第28話 戦争開戦中編
時は戻って左翼側、ダードン国重鎧兵団及び軽鎧兵団と
ライネック国魔法兵団との衝突は激しい物となっていた。
舐めて掛かられているとは言え魔法による攻撃に、
重鎧兵団は守りを固めるしかなくその後ろに控えている軽鎧兵団も同様だった。
焦れて飛び出してくるのが今までのダードン軍であったが、
今回は守りを固めて動かず逆に魔法兵団の方が焦りが募って来ていた。
「おい、この調子だとMPが尽きちまうぞ」
「ああ、それになんて固い奴らなんだ、これだけ魔法を浴びてもびくともしないなんて」
「あれだろ?メイド達とエルフ達が攻撃魔法を緩和しているんだろ」
「やっぱりあっちから攻めるか?」
「ああ、そうだな」
じりじりとMP切れが気になった魔法兵団の一部が、
攻撃目標をメイド衆とハーフエルフの母親達に切り替え進軍して行った。
「嵌りましたね、援護隊は後退、軽鎧兵団は合図と共に横から切り込んで下さい」
魔法兵団が分断して進軍して来たのに乗じてニキは命を出してメイド衆と、
ハーフエルフの母親達を後退させ簡易的な釣り野伏せを敷いた。
魔法兵団の魔法攻撃に押されているように見せて後退した援護隊の横に、
隠れるように配置してあった軽鎧兵団が待ち構え、
釣られて押し寄せて来た魔法兵団の横合いから一斉に切り込んで行った。
「ちっ、横槍だと、舐めやがって」
「どわ、あっちからも撃って来やがった、不味いぞ」
「くそ、退け、退け、攻撃どころじゃ、わぁぁぁ」
「うわぁぁぁ」
軽鎧兵団が押し寄せ更にメイド衆が退くから一転して魔法攻撃を繰り出した。
それによって魔法兵団は完全に混乱に陥り次々と倒されて行った。
その最中ララがグルダボ国の猛者を一騎打ちで倒し、
兵の上陸を困難にさせたと言う報が舞い込み、
ダードン軍の士気は一気に押し上げられ重鎧兵団の前進が始まった。
「さて、私達の出番のようですね」
「うん、頑張るよぉ」
「皆、死ぬなよ?」
「はい、生きて勝利を掴み取りましょう」
士気が上がったダードン軍に引き換え魔法兵団はMPも尽きて来て、
軍はガタガタとなって行った。
MPが少ない魔法使いでは威力のある魔法が唱えられず、
重鎧兵団の装備に埋め込まれている魔法石だけで魔法による攻撃は無効化され、
イケイケ状態のダードン軍の下に四大魔術師が現れ進軍を止めようとしていた。
「情けない、MPを考えずに撃ち込むからだ」
「ほんに、だが奴らの装備…、魔法石付きだな、全部」
「ああ、あの女、偽の情報を送って来やがったな」
「けっ、あいつらの後に見つけて犯して、殺して、もう一回犯してやるよ、きゃっきゃっきゃ」
「それは止めておけ、あの女は王の女だからな、一応」
「関係ないだろ、見付けた時には死んでたって言えばな」
「ふっ、お前って奴は……、ちっ、誰だ?」
喋りながらも高威力の魔法を繰り出し重鎧兵団の進行を、
足止めしていた四大魔術師の所へニキとモニカ、フローリアにサランが現れ、
それぞれに威嚇の魔法を放ち挑発した。
その挑発に乗った4人は1人1人別々の方向に散らばって行った。
「誰かと思えばモニカ王女様じゃないですか、ささ、ご一緒にお兄様の所へ帰りましょう」
「嫌ですよぉだ、あんな気持ち悪い人の所にはぜぇぇぇったい帰らないですからねぇ」
「そうですか、ふぅ、本当は嫌なんですが、力ずくでお帰り願いますか」
「やれるもんならやってみて下さいですよぉだ」
モニカが誘い出したのはマッキンリーと言う魔術師で、
今はニキに変わって参謀術長をしている男だった。
四大魔術師の中では最も弱いとされているマッキンリーだったが、
モニカが方術士で攻撃魔法を得意としていない事は勿論知っていた。
自分に敵わないだろうと踏んで交渉を持ち掛けたがあっさり断ったモニカに、
ならばと構えを取って無理矢理連れて帰る事としたようだ。
それに対してモニカは舌を出して嫌悪を表し構えを取って対峙した。
「ひっひっひ、なんだいお嬢ちゃん、俺様に用かい?」
「ふふっ、汚い顔ね、見ているだけで吐き気がするわ」
「んだとこら、けけけ、僧侶のごときが生意気言ってんじゃねぇぞ、お前もヒイヒイ言わせてから殺してやろうか?」
「ふっ、遠慮して置くわ、強姦プレイは御主人様と何度もしてるからね、顔を見ただけでも分かるけど、女の扱い下手そうね、ふふふ、ああ、だから強姦でしか性欲を解消出来ないのね、哀れだわ」
「て、てめー、俺様に向かって、あぁ、イラつく、本当ならモニカ王女くらいのガキを犯して殺すのが好みだが、てめーはただ犯すだけじゃ済まさねーぞ、ボロボロに犯し殺して死んでからもう一回犯してやるぜ」
「モニカちゃんくらい?あんた、子供を?」
「ああ、いいぜー、ガキは、キャンキャン鳴いて死んで行く様なんか特にな、もう何十人と殺して来たよ、きゃっはっは」
「そう、子供をね……、ぶっ殺すぞ、死にやがれぇぇぇ」
四方に散ったフローリアの方にはゴロアと言う魔術師が誘い出されていた。
この男は四大魔術師の中で1番残忍で欲の深い男であった。
そのゴロアはフローリアとの会話中異常な性癖の話を持ち出し、
子供を犯してしかも殺すのが好きだとフローリアに向けて述べ大笑いした。
フローリアは会話中ずっと不適な笑みをしていたが、
その話を聞いた途端笑みは消え目が据わりメイスを持つ手に力を込めて、
ゴロアに飛び掛って行った。
「私と勝負する気か?」
「ええ、意味のない戦争を終わらすにはあなた達を止める以外ないから」
「なるほど、だが私は強いぞ?」
「私も弱くないですよ?受けて立ちますか?」
「面白い……、来い」
フランが誘い出したのはシュルップと言う魔術師で実力もかなりの男で、
魔法兵団副長を務めていた。
この男は多弁ではないようでフランと対峙してすぐ構えを取り、
フランもそれに合わせて構え先制の一撃を放って行った。
「これはこれはニキ様、お久しぶりですな」
「ええ、そうですね、しかし、あなた方も変わらないですね、王を筆頭に馬鹿さ具合が」
「ふっふっふ、これはこれは手厳しいご意見ですな、しかし王国を出て行った貴女が王を口悪く言うのはいかがな物と思いますが?」
「譲られた王位をそのままに、きちんとした王政をしていたならこんな事は言っていませんよ?まあ、土台無理な事とは思っていましたけどね」
「ふっ、王女様に目を掛けられていたからって調子に乗りおって、最強の魔術師が誰か見せてくれよう」
「どうぞ、最強とやらの力、存分にお見せ下さいね」
「一瞬で消し炭にしてくれるわ、火炎よ焼き尽くせ」
ニキが誘い出した相手は魔法兵団団長のダンカムで、
実力だけならアイリーンが女王をしていた頃から最強と謳われていた。
しかしアイリーンは余りダンカムを信用せずニキを重用していた為、
腹に据えかねて日々を暮らしていた。
そして本日敵同士として対峙した事に積年の恨みを晴らせると、
ダンカムは自信が唱えられる最大威力の魔法をニキへ放って行った。
ほぼ同時にぶつかり合って行った4人の中で、
即勝負が決まったのはフローリアであった。
「へっ、馬鹿め、突っ込んで来るなんてよ、土の壁よ押し潰せ」
「うらぁぁ、木の枝よ土壁を破壊して奴を捕らえろ、とりゃぁぁ」
「ぎゃっ、し、しまった、僧侶は木属性が得意だったっけか、ぐぎぎぎ、は、剥がれねぇ」
「子供を玩具のようにして来た事、死んで詫びな」
「うぐぐ、ま、待て、悪かった、俺が悪かったから許せ、な、許してくれ」
「償いは神の御前でしなさい、さようなら」
「はぎゅっ……」
怒りに任せて飛び込んで来たフローリアに対して、
ゴロアは土属性の魔法を唱えて突撃を防ごうとした。
しかしフローリアは土属性の弱点である木属性の魔法を使ってそれを粉砕し、
更にゴロアをも捕まえ身動きをさせなくさせた。
頭だけ残して木に覆われたゴロアは目の前に居るフローリアに命乞いをしたが、
当のフローリアはその言葉には一切耳を貸さず、
魔法ではなく手に持つメイスでゴロアの顔面を打ち据え破壊し絶命させた。
「御主人様との約束破っちゃったな…、嫌われたらどうしよう」
首のないゴロアの死体の前でフローリアは勝利の喜びよりも、
シュンとの死者を出さないと言う約束を破ってしまった事に胸を痛め、
暫く呆然とその場に立ち竦んでいるのだった。
フローリアが早々にゴロアを打ち倒し、
残りの3人の中で次に勝利を収めたのはニキであった。
「ふははははは、どうだこの威力、ああ、消し炭になった者に答えられる口はないか、はっはっはっは」
「はっはっはっは、シュン様のお言葉を借りると、温いと言った表現でしょうか」
「な、なに?き、貴様、何故生きている?」
「何故?何故って、あなたの魔法が大した威力じゃないからとしか言いようがないですけど?」
「馬鹿な、馬鹿な、馬鹿なぁぁ、なにかの間違えだ、火炎よ飛び狂え、おらおらおらぁ」
「ふふっ、この程度で冷静さを欠くとは…、業火よ火炎を飲み込め」
ダンカムは最初の一撃で勝利を確信していたが、
同じ魔法で相殺していたニキはダンカムと同様の笑い方で返事を返した。
そんなニキにダンカムは驚く事しか出来ず、
焦りと怒りで連続した火属性魔法をニキに放って行った。
その魔法も最強を自負するだけあって並みの威力ではない物の、
ニキは更に上回る魔法を唱えてそれを飲み込んで行き、
透かさず他の魔法を唱え放って行った。
「土の矢よ大きく1つになって穿て」
「く、くそ、奴がこんな魔法を唱えられるな、ぐぁぁぁぁ、馬鹿な、早過ぎ、る、あ、あんな、魔法の、あとに、違う属性の、魔、魔法を」
「意外とタフだったですのね、これで止めです」
「ぐっ、これ、以上やられ、ては、口惜しいが、て、撤退だ」
「待ちなさい、……逃げられましたか、まあいいでしょう」
ダンカムの唱えた火炎をニキが唱えた業火で呑みこんでいる隙に、
ニキは土属性の魔法を詠唱して作った土の矢を一纏めにして巨大化させ放った。
巨大な業火を放った後すぐに違う属性である土属性の魔法を、
ニキが放てるとは思っていなかったダンカムは、
その巨大な土で出来た矢を身体に直撃させ虫の息となった。
それを見たニキは更に魔法を浴びせようとしたが、
ダンカムは敵わないと見て逃げ帰って行きニキは一応の勝利に息を吐くのだった。
先制の一撃を放ったフランもまた激しい魔法の応酬を繰り広げていた。
「なかなかやるな、だが甘いわ」
「くっ、水属性の魔法?」
「ふっふっふ、私は四大魔術師の中で1番器用でな、どの属性魔法も扱えるのだ、火炎よ舞散れ」
「くぅ、火炎よ舞散れ」
「ふふ、まだまだ、火炎よ舞い狂え」
「きゃぁぁ」
フランが先制して出した火炎をシュルップはいとも簡単に防いで見せた。
その際に見せた魔法は攻撃魔法が得意な魔法使い系では余り使われない、
水属性の魔法でフランは少し驚いてしまった。
そんなフランにシュルップは微笑みを浮かべながら自分は器用なのだと言い、
火属性魔法をフランに次々と浴びせて行った。
第一陣は同じ魔法で相殺したフランだったが、
即襲い掛かって来た第二陣は反応し切れずもろに魔法を浴びてしまった。
「ほぉ、今のを浴びて大したダメージがないとはな、だがこれはどうかな?5つの属性よ散って華を咲かせよ」
「なっ、全ての属性を、きゃぁぁぁぁ」
「ふふっ、これで最後だ、火炎の玉よ燃え尽くせ」
「うぅ、お師匠様、私に力を、全ての属性に反する無の力よ一閃して貫けぇぇ」
「ぐふっ、なんだ今のは……、ぐわぁぁぁ、痛い、痛い、私の身体がぁぁ、くそ、なんだあいつは、う、うわぁぁぁ」
「くぅぅぅ、なんとか勝てましたか、はぁはぁはぁ、お師匠様のおかげですね」
火属性魔法だけでは大したダメージを与えられないと感じたシュルップは、
なんと5つの属性魔法を一斉に放ち浴びせ、
止めにと自分の唱えられる最大威力の魔法をフランに放って行った。
それを見たフランは避け切れないと判断して、
シュンから教わった無属性魔法を唱え火炎諸ともシュルップに向けて放った。
轟音と共に放たれた細長い魔力の塊は火炎を一瞬で消し去り、
シュルップの右上半身をも抉り去った。
勝利を疑っていなかったシュルップだったが自分には理解出来ない魔法を使われ、
右上半身を失った事で恐怖に襲われ逃げ帰って行った。
制御し辛い無属性の魔法を操った事でフランのMPは残り少なくなり、
シュルップに勝利した事で安心したのも重なりその場に座り込んでしまった。
最後にモニカの方は初歩の魔法の打ち合いで始まっていた。
「火の玉よ飛べ」
「水の玉よ飛んでけぇ」
「ふふ、やりますなぁ、ではこれはどうかな?土の矢よ飛んで行け」
「木の枝よ生えて落とせぇ」
「ふっ、やはり木属性は余り得意ではないようですな、土の矢よ爆ぜて襲え」
「あっ、やぁぁぁ」
「くく、では連れて帰りますか、これで王に借りが出来ましたな、ふふふふ」
初歩の火属性と土属性の魔法を放って行き、
木属性はやはり得意ではないと見破って土属性の魔法を更に放って行った。
礫のように襲い掛かる土の矢をモニカはかわす間もなく全弾浴び、
マッキュリーは勝利を確信してモニカの傍へ近付いて行った。
「へへへ、甘いですよぉ」
「なに?くっ、何故後ろに、こっちのモニカ様は……、まさか」
「そうですよぉ、それは水属性の魔法で反射させたモニカですよぉ、へへへ、騙されましたねぇ?」
「ぐっ、馬鹿な、この魔法は方術士の上のランク、聖者にならないと唱えられないはず」
「モニカはもう方術士じゃないんですよぉ、今はぁ、聖女ですぅ、へへへ、甘く見ましたねぇ」
「くっ、こんな短期間でランクアップしているとは、だが所詮方術士が少し強くなっただけだ、この距離なら、喰らえ、岩よ飛んで爆ぜろ」
土の矢が当たって立ち竦んでいると思っていたマッキュリーは、
後ろから声を掛けられ左腕に鞭を巻かれた事に驚いたが、
その事態をなんとか把握して推測を口にしようとした。
そんなマッキュリーの言葉より先にモニカが答えを言って述べ笑い、
方術士から聖女へランクアップした事も伝えた。
その言葉に驚愕したマッキュリーだったが、
至近距離からの土属性魔法は聖女になろうが相殺は不可能だと読み放って行った。
「水よ壁となれぇ」
「ぐぅぅ、なんだ、と…、何故水属性に俺の土属性が負ける、ありえない、ありえないぞぉぉ」
「モニカの方が魔力が高いんじゃないんですかぁ?」
「な、なんだと、嘘だ、嘘に決まってる、こ、こんなガキに俺が負けてるだと?」
「ぶぅぅ、モニカはお子様じゃないですよぉだ、もう大人ですぅ、お兄様と一杯愛し合ってますしぃ」
「王と愛し合ってる?」
「違いますよぉ、シュンお兄様です、えへへ、モニカやお母様達のぉ、旦那様ですぅ、あんな気持ち悪い人と一緒にしないで下さいっ」
「なっ、も、もうお手付きになっていると言うのか…、最早こんな事をしている場合ではないな」
「あっ、ま、待てぇぇ、あ~ぁ、逃げられちゃいましたぁ、捕まえて行けばお兄様に喜んで貰えると思ったのにぃぃ」
至近距離からの土属性の魔法をモニカは弱点である水属性で軽々防いで見せ、
ありえないと喚き散らすマッキュリーに、
自分の方が魔力が高いんじゃないかと教え示した。
それこそありえないとモニカの事をガキ扱いして喚くマッキュリーに、
モニカはもうシュンと愛し合っており大人の女性だと頬を膨らませながら言い、
それを聞いたマッキュリーはモニカが別の男に抱かれた事を、
早急にライネック王へ伝える為その場から逃げて行ってしまった。
まさかそんなすぐに逃げ出すと思っていなかったモニカは、
鞭を両手でしならせながら地団駄を踏んで悔しがっているのだった。
早々に勝利を収めたフローリアの元にニキが訪れ立ち竦んでいる様子に、
理由を聞き出してシュンも許してくれると言って慰めた。
その言葉になんとか気持ちを取り直したフローリアはフランの元へ行き、
疲れ果てているフランの傷を癒しモニカの所へも行き、
4人無事な事を確認し合ってメイド衆とハーフエルフの母親の所へ戻り、
ダードン軍の指揮を執り直して行った。
またもや時は戻って本陣として中央に控えているシュン達はと言うと、
魔人やグルダボ国の様子を窺う為迂闊に動けずただ待機している状況であった。
「ルーミアちゃんと赤狐ちゃん、いい仕事をしましたわね」
「うむ、このままではあの2人の活躍で、わらわの達の出番がなくなってしまうのぉ」
「うーん、あなた、旦那様にお願いしてわたくし達から仕掛けませんか?」
「そうしましょう、そうしましょう、お母さん、シュン様に言ってみて下さい」
「うふふ、はいはい、分かりましたよ、シュンちゃ~ん、ちょっといいですか?」
「うん?なんかあったの?」
ルーミアが開戦を告げる一騎打ちに勝利しその後すぐララが活躍を見せて、
両翼の働きも目に見えて良くなった事で、覇者であるアイリーンとチュヒ、
勇者であるユウとサリィ、そしてクインの5人は、
ルーミアとララの2人の活躍により戦況はかなり有利となり、
下手をしたら自分達の出番なくこの戦が終わってしまうと危惧していた。
その為サリィはユウに促される形で自分も進言したかった事をシュンへ伝えた。
「シュンちゃん、私達も打って出たいんですが、だめですか?」
「打って出るって~、お母さん達から仕掛けるって事?」
「はい、そうですわ、旦那様」
「ん~、大丈夫かな?」
「グルダボ国は赤狐が抑えていますしのぅ」
「このまま逃がせば魔人が今度良からぬ事を企てましょう、ですから」
「じゃあ、何かあったらすぐ退くって事ならいいよ」
「了解です」
サリィが打って出たいと願い出てシュンは今動き出して大丈夫か不安視した。
そんなシュンにチュヒがグルダボ国ならララが抑えていると言い不安をなくし、
アイリーンも魔人を残したまま撤退させるのはいかがな物かと付け加え、
シュンに進軍を決めさせた。
それによって右翼で騎士団を抑えているルーミアと、
四大魔術師と戦闘を行っているニキの変わりにメイド衆達に伝令を送り、
中央の進軍を妨げさせないように言い伝え進軍を開始した。
「王様、連盟国の中央軍が動き出しました」
「なんだと、馬鹿にしやがって、こちらも進軍だ、直接叩いてこの戦を終わらせてやる」
「くくく、覇者なんぞ俺達が打ち滅ぼしてやるよ」
「ああ、頼むぞ、だが母上は生きて寄越せよ?」
「はっはっは、お安い御用ですよ、まあ見てて下さいな、ひゃっはっは」
シュン達の動きを知ったライネック王は自分達の劣勢を感じ取っており、
むしろここで本陣を壊滅さえさせられれば、
逆転出来ると自分達もシュン達に向けて進軍を行って行った。
「ふふっ、あちらも向かって来ましたわね」
「うむ、戦況を覆すには旦那様を倒すしかないと考えたのだろうのぉ」
「はっはっは、わしがシュン殿を、指一本触れさせんわ」
「うふふ、あなた、頑張って下さいね」
進軍と言ってもシュン達は喋りながら前へ歩いて行くだけで、
邪魔が入る事無く円滑に進み連合軍の中央軍ともすぐに睨み合う形となった。
「情報通りただの優男だな、マルクスバンダミン王は勇者の母親を狙うのでしたな?」
「うむ、わしの庇護の下暮らさせてやった恩を忘れ、裏切り者に手を貸しおったからな」
「では魔人達は他のやつらを倒せ、余はあの男を相手しよう」
「くっくっく、あの男の相手は余がする、貴様のような雑魚は手を出すな」
「誰だ、俺様を雑魚呼ばわりする馬鹿者は?」
シュン達と対峙して誰が誰を相手するか確認をしていた最中、
突如ライネック王を侮蔑するものが現れた。
ライネック王はその言葉を聞いて激怒し振り向きながら大声で怒鳴った。
するとそこには3名の側近を携えたグルダボ王が控えていた。
「はっはっは、先程まで余と自分を呼んで上品ぶってはいたが、所詮、下賤者だな、ライネック王よ」
「グ、グルダボ、何故貴様が」
「あんたは連盟国の船団と海戦中だったんじゃ」
「ふふふ、話の前に、シュン クルスとやら、貴様の所の女戦士が怒り狂っておったぞ、あのままでは何をやらかすか分からんが、放って置いていいのかな?」
「なんだって、お母さん、リーン、ちょっと見て来る、この場は任せた」
笑いながらライネック王を更になじるグルダボ王に、
ダードン王とアイリーンは何故この場に居ると質問をした。
しかしグルダボ王はその答えを言う前に、この場に来る際見た、
エレアの暴神化をシュンへ教え伝えた。
それを聞いたシュンは真偽はさて置きさっさとこの場をサリィと、
アイリーンに任せてエレアの下へ飛び出して行ってしまった。
「くくく、即判断するか、いい大将に恵まれたな、ギムダインよ」
「ふふ、最高の飼い主様よ、飼い主様が戻られるまで手出しさせないわ」
「うむ、一歩も動かさないぞぇ」
「はっはっは、安心しろ、まだ話もしていないからな、貴様らも動いたらこの剣の錆になると思えよ?」
即座に飛び出して行ったシュンにグルダボ王は笑い声を上げながら、
アイリーンを見ていい大将だなと声を掛け、
アイリーンは最高の飼い主だと惚気つつ剣呑な表情でグルダボ王を警戒した。
チュヒもアイリーンに合わせてグルダボ王を牽制するが、
当のグルダボ王は安心しろと言ってライネック王達の方に剣を向け、
まだ戦いを始めるなと威嚇して見せた。
「ぐっ、貴様、味方ではなかったのか?」
「味方?はっはっはっは、余は余の国の兵でしか戦はせんわ、言うならこの戦は三つ巴ってやつだな」
「くぅ、余を騙したな」
「余?俺様じゃなかったのか?はっはっはっは」
「ぐぅぅ、貴様」
「ふっ、止せ、お前じゃ余の足元にも及ばん、ん?早いな…」
「お待たせ、何ともなかった?」
「はい」
「それは良かった、いや~、グルダボ王の言う通りエレアさんがヤバイ状態だったよ、教えてくれてどうもね」
「くくく、敵に感謝するとは、随分と余裕だな、まあ、だからだな」
連合軍には歯牙にも掛けないグルダボ王は戻って来たシュンを見て威嚇を解いた。
帰って来たシュンは何事もなかったか確認を取った後、
エレアの状態を話してグルダボ王に感謝の言葉を伝えた。
それを聞いたグルダボ王は敵に感謝するとはと笑いつつ何か納得した表情をした。
「なにが?」
「ふっ、あの赤狐といい、覇者の4人といい、貴様のそう言う所が惹き付けられるのだろうなと、言う事だ」
「うん?」
「くくく、分からんなら分からんでいい、さて話は終わりだ、余は貴様と戦いに来たのだからな」
「なにーー、なんだと?ぐぬぬぬ、おい、あのガキを殺せ」
シュンとグルダボ王が話している最中ライネック王の下にマッキュリーが現れ、
モニカと交わした会話を報告していた。
その報告に激怒したライネック王はグルダボ王と話しているシュンに、
すぐ横に居た魔人を嗾けさせて行った。
それと同時にグルダボ王が引き連れていた魔人もシュンへ襲い掛かって来る。
「ふっ、魔人よ、貴様の相手はわしだ、シュン殿には手を触れさせんぞ、はぁぁぁ」
「グルダボよ、おぬしの所の魔人は大将の指示なしに飛び出すのかぇ?まあよいわ、えぇい」
「久方振りに我も本気を出してみるかな」
「飼い主様、グルダボのガチムチは任せましたわ」
「あぁ、どっかのガチムチってグルダボ王の事だったんだ…」
「……余は男は抱かんぞ、ギムダインめ、あいつから殺してくれようか」
シュンに飛び掛って来たライネック王側の魔人をダードン王が、
グルダボ王側の魔人をチュヒが防ぎ止め押し出して行った。
それに合わせてサライネフ王もライネック王の魔人を1人連れ去り、
アイリーンはグルダボの事をガチムチと比喩しながら魔人と対峙して行った。
アイリーンの言葉にシュンは以前から、
どっかのガチムチと話が上がっていたのを思い出し呟き、
それを聞いたグルダボ王はそれを否定しながらアイリーンに殺意を示していた。
「ふっ、恩知らずのルーベンス、この手で鉄槌を下してくれるわ」
「あらあら~、シュンちゃ~ん、ちょっと行ってきますね~」
「お母さん、ああ、行っちゃいましたね」
「うん、実に呑気に連れ去られたね~」
「おい、お前も勇者だな?僕と勝負しろ」
「いいですよ、シュン様、私も行って来ますね」
「うん、ユウちゃん、気を付けてね」
「はい、シュン様の所にすぐ戻って来ますね」
覇者と魔人の対決となりムルクスバンダミンも、
サリィに突撃する形で押し出して行った。
そしてグルダボ王の息子である勇者もユウ剣を向けて挑戦し、
それを受けたユウはグルダボ王の息子と共に少し離れた場所へ駆けて行った。
「くっくっく、クルス王よ、奴らの戦いを観戦すると言うのはどうかな?」
「いいけど、俺は王じゃないよ?」
「ふふふ、まだ、王じゃなかったか、これは失敬」
「まあいいけど、じゃあ暫し観戦だね」
「ああ、久しぶりにいい戦いが見られそうだ」
前面に散らばって行った者達の戦い振りを観戦しようとグルダボ王が言い、
シュンはそれに首を縦に振って認め、
お互いがお互いの陣営から用意された椅子を並べ合っての観戦となった。
「旦那様、離れてお座り下さいまし」
「グルダボ王、危険過ぎます、速やかにお離れ下さい」
「平気だって、グルダボ王、お互い剣を手放して置く?」
「はっはっは、小煩い家臣を持つとお互い苦労するな、ほら、これで文句はないだろう?」
「王様…」
「シュン様……」
「大丈夫だって、おお、凄いね、ダードン王の剣捌きかっこいいな~」
「はっはっは、ダードンの奴、貴様が見てると張り切っておるわ、おい、ライネック王、そこに立って居ると邪魔だ、しゃがめ」
「な、なにを……、は、はひぃ、た、ただいましゃがみましゅ」
残されたクインとダードン王の王妃にサライネフの王妃、
グルダボ国の側近2人は並んで座るのを良しとせず焦止めようとしたが、
2人は剣をそれぞれに手渡してこれならいいだろうと戦いに見入って行った。
その様子に止めようとした5人も呆れて口出しせず警戒するだけに留めて行った。
途中ライネック王が邪魔でグルダボ王が怒気を発した以外、
戦闘の最中は両者親友のように語りながら観戦を楽しんでいたのだった。
戦争が2話で収まりませんでした。
次回で戦争は終わるはずです…。




