第17話 マゼンタの悪魔㉟【赤染アンリ視点】
《快刀乱麻》解除。
体内に忍ばせた銀のレイピアを消滅させる。いばら姫にこちらの反射を読まれ、やつの《曼殊沙華》カウンターが通じない以上、この罠に意味はない。
思考の速さ、判断の速さ、対応の速さが全てだ。
同時ゲームに持ち込まれた以上、お互いに”一手”で決着がつく。
やつの《自在転移》を”反射”するか、しないか。ただの二択だが、間違えば即死する。
頬を大量の汗が伝い、くすぐったい。
マグマの温度で身体が悲鳴を上げている。
《無限再生》を発動し、熱中症で死ぬことはないけど、暑いものは暑い。
緊張……しているのか、私は。
「…………っ」
「…………」
いばら姫にも相当なプレッシャーがあるはずなのに、躊躇なく《八咫之鏡》を第三の腕が手のひらでタッチする。
何の躊躇もなく、”攻め”で来るか……。
防御、盤石、堅牢な戦闘スタイルを主としている、いばら姫にしては珍しい選択。
いばら姫の性格は好戦的、冷笑主義的な性格に見えるが、内実は保守的で慎重。
最後の最後で攻めで来るのは、私の思考を上回る為か……。
《自在転移》――ジザイテンイ――
《即死愛撫》――ソクシアイブ――
――――間に合え!
加速能力を発動。
完全に出遅れた。いばら姫を一瞬だけ見誤った。
死を覚悟しつつ、マグマの雨の隙間で私は能力を発動する。
《快刀乱麻》――カイトウランマ――
具現化する座標は、手元ではなく、《八咫之鏡》に重なるように。
反射キャンセルをするには、これしかない。
「…………っ!?」
《自在転移》は確かに発動した。
だというのに、私も、いばら姫も、転移していない。
いばら姫の、滑らかなシルクのような素足が視界に入り、違和感を抱く。
いつの間にか。いばら姫の履いていた靴が……消えていた。
……ということは、つまり。
……テスト、したということ。この状況で、自分自身でも、私でもなく、転移対象を自分の靴にすることで、《自在転移》の結果を検証したのだ。
こちらは命を懸けたというのに、この女。
僅かな敗北感に、苦笑すら零れる。
――――どうする。
初手がフェイクだった以上、”次”がくる。
剣と盾の重ねを解くか、否か。
――――どうする。
《自在転移》――ジザイテンイ――
僅かな逡巡すらあざ笑うかのように、再度いばら姫は能力を発動した。




