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ミクミックスおばさんがくれた不思議な種と、おまじないのことばふりかけのお話


 きらちゃん王女と、ときくん王子には

とってもおしゃれなおばさんがいます。

ママちゃん王妃様の妹の

ミクミックスおばさんです。


 おばさんの本当の名前は

「マジカル・インスピレーション

・ケーキ・ミックス伯爵令嬢」といいます。

けれど、あんまり長いので、いつのまにか、みんな

ミクミックスと呼ぶようになりました。


 ミクミックスおばさんのお洋服には

数えきれないほどポケットがついています。

ドレスにも、ケープにも

なんと、お帽子の裏にまで。


 おばさんは、誰かにプレゼントをするのが

大好きです。

会うたびに、どこかのポケットから

何かいいものを取り出して、分けてくれるのです。


「今日は、きらちゃん王女が生まれてから

千と、ん百、ん十日目。

記念に、千と、ん百、ん十番のポケットを

開けてみなくちゃ」


 ドレスのポケットをごそごそ。

ケープのポケットをごそごそ。

お帽子までひっくり返してから

ようやく、ひとつのポケットに手を入れました。


「あったわ」


 おばさんの手のひらに、小さな種がひとつ。


「なんの種?」

「さあ。なんの種かしらね」


 ミクミックスおばさんは、にこにこするだけです。

きらちゃんが手を出すと、そこに種をひとつぶ

ころんとのせました。


「あっ、そうそう!」


 今度は、千と、ん百、んン十番のポケットから

小さな袋が出てきました。


「これはね、おまじないのことばふりかけ。

種をまいて、お水をあげたら

じきにかわいい芽が出るわ。

そのときに、この袋の中身をかけてごらん」


 おばさんは、袋もいっしょにきらちゃんに渡すと

もう何番だかわからないポケットから

折りたたみ式の愛車を取り出しました。

星空カート、スペシャルおしゃれエディションです。


 ぱたぱたぱたっと大きく広げ

ひらりと乗って、空高く。

これから音楽隊の練習です。


 きらちゃんはおばさんに手を振ると

ふんふ、ふんふ、ふーん。

鼻歌まじりにスキップして、おうちへ帰りました。


 お庭の隅で、からっぽの植木鉢を探していると

おとうとのときくんがスコップを持ってきました。

ふたりで鉢に土を入れ、種をまいて

お水をあげます。


 ところが、お水をあげてもあげても

乾いた土が、ごくごく、ごくごく。

すっかり飲みほしてしまいます。


「種さんも、ちゃんとお水を飲んでるかしらん?」


 ふたり並んで鉢をのぞいているうちに

きらちゃんは、種といっしょにもらった袋のことを

思い出しました。


 きらちゃんのお洋服には、ポケットがふたつ。

右をひっくり返して

左もひっくり返してみましたが

どちらにも袋はありません。


「あれれ? たしかに、もらったのに」


 さっきスキップしてきた道を

おばさんとお話ししたところまで。

行ったり、来たり。

ときくんもいっしょに探してくれましたが

袋はどこにも落ちていませんでした。


「おまじないのことばふりかけがないと

芽は出ないのかなあ」


 ときくんに聞かれて

きらちゃんは、おばさんの言葉を思い返しました。


「ううん。おばさんは、芽が出てきたら

かけてごらんって言ってたよ」

「じゃあ、芽が出るまでは、お水でいいね」


 それからふたりは

今日はきらちゃん、明日はときくんと

かわりばんこにお水をあげて

芽が出るのを待ちました。


 ある朝のことです。


「きらちゃーん、ときくーん。起きてごらん!」


 パパちゃん王様の声に

ふたりが眠い目をこすりながらお庭に降りてみると

植木鉢のまんなかに、昨日はなかった緑色。

かわいい芽が、ちょこんと頭を出しています。


「やったー! 芽が出たー!」


 ふたりは飛び上がって大喜び。

けれど、芽が出たということは……。


「今日だわ。ことばふりかけをかけてあげるの」

「何か、かわりになるもの、ないかなあ」


 きらちゃんが、台所のほうを振り返りました。


「おべんとうのふりかけは、どうかしら?」

「ぼく、たまごのがいい。

ぼくのいちばん好きなの、かけてあげたいなあ」


 そこで、たまごのふりかけを持ってきて

植木鉢に、ささっ。


 どこからか、アリが一匹やってきました。

それから二匹、三匹、ぞろぞろぞろ。

ふりかけを、ひと粒ずつ運んでいきます。


「あ、それは……」


 ふたりが見ているうちに

最後のひと粒まで、なくなりました。


「アリさんにあげちゃったね」


 ときくんが、ぽつりと言いました。


 ふたりはしばらく

空っぽの鉢のふちにひじをついて

小さな芽を見つめていました。

やがて、きらちゃんが顔を上げました。


「そうだ! 

おまじないの、ことばふりかけでしょう? 

それなら、ふたりで

おまじないの言葉をかけてあげればいいんだわ!」


 それはいい考えです。

けれど、なんて言えばいいのでしょう?


「ママちゃん王妃様!

 種から芽が出たときのおまじないの本って

おうちにある?」


 ママちゃん王妃様は、にっこりしました。


「あるわよ」


 ふたりがそろって本棚のほうを向くと

ママちゃん王妃様は続けました。


「きらちゃんと、ときくんの、心の中にあるのよ」


 ふたりは顔を見合わせました。

ママちゃんは、本棚には手を伸ばさずに言いました。


「種さんは、ふたりにお水をもらって

うれしかったでしょうね。

あの種さんは、きっと

『うれしかっタネ!』という種だったのよ。

ねえ、やっと芽を出した種さんに

ふたりなら、なんて言ってあげたい?」


 もう一度、ふたりは顔を見合わせました。

ときくんの口もとが、むずむず。

きらちゃんのほっぺも、むずむず。

もう笑いだしそうです。


 ふたりは全速力でお庭に降りていくと

植木鉢に向かって

ありったけの大きな声で言いました。


「よかっタネ!」

「がんばっタネ!」


 種さんは、もうただの種さんではありません。

小さな葉っぱをふたつ広げた、フタバさんです。


 ふたりのおまじないの言葉と

おいしいお水と、おひさまの光をもらって

フタバさんは、どんどん伸びました。

葉っぱが茂って、ときくんの背を越して

きらちゃんの背も追い越して

とうとう、ふたりが見上げるところに

かわいいお花が咲きました。


「お花さん、きれいダネ!」


 朝、お花を見上げて、きらちゃんが言います。


「今日は楽しかっタネ!」


 夕方、お花の下で、ときくんが言います。


「ありがとう、種さん」

「ありがとう、お花さん」


 そんなふたりを眺めては

パパちゃん王様も、ママちゃん王妃様も、にこにこ。

お庭の前を通るご近所のみなさんも

お花を見上げて、にこにこ。


 さて、ミクミックスおばさんときたら。


 音楽隊のおべんとうの時間に

ん千、ん百、ん十番目のポケットから

何やら取り出して、おにぎりの上に、ささっ。


 あらら? その袋

きらちゃん王女にあげたはずの袋ではないかしら?


「しーーーーーっ……」


 その日の音楽隊の練習は

なんだかみんな、いつにもまして和気あいあい。

ミクミックスおばさんも

とってもゴキゲンな一日でした。

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