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第29話 戦争開戦後編

「ぐぉぉ、邪魔をするな」


「ふん、シュン殿の所には行かさんぞ」


「ちっ、戦士タイプの鈍い覇者の癖に出しゃばるんじゃねぇよ、闇よ覆い尽くして影を、ぐあっ」


「誰が鈍いと?そりゃぁぁ」



シュンに襲い掛かって来た魔人の一撃を大盾で防ぎ、

そのまま猛進して押し出して行ったダードン王は重鎧を装備していながら、

俊敏な剣技で魔法を詠唱する魔人を斬り払い魔法を撃つ暇を与えていなかった。

鈍重そうな出で立ちに甘く見ていた魔人はダードン王の剣筋を見極められず、

2回に1回はその身に切っ先が引っ掛かり少しずつではあるが、

ダメージを蓄積させて行った。



「おお、凄いね、ダードン王の剣捌きかっこいいな~」


「ダードンはハーフドワーフだからな、馬鹿力で剣を振れば、拙い剣技でもなかなか避けられんのだろう」


「あ~、ダードン王ってハーフドワーフだったんだ、でも剣の腕前も凄いと思うけど?」


「くくく、あれでか?ただ振り回しているに過ぎんよ、まあ、逆に言えばあの方が読まれ難いのは確かだな」



ダードン王が優勢に剣を振るっている様をシュンは感心して居たが、

グルダボ王はダードン王がハーフドワーフでありただ腕力があるだけで、

振り回しているだけだと解説した。

ダードン王が戦っているすぐ傍にはサライネフ王も優勢に戦いを進めていた。




「ふふふ、どうした?歯牙ないエルフの我に手も出せんのか?」


「ぐぅぅぅ、馬鹿な、たかがエルフにこんな力があるとは」


「補助魔法を甘く見過ぎたな、まあそれ以上におぬしが弱過ぎる、もう良い、とっとと消滅せい」



メイスと言うよりは最早大ハンマーのような得物を軽々振るい、

その細身からは想像も付かないほどの大打撃を与えているサライネフ王に、

こちらの魔人も全く歯が立たないでいた。



「覇者を舐め過ぎたな、1番弱いとされているサライネフだが、補助魔法を極めたあいつに何の策もなく挑むのは愚の骨頂だ」


「補助魔法も使い方次第なんだね~」


「だな、余も魔法自体詳しくないからよく知らんが、1つに長けた者を甘く見た、あの魔人が馬鹿だったな」



補助魔法を駆使したサライネフ王の戦い振りを冷静に解説するグルダボ王に、

シュンは頷きながら聞くしかなかった。

実の所シュンも補助魔法を余り意識した事がなく、

元居た世界でやっていたゲームでも補助魔法は無駄としか思っていなかった。

しかしサライネフ王を見てその認識を改めたのであった。

そしてもう一箇所激しいぶつかり合いを繰り広げていたのは、

サリィとムルクスバンダミン王であった。




「裏切り者めぇぇぇ」


「………」


「おらぁぁ、はぁぁぁ」


「………」



いつもはのほほんとしながら多弁であるサリィだったが、

二刀流のムルクスバンダミン王が繰り出す猛攻を一言も発さず、

剣と盾で防ぎながら絶えず動き回っていた。



「やっぱり覇者と勇者じゃきついのかな?」


「うん?何がだ?」


「あ~、お母さんはいつもおしゃべりなのに、今は何も喋らず防いでるだけだから」


「くっくっく、勇者の母が心配か?」


「そりゃ~ね、いざとなったら俺が」


「ふふっ、要らぬ心配だよそれは、勇者の母、ルーベンスはまだ半分も力を出してはおらんよ、なんせあの女は俺に次ぐ実力の持ち主だからな、本来ならムルクスバンダミンなぞ、覇者になれるような男ではなかったのだからな」


「え?それってどう言う意味?」



普段とは違うサリィを心配するシュンだったがその言葉を聞いたグルダボ王は、

一笑してサリィの実力を語り心配は無用だと告げる。

そしてムルクスバンダミン王は覇者になるような男じゃないと語り、

シュンは良く分からず意味を聞いて行った。



「ルーベンスは覇者にならずに勇者として子を持ち、この世界を守ろうとしていたからな」


「え?覇者になった方がもっと世界を守りやすいんじゃ?」


「ふふふふ、余やギムダインを見て分からんか?覇者はどうしても王として祭り上げられてしまう、自由が利かないんだよ、余であってもな」


「そう?結構自由そうに見えるけど?」


「馬鹿を言うな、余だって政がある、まあ、余が治めている土地は皆戦好きだからな、その辺は自由だが、やはり民衆を統治するには自由がかなり制限されてしまう」


「へ~、意外としっかりしてるんだな~」



覇者となり自動的に王になると自由がなくなる為サリィは覇者にはならず、

勇者のままでユウを産み育て暮らしていたのだと説明するグルダボ王。

その説明になるほどと思うシュンだったが、

自由そうなグルダボ王にその事を言うと少し怒ったグルダボ王は声を荒げ、

自分だって政治はやっていると言ってシュンを感心させた。



「ふっ、貴様もいずれそうなるさ、女を抱いて満足している生活は今のうちだけだぞ?」


「ちょっ、そう言う諜報活動はだめだって」


「はっはっは、そんな下らん事するか、それにしなくても分かるわ、俺もそうだったからな、なんだったらこの2人をやろうか?代わりに誰か2人寄越せ」


「いやいやいや、俺の恋人は上げないよ?」


「ふっ、女は要らん、俺が欲しいのは兵を率いれる者だ、そうそう、来る途中見たが騎士団の何人かが捕虜になっていたな、あの者達を貰おう、鍛えれば更に強くなりそうないい男達だったからな」


「や、やっぱり、ガチム」


「違うわ、余は女しか抱かん、それも飛び切りの不細工をな」


「はは、ははは、そうなんだ、まあ性癖は人それぞれだけど、余り大きな声で言わない方が…」



真面目な話から一転して女性の話となり側近2人の女性の代わりに、

気絶させ捕らえた騎士団を欲した。

それを聞いたシュンはやはりそう言う趣味があるのかと疑いの目を掛けるが、

グルダボ王は慌てて否定し、しかも特殊な性癖まで大声で吐露してしまう。

それにはシュンも乾いた笑いしか出ずチラッと側近2人の女性を見ると、

ハァと溜め息を吐いて軽く呆れた姿が映るのだった。

そんな会話を交わしている間に次々と戦闘が終了して行き、

1番初めに終わらしたのはサリィであった。



「喰らえぇぇぇ」


「変わりませんね、何1つ、……ハァッ」


「ぐあっ、わしは覇王になったんだ、何故力負けする、く、くそぉぉ」


「己の為にしか力を使ってこなかったから弱いのですよ、たぁぁぁ」


「ぐっ、ば、馬鹿な、くそ、殺される、嫌だ、わしはまだ死にたくない、うわぁぁぁ」


「ふぅ、これで懲りればいいんですけどね…、さて、シュンちゃんに褒めて貰いましょ~っと」



ムルクスバンダミン王が必殺技としている左手の剣で払いながら、

右手の剣を打ち下ろす十文字斬りをサリィは盾で両手が重なった部分に当て、

力比べの状態にして防ぎそのままその両手を上へかち上げて行った。

そして両手を万歳状態で無防備になったムルクスバンダミン王の兜目掛け、

サリィは剣を素早く振り下ろし真っ二つにし睨みを利かせると、

恐怖を感じたムルクスバンダミン王は兵の事など忘れて、

1人城へ魔法を使って逃げ帰って行ったのだった。

勝利を収めたサリィはふぅと溜め息を1つ吐き、

いつものスマイル顔に戻ってシュンの元へ戻って行った。




「ぐぅぅぅ、これを喰らえ、闇よ玉となって爆ぜろ」


「ふふ、甘いな、光よ玉となって爆ぜろ」


「ぐあっ、俺の魔力を上回っているのか、くそ、闇よ呪いとなって纏わり付け」


「ほぉ、光よ浄化の衣となり遮断せよ」


「く、くそ、闇よ我が魔力を吸って剣となれ、くぅぅぅぅ」


「ふっ、己の魔力を武器としたか、なかなかやるな」


「くっくっく、余裕ぶっこきやがって、これは避けられねぇぇだろ、喰らえ」



ハンマーのようなメイスで大打撃を受けていた魔人は、

闇の魔法を使い劣勢を跳ね返そうとしたがそれもことごとく無効化され、

最終手段に打って出た。

自分の魔力を全て使い巨大な剣を生成した魔人は、

これならばと下卑た笑みを浮かべサライネフ王に飛び掛って行った。

流石にこの剣は強力だとサライネフ王も真剣な面持ちになり、

自分も取って置きの魔法を放たんと魔法詠唱し魔人を待ち構える。



「光よ悪しき者を滅せよ、破封」


「ぐあぁぁぁぁぁ、こ、これは、破邪魔法、がぁぁぁぁ、こ、こんな魔法使えるとは、ぐあぁ、あぁぁぁぁ」


「ふふふ、補助魔法だけが我の得意分野じゃないんでな、滅びろ魔人」


「ぎゃ、ぎゃぁぁぁ………」


「ふっ、下級の魔人に負けるほど平和惚けはしておらんよ」



サライネフ王が詠唱した破邪魔法を浴びた魔人は、

猛烈な光を発しながら膨張して行きそして破裂して絶命した。

魔人が消滅したのを見届けたサライネフ王は静かにシュンの元へ戻って行った。




「はっ、ふっ、たぁぁっ」


「くっくっく」


「そぉりゃぁぁぁぁ」



完全にワンサイドマッチになっているダードン王はその手を止める事無く、

剣を鈍器のようにして魔人をぶん殴っていた。

その野蛮とも言える攻撃に成す術なく打たれ続け、

ボロボロになって行ったように見えたが実は違かった。

魔人は最初こそ切り傷を負っていたが今はダメージを全く受けていなかった。



「ふぅ、ふぅ、ふぅ、攻撃が効かなくなったか」


「はっはっは、闇の力で、剣撃が効かなくなるようにしたんだよ、きゃっきゃっきゃ」


「ふふっ、その程度で舐めるなぁぁ」



剣での攻撃が効かないと分かったダードン王だったが、

それでも尚握った剣で魔人に殴り掛かって行った。



「無駄だと言っただ、ぐはっ、がっ、なん、だと?ぎゃ、うぎゃぁぁぁ」


「はぁぁぁ、はっ」


「ぎゃぁぁ、き、きさまぁぁ、ぐはっ、うぐぅ………」


「ふん、魔法を使えんわしでも魔力を剣に伝える事ぐらい出来るわい、シュン殿に挑み掛かるなぞ百年早いわ」



無駄に思える剣での攻撃だったがその剣には光属性の魔力が込められてあり、

一太刀浴びせるごとに痛打を魔人に与え、

最後に一太刀斬り上げて魔人を斬り殺した。

そして剣を鞘に収めたダードン王は小走りでシュンの下へ戻って行った。




「いや~、3人共強かったな~」


「ふっ、あの程度の魔人とお零れの覇者じゃな、あいつらに期待するか」



サリィとダードン王、サライネフ王が勝利を納めるのを待っていたかのように、

アイリーンとチュヒが対峙していた魔人と衝突して行った。



「ふっ、二流の魔人を倒していい気になってやがる、だが俺は違うぞ」


「ほっほっほっほ、二流が二流を侮蔑しても笑い話にしかなりませんわ」


「なんだと?俺が二流?舐めるなよ、火よ闇と混じれて煉獄となれ、はぁぁぁぁ、喰らえぇぇぇ」


「ふふふ、水よ光と混じれて聖水となれ」


「くそ、流石に合成魔法を扱えるか、だが威力なら俺の方があるかもな」


「そうかも知れませんわね、ふふふ」


「笑ってられるのも今の内だ、はぁぁぁぁ」



アイリーンと対峙していた魔人はやられて行った魔人達を、

二流と表現して侮蔑したがアイリーンは自分自身も二流だと笑って挑発した。

その挑発に少々怒った魔人はアイリーンに向けて、

火属性と闇属性を融合した魔法を解き放って行く。

それに対してアイリーンは水属性と光属性の魔法を唱えそれを打ち消したが、

魔法が衝突した際ややアイリーンが押し負ける形で消滅した為、

魔人は自分の方が威力は上だと確信して更に魔法を解き放ちに掛かった。



「合成魔法って難しいの?」


「知らん、余はそこまで魔法に詳しくないと言っただろうが」


「ああ、脳筋の部類だったね」


「き、貴様、余は脳筋ではないわ、脳筋とはダードンの事を言うのだ」


「グルダボ、貴様に言われたくないわ、魔法の素質はわしの次にない分際で」


「ええい、煩い、貴様らは少し煩過ぎだ、黙って鑑賞も出来んのか」


「俺は質問しただけなのに~、お母さん、グルダボ王がケチ付けてくるよ~」


「あらあら、いいこいいこ、自分の知らない事を聞かれて癇癪を起こしただけですよ、少し放って置いて上げて下さいな」


「だれが癇癪を、くそ、貴様らは揃いも揃って余を馬鹿にして」



アイリーンと魔人の合成魔法を見てシュンは隣に座るグルダボ王に質問したが、

知らんと一言で返され脳筋だったねとお返しの一言を発した。

その一言にグルダボ王は戻って来ていたダードン王を指し怒鳴るが、

言われたダードン王も怒鳴り返してその場は騒然となった。

自分も怒鳴って煩い癖に文句を言うグルダボ王に、

シュンはサリィに嘘泣きで泣き付きサリィは、

ただの癇癪だからグルダボ王が全面的に悪いとしてその場を閉めようとした。

その一言に納得が行かないグルダボ王ではあったがチュヒの方にも動きがあり、

また静かに観戦が再開された。



「なんじゃおぬし?旦那様にしか興味がなさそうだのぉ」


「当たり前だ、あいつは俺の弟を殺したんだからな」


「ぬしの弟を?あぁ、モニカ姫を誘拐して覇王を詐称しようとした馬鹿か」


「馬鹿だと?貴様だって騙された口だろう?どの口が言うか」


「ふん、わらわは騙されておらんわ、貿易商達との会合中に忍び込んで印を押して行かれただけじゃ」


「ふっ、ただの間抜けだったか、しかも女装癖の醜い化け物のな」


「くっくっく、化け物かぇ?そうかも知れんのぉ、普通の人はわらわをそう思うかもなっ」


「けっ、自分で認めてりゃぁ世話がないな、はぶしっ」


「なんじゃ?今のが避けられんのかぇ?魔人でもわらわは化け物のような存在なのじゃなぁ」



グルダボ王に連れ添われて現れた魔人は先の覇者詐称を企てた魔人の兄のようで、

弟を殺された怨みからかシュン以外興味をなさそうにしていた。

そんな魔人にチュヒは口から責め化け物と罵る魔人に対して、

俊足の一撃を喰らわして行った。

余りにも早いその動きに魔人は全く対処出来ず、

脳天に扇による重い一撃を喰らい早々に決着が付きそうな感じであった。



「ふっ、シュモンは並みの武道家では敵わないほどのスピードを持っているからな、あいつじゃ相手にならんかったか」


「ねぇ、あいつが覇王を名乗ろうとした魔人の兄だって知ってたの?」


「ああ、当たり前だ、あいつの弟を使って覇王を名乗らせようとしたのは余だからな」


「なんだって?なんでそんな事」


「ふっふっふ、貴様が現れるのを待っていたからさ、こっちの世界で余と対等に渡り合える、本物の覇王を出現させる為にな」


「おぬしが黒幕であったか」


「そう勇むなサライネフよ、あんな低級な魔人1匹で覇王を召喚させたんだ、この世界にはいい事だっただろう?それ以上に余の楽しみが増えたがな、はっはっはっは」


「でもなんでそんな都合良く出来たのさ?」


「そいつが占い師でな、美人過ぎて俺の趣味には合わないが、まあ、そいつも貴様に興味があるようだし、さっきの取り引き、いい返事を期待しているぞ?」


「あれってマジだったの?まあ、それは後で考えるけど、あっ、リーン」



覇王詐称事件がグルダボ王による差し金だと聞いて、

サライネフ王は怒りを露にしたが本物の覇王を世に出した事が狙いで、

結局はこの世界の為になったはずだと言って制し大笑いをした。

そこで疑問を持ったシュンは何故に都合良く行動を起こせたのか聞き、

グルダボ王は連れて来ている側近の1人を指し、

その女性が占い師であるからと単純明快に答えてみせた。

そしてその占い師の側近はシュンに興味があるからと先程の交渉をぶり返し、

シュンを見るグルダボ王にシュンは後で考えると曖昧に答えつつ、

戦闘の方に目をやるとアイリーンが危険に晒されている場面であった。



「火よ風と混ざり闇に纏われ煉獄の竜巻となれ、くくく、これで終わりだ、はぁぁ」


「ふ~ん、なかなかやりますわね、………」


「きゃっきゃっきゃっきゃ、呑み込まれやがったぜ、元女王も俺の魔力の前ではくそみたいな存在だったな、くあっはっはっは、ぐあぁ」


「ふふふ、魔力でわたくしに勝とうなんて甘過ぎですわ」



煉獄の竜巻に呑み込まれて行ったアイリーンは、

その中央で輝く光を浴びて立っておりレイピアを魔人に投げ放って突き刺した。

そしてその煉獄を纏ったまま魔人に飛び掛り、

突き刺さったレイピアを握り直し突き進んで行った。



「ぎゃぁぁぁぁ、な、何故煉獄の火を浴びて死なねぇ」


「ふふふ、こんな闇の火でわたくしが燃える物とお思い?飼い主様の愛撫の方がよっぽど身体を熱くさせてくれますわ」


「ぐわぁぁぁぁぁ、か、身体が持たねぇぇぇぇ、くそぉぉぉ」


「ふっ、丁度馬鹿の目の前で四散させて上げますわ、はぁっ」


「ぎゃぁぁぁぁぁ、無、詠唱、だ、と、ふぎゃっ、………」


「うふふふ、飼い主様、お約束は守れなかったようですわ、後でたっぷりとお仕置き、下さいまし」



煉獄の炎を纏ったままシュン達の居る方まで魔人を押し込んで行き、

ライネック王がへたり込んでいる目前で光属性の魔法を魔人に押し当て、

そのまま爆死させて勝利を収めた。

そして煉獄を纏い光り輝くアイリーンは、

目の前に居るライネック王には一瞥もくれずにシュンへ微笑み掛け、

なんとも美麗な表情で死者を出さないと言う約束を守れなかった事に対して、

お仕置きを要求しながら炎を鎮火させシュンの下へ歩き戻って来るのだった。



「女神みたいだ、凄く綺麗だよ」


「ふっ、女神か、あれはただの女狐だよ」


「うふふふ、ありがとうございます、それとガチムチ、あなたみたいな腐れホモではわたくしの美しさは分からないようですわね、残念でなりませんわ」


「き、貴様、腐れホモだと?余は女しか抱かんと何べん言えば」


「はいはい、飼い主様、チュヒの方も終わりそうですわね」



どす黒い炎の中に光り輝いていたアイリーンを女神みたいだと褒め称えたシュンに、

戻って来たアイリーンは嬉しそうにお辞儀をして礼を言った。

その後女狐だと罵ったグルダボ王に残念だと言い返して馬鹿にし、

その言葉に怒鳴り返そうとしたグルダボ王を遮りチュヒの方を指し、

シュンに見るよう促して会話を続けさせなかった。



「ぐあ、がはっ、ぐ、ぐぬぬぬ、どりゃぁぁぁ」


「ふっ、無駄な事じゃ、化け物にはそんな大振り当たらないぞぇ?」


「ぐぅぅぅ、舐めるなぁぁ」


「もう良いわ、これで終いじゃ、よっと」


「ぐぎゃぁぁぁぁ、がふ、はふぅ、む、無念、………」


「ほっほっほ、わらわに触れる事も出来んとはのぉ、さて、旦那様の下へ帰るかのぉ」



扇で殴りバックステップで距離を取ってまた殴ると、

終止同じ動きを捉え切れなかった魔人は手に持つ斧での大振りを繰り返し、

隙だらけになった顔面に扇による致命打を浴びて殴り殺されて行った。

呆気なく終わった勝負にチュヒはなんら感慨深さも持ち合わせず、

シュンの下へ戻って来た。



「チュヒ、物凄く強かったね、吃驚だよ」


「ほっほっほ、何を申されますか、旦那様に比べたらまだまだですわぇ、のぉ?妃よ?」


「ええ、そうですわねあなた、まだまだですわ、よっ」


「クインさん!」



優雅に歩き戻って来たチュヒを褒めるシュンだったが、

勝利して来た夫であるチュヒに向かって嫁のクインがいきなり矢を放って行った。

いきなりの行動にシュンは止める事が出来なかったが、

チュヒは慌てず扇でその矢を受け止めた。



「ぎゃぁぁぁぁぁ、な、何故分かった?」


「ほっほっほ、わらわ達を誑かそうとは愚かなり」


「え?何?」


「うふふふ、あなた?私にも活躍の場を?」


「うむ、わらわだけ活躍したら妃はご褒美を貰えなくなるかも知れんからのぉ」


「うふふふ、シュンちゃん、あの魔人は死ぬ間際にチュヒちゃんの扇に分身して隠れ潜んでいたのですよ、それをクインちゃんが矢を放って倒した、って事です」


「そうだったんだ」


「ふ、芝居好きもここまで来るとイカレているな、シュモンよ」


「ほっほっほ、ガチムチの戦争狂には言われたくないぞぇ?まあ、何はともあれ、後はユウちゃんのみだのぉ」



分身によって死を逃れた魔人の行動を読んでいたチュヒは、

妻であるクインにも活躍の場を与えようと、

わざわざ魔人が隠れている扇を持ったまま帰陣しクインにその扇の魔人を射らせ、

魔人を消滅させる手柄を与えた。

その光景にグルダボ王は芝居染みた真似をと非難するが、

チュヒは優雅に笑いながらグルダボ王に言い返し、

残るユウ達の方を眺めるのだった。



「で、こっちのこの篭手もね、軽鎧と同じで白銀製の大変高価な物で君のミスリル製なんかよりもよっぽど価格が高いんだ、このブーツもそう」


「………あれ、みんな勝って終わっちゃってますね~」


「あいつは何をやっているんだ?」


「さあ?なんかユウちゃんに色々装備を自慢してるんじゃ?」


「はぁぁ、余の息子なのになんとも情けない、さっさと勝負をしろ」


「あ~、始まるみたいだよ?」



グルダボ王の息子は他の者達が戦っている最中ずっと装備の自慢をし、

どれだけ高価な装備を着ていて金を持っているか示そうとしていた。

どうやらグルダボ王の息子はユウに一目惚れをしたらしく、

自分の装備より価格で劣るものしか与えていないシュンより、

自分の方に来たらこれだけいい物が装備出来ると口説いているようだった。

だがユウはそんな話は一切聞かず他の者達の戦い振りを見て学び、

自分も戦いの参考にしようと躍起であった。

そんな両者もいよいよ勝負の時が訪れた。



「ねぇ?聞いてるの?」


「はい?あ~、そうですね、リーンさんみたいに魔法での戦いは出来ませんけど~、ダードンの王様は凄く参考になりましたね~、凄かったですよね~」


「な、何の話だい?」


「え?だから~、誰の戦い方が凄く為になったかの話じゃないんですか~?」


「そんな話してないよ?え?何?僕の話全然聞いてなかったの?」


「あ~、うん、そうですね~、下らない話は聞こえないんですよ~、シュン様となら~、世間話でもエッチな話でも楽しいんですけどね~」


「な、なんだと、ぼ、僕の話を無視してたのか」


「まあ、早くやりましょうよ~、私も早くシュン様の所に戻って~、いいこいいこされたいですし」


「ぼ、僕とのお喋りより、あんな奴の所に戻りたいだって、何でだよ」


「五月蝿いですね~、しかもシュン様をあんな奴ですって?怒りましたよ、シュン様を侮辱されるのが1番嫌いなんですよ、私」


「え、あ、ちょっと?ぐ、ぐぅぅぅ」



下らない話には耳を貸さないと言いつつ、

シュンとのラブラブっぷりを言い聞かすユウに、

グルダボ王は怒気を込めてシュンの事をあんな奴呼ばわりした。

その一言に今度はユウの琴線に触れたようで、

それまでにへらしていた表情を一変させ目の据わった恐ろしい表情へと変えた。

その表情を見たグルダボ王の息子は余りの変わりように恐怖を抱き、

自慢していた白銀製の剣を鞘から抜いてユウと対峙して行った。



「う、うわぁぁぁぁ」


「………」


「く、くそぉぉ、やぁぁぁぁ」


「………」



恐怖に駆られたグルダボ王の息子からユウに斬り込んで行ったが、

自慢の白銀で出来た剣はあっさりユウに押し返され何度も挑み掛かる物の、

母親譲りの真剣勝負には無言で冷徹ささえ携えたユウには、

全く相手にされなかった。



「やぁ、はっ、くそ、なんでだ、僕だって勇者なのに、このぉぉぉ」


「………」


「やぁっ、ぶへっ」


「もういいです、私のパンチが避けられないあなたには興味が全くないです、出直して来て下さいです」


「な、なんだと、くそぉぉ、ちょっと可愛いからって舐めやがってぇぇぇ、どりゃぁぁぁぁ」


「………はぁぁっ」


「ひぐっ、あ、あわわわわ、そ、そんな……ああぁぁ…」


「シュン様との特訓、余り意味がなかったですね~、さようならです」



斬り込んで来たグルダボ王にユウは鉄拳でカウンターを施し、

全く避けれなかったグルダボ王の息子は正面から顔面に浴びぶっ飛んで行った。

それを見たユウはやる気が無くなってしまい出直せと辛辣な言葉を放ち、

剣を鞘に収めその場を後にしようとした。

しかしその言葉にカチンと来たグルダボ王の息子は、

自分も剣を鞘に収めて飛び掛り抜刀術の要領で斬り伏せようとした。

しかし剣を鞘から抜くのはユウの方が断然早く、

グルダボ王の息子の咽喉下に剣の切っ先を突き付け飛び掛りを阻止した。

自分より早く反応を示したユウの剣を咽喉下に突き付けられ、

グルダボ王の息子は情けない事に失禁してしまい、

それを見たユウは今度こそシュンの下へと帰って行ったのだった。



「情けない、情けなさ過ぎるわ」


「まあまあ、あんなユウちゃん相手じゃ俺だってちびっちゃうよ、ぷぷぷぷ」


「くそ、おい、余の剣を貸せ」


「あ、その、今日はもう退いた方が」


「煩い、余はこいつと剣を交えにわざわざ来たのだ、さあ、貸せ」


「ん~、いいけど、ここでやるの?」


「ああ、そうともさっ」



息子の不甲斐なさを目の当たりにし、シュンや旧知の覇者達、

それに周りにいる全員がクスクスと笑い、

シュンに慰めの言葉まで頂戴したグルダボ王は、

最早我慢がならないと側近から剣を奪い取ってシュンに斬り掛かって行った。



「おおっ、くぅぅぅぅ、凄い一撃だ」


「ちっ、何が凄いだ、3割も力を出していない癖に良く言う……」


「グルダボ、貴様」


「大丈夫、大丈夫、この剣いいね~、もしかして魔装備?」


「ふっ、覇者が魔装備を持てるか、これは聖剣だ、余のHPを吸って攻撃力にする優れ物だ」


「ええっ?HPを吸うって、呪われてるよ、それ」


「馬鹿を言うな、この世界ではこの剣が覇者の、人類にとって最高の剣だぞ、呪われてなぞ断じてないわ」


「いやいやいや、HPを吸収するならまだしも、自分のHPを使うだなんて、怖くて使えないよ、そんなの」


「ふっ、以外に臆病者だな、この身を使って戦う余にとってはこの剣は素晴らしい物だぞ」


「ま、まあ、そんな物騒な物は仕舞ってよ、みんなもこっちに来てる事だし」


「ちっ、確かにこのままじゃ全員を相手にしないと行けなくなるか、後ろの2人も含めてな」



斬り掛かって来たグルダボ王の一撃をダードン王の王妃に預けていた剣で、

何とか凌いだシュンはその一撃に感嘆するのだが、

グルダボ王はシュンが力を押さえていると悟り逆に言葉に詰まってしまった。

そんなグルダボ王にシュンは剣の性能を聞き呪われているのではと話を変え、

グルダボ王に剣を収めさせた。



「シュン君、相手兵の騎士を捕まえて参りました」


「うわっ、凄い数だね」


「はい、出兵して来た騎士、ほぼ全員が投降して来まして」


「………王1人で逃げたって聞いてやる気がなくなった」


「そっか~、どうしたらいいかな?」


「一応捕虜として連れて帰りましょう、で、ムルクスバンダミン国へ捕虜の受け渡しの代わりに、賠償を支払わさせる交渉を行いたいと思います」


「まあ、それは俺の出る幕じゃないからみんなで相談して決めてね」


「はい」


「おい、騎士団の中で一騎打ちで破れた奴らはどうした?」



ムルクスバンダミン王が逃げ帰ったと戦場に伝わった事で、

騎士団達との戦は終わりルーミア達が戻って来た。

その後ろには何千と言う兵達が捕られられザーナが経緯を語った。

そしてこの兵達を交渉の場に上げ賠償金を支払わせるとルーミアが伝え、

シュンは皆と相談の上決めてくれとその話を締めた。

するとグルダボ王がルーミアに向かって隊長格の者達はどうしたと質問した。



「うむ?その者達を連れて参れば良いのか?」


「あ、うん、ちょっと呼んで貰っていいかな?」


「はい、シュン君がそう言うのでしたら」



グルダボ王の要請にシュンも後押ししてルーミアに、

捕まえた隊長格の5人を連れて来て貰った。



「お前ら、ムルクスバンダミンの事だ、この負け戦、貴様らの所為にされるがそれでも国へ帰る気か?」


「……国には家族がいる、帰る他あるまい」


「その家族を救い出せるとしたらどうする?」


「その時はあんな王を見限って他に付く、出きるのか?」


「ああ、おい、クルス、赤狐を止めさせろ、余の敗北だと伝えてな」


「別にいいけど、取り敢えずララさんに伝令を」


「はっ」


「おい、こいつらを連れて戦艦をムルクスバンダミン国へ向かわせるように伝えろ、そして家族を収容したら余の国へ連れて帰れとも伝えるんだ」


「了解しました、その命が私達にとっては最後の命ですね?」


「ああ、あとはクルスの方に付け、今までご苦労」



隊長格に確認を取ったグルダボ王はシュンに、

ララへ自分達の負けを伝えて海戦を終わらすよう伝えろと言い、

側近の女性2人にも自軍に命令を伝えるよう言い放った。

その言葉に側近の女性は最後の命令か問い掛け頷いたグルダボ王は、

今までご苦労と労いの言葉を掛けて伝令をさせた。



「私はグルダボ国には行かんが?」


「うん?ふっ、貴様だけはムルクスバンダミンの下へ帰ると言うのか?」


「いや、私はルーミア様の下にお世話になりたいと考えている、親父も一足先に世話になっているしな」


「ふふふ、なるほど、忠義の厚い者こそ欲しいが、まあ良い、クルスよ、4対2の取り引きだが、構わんよな?」


「え?まあ、どうせ帰って貰うつもりだったから、本人がいいならいいよ?それにもう勝手に決めてたし」


「はっはっは、まあそう言うな、では余も戦艦に戻るとしよう、この者達を鍛え終わったら、貴様の首を頂戴しにまた来るからな、その時は覚悟しておけよ?はっはっはっは」


「ああ、やっぱりね、ああ、その4人の馬とグルダボ王にも俺の馬を上げるよ」


「ふふっ、ありがたく頂くか、……なかなかいい飼育がされているな、ではまた、余に殺される前に死ぬなよ、ああ、それからあの2人を幸せにしてやってくれ、はっ」



伝令を向かわせたグルダボ王に騎士団団長を勤めていた男が、

自分はグルダボ国へ行かないと理由を言って申し出た。

どうやらこの男の父親はシュンの下へ来た元副団長で、

ムルクスバンダミン王への恩はもう果たしたと、

父と同じくシュンの陣営に下る気であったようだった。

それを聞き許したグルダボ王はシュンにも了解を取ると自艦へ戻ろうとし、

そんなグルダボ王に自分の馬を譲り騎士団4人にも乗っていた馬を渡した。

それを快く受け取ったグルダボ王は、

最後に側近であった女性2人の幸せを約束させ馬を走らせ去って行った。

これにて連盟国対連合国の戦争は終結を迎えたのであった。

長かった戦争もここに終結です。

ご感想がありましたら何でもいいのでお書き下さい。

誤字脱字のご指摘も勿論受け付けています。

と言うかご指摘下さい、かなり多いので…。

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