顔を晒さず、あまり目立たない行動を心がければ、除隊する時にすんなり消えられることだろう。
それまでの辛抱だ、と何度目になるかわからない言い聞かせを自分にした。




