グランバーバの不思議な旅のお話
グランバーバ女王は
きらめききらちゃん王女と
ときめきときくん王子のおばあちゃん。
宇宙船トレーラー号に住んで、旅をしています。
旅の途中には、ときどき
きらちゃんに会いに来てくれました。
けれど今度の旅は、ずいぶん長いのです。
ときくんが生まれる前に出かけたきりなので
ときくんはまだ一度も
グランバーバに会ったことがありません。
グランバーバの宇宙船トレーラー号は
とりあえずは宇宙船なので
たいていはお空に浮かんでいます。
けれど、お天気のいい日には野原に降りて
のんびりキャンプ。
かと思えば、ビューンとワープして
どこかの星の広場で
移動式のトレーラーカフェを開いていたりもします。
大昔の宇宙人が住んでいた、おうちの跡を
探検することだってあります。
そんな日は、そこでお歌を作ったり、絵を描いたり。
きらちゃんは、帰ってきたグランバーバから
旅のお話を聞くのが大好きでした。
「ウメ星のひとたちはね
しょっぱいものが大好きで
コーヒーにもお塩を入れて飲むのよ」
そう言いながら、グランバーバは
一袋が五キロもあるお塩を
どんどんトレーラー号に積み込みます。
またある日、きらちゃんが見にいくと
トレーラー号のまわりが
見渡すかぎりの、ひろーい牧場になっていました。
あっちにも牛さん、こっちにも牛さん。
グランバーバは
草を食べている牛さんたちのあいだを
飛び回っています。
「バターコーヒーに入れるのは
牧草だけを食べて育った牛さんのミルクで作る
バター。つまりは
グラスフェッドバターでなくっちゃ!」
コーヒーにバターを入れる
グランバーバにしてみれば
これは、とても大事なことなのです。
「それじゃあ、きらちゃん。
おいしいバターを持ってくるわね!」
(おいしいバターなら
わたしはパンに塗りたいなあ。
そうだ。ママちゃん王妃様に
パンを焼いてもらって待ってようっと)
そう、その日から
きらちゃんはグランバーバに会っていません。
おいしいバターを待っているうちに
パンが何度も焼けただけでなく
きらちゃんには、おとうとができました。
おとうとのときくんは、おっとりしているけれど
とてもかしこい王子です。
お姉ちゃんのきらちゃんは
楽しいことと、ひとを喜ばせることが
大好きな王女です。
何かに困ったときも
冒険やなぞとき遊びをするときも
ふたりはいっしょに考えます。
さて、今日は何をして遊びましょう。
「ねえ、ときくん。
グランバーバに会いに行こうか?」
「ぼく、グランバーバに会ったことない!
ぼくも、旅のお話、聞きたいな」
「うん、そうしよう!」
「そうしよう!」
ふたりはパンと飲み物をバッグに入れて
星空カートに乗り込みました。
さあ、エンジンをかけよう、というところで
ときくんが言いました。
「でもさ。グランバーバって
いま、どこにいるの?」
きらちゃんは、ハンドルを握ったまま
ちょっと首をかしげました。
「そうだ。どこにいるんだろう?」
ふたりはカートを降りて
キッチンにいるママちゃん王妃様のところへ
戻りました。
「ママちゃん、グランバーバって
いま、どこにいるの?」
「どこかわからないところにいるのよ」
「ママちゃんも、どこにいるかわからないの?」
きらちゃんが聞き返すと
ママちゃんは言いました。
「いいえ。
どこにいるのかわからないんじゃなくて
どこかわからないところにいるの。
『どこかわからないところ』というところに
いるのよ」
ふたりは、さっきよりも
もっとわからなくなりました。
これでは
どっちに向けてカートを飛ばせばいいのかさえ
わかりません。
「どこかわからないところへ行くより
お城で待ってたほうがいいんじゃない?」
ときくんの言うことも、もっともです。
きらちゃんも
いったんは、そうだなあと思いました。
けれど、もういっぺん考えてみると
こうも思えるのです。
「グランバーバが
どこかわからないところへ行ったんでしょう?
だったら、わたしたちも
どこかわからないところへ行けばいいのよ。
探しに行けば、会えるような気がする」
ときくんには、まだ、よくわかりませんでした。
でも、お姉ちゃんと探しに行くのには賛成です。
ふたりはパンと飲み物の入ったバッグを持って
もう一度、星空カートに乗り込みました。
今度こそ、出発です。
空高く駆け上がって
お城のまわりをぐるっとひと回り。
それから勢いよく
どんどん、どんどん飛んでいきました。
ずいぶん飛んだので
そろそろ、どこかわからないところに
近づいた気がします。
けれど、ここがほんとうに
「どこかわからないところ」かどうか
いったい、どうしたらわかるのでしょう。
ふたりの心が、はてな、はてなで
いっぱいになったころ
カートのすぐ横を、鳥の群れが飛んできました。
「ねえ、鳥さんたち。
どこかわからないところって、どこですか?」
「どこかわからないところを、知りませんか?」
鳥たちは、みんな
まっすぐ前を向いて飛んでいます。
聞こえなかったのかしら、と思ったとき
一羽がくちばしを開きました。
「じゃあ、わかるところはどこなんだい?」
「じゃあ、わかるところはどこなんだい?」
「じゃあ、わかるところはどこなんだい?」
右の鳥も、左の鳥も
いちばん後ろの鳥まで、いっせいにですから
こんな具合です。
わからないところはどこかと聞いたら
わかるところはどこかと聞かれてしまいました。
ふたりは鳥たちを見送って
しばらく空に浮かんでいました。
「ねえ、お姉ちゃん。
鳥さんの聞いたこと、考えてみようよ。
ぼくたちが、どこだかわかるところって、どこ?」
「お城でしょう。それから、森。お友達のおうち」
「ミクミックスおばさんのお屋敷も!」
「うん。行ったことがあって、知ってるところね」
「道もわかるし、迷子にもならないね」
そこで、ときくんは、ちょっと考えました。
「でもさ。ぼく、いちばん初めに
おばさんのお屋敷に行ったときは
道なんか知らなかったよ」
「そうね。わたしだって、初めは知らなかったわ」
ふたりは、カートの下をのぞいてみました。
お城も、いつもの森も、もう見えません。
昨日まで、こんなところがあるなんて
ふたりとも知りませんでした。
「ねえ、ときくん。今度ここを通ったら
わたしたち、『ここ、知ってる』って言えるね」
「うん。鳥さんに道を聞いたところだって」
きらちゃんは、なんだか、うれしくなりました。
どこだかわからないまま飛んできて
ふたりで、ちゃんと、ここまで来たのです。
「鳥さんたちが言ってたのは、こういうことかしら。
誰だって、毎日ちょっとずつ
どこかわからないところへ行ってるんだよ、って」
「そっか。明日どんなところを知るのかは
今日のぼくには、まだわからないものね」
見上げると、お空はまだまだ先まで続いています。世界中、宇宙中
どこかわからないところだらけです。
グランバーバは、いまごろ、そのどこかで
トレーラー号の窓から外を
のぞいているのかもしれません。
「グランバーバ、楽しそうだねえ」
まだ一度も会ったことのないときくんが
そう言いました。
きらちゃんにも、さっきより、ずっと近くに
グランバーバがいるような気がしました。
ふたりは、うんうんとうなずき合って
星空カートをひるがえしました。
お城に帰ってみると
なんと、どこかわからないところから
グランバーバのおみやげが届いていました。
包みを開くと、中には
おいしいバターとコーヒー豆!
ママちゃん王妃様が焼いてくれたパンに
きらちゃんは、とうとう
あのバターをたっぷり塗りました。
もちろん、ときくんのパンにもたっぷり。
ふたり並んで、お口いっぱいにほおばります。
「どこかわからないところから届いたバター
おいしいね!」
「どこかわからないところって、いいところだね!」
「どこかわからないところのコーヒーは
また格別だなあ」
パパちゃん王様が
カップに鼻を寄せて言いました。
ママちゃん王妃様はにっこり笑って
自分のコーヒーにバターをひとかけ、落としました。
グランバーバが、今日も
どこかわからないところにいる。
そう思うと、なんだか、みんな
楽しくなるのでした。




