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グランマリンバの空飛ぶ車椅子

グランバーバのお姉さんは

車椅子に乗った魔法使い。

名前を、グランマリンバといいます。


 グランマリンバは、手袋編みの糸通しや

クロスステッチの刺繍をするのがお仕事です。

車椅子のお仲間たちと楽団もやっていて

グランマリンバが弾くのはオルガンです。


 グランマリンバには、孫はいません。

けれど、妹の孫のきらちゃん王女と

ときくん王子がかわいくて

ふたりのことを、まるで自分の孫のように

思っています。


 さて、グランマリンバには

得意な早わざがあります。

お手紙を書くことです。


 早いのなんのって。

グランバーバのメールより早く届くのですから!


 きらちゃんのお誕生会でのことです。

ろうそくを吹き消して

さあ、ケーキを切り分けましょうという

その時刻きっかりに

グランマリンバからカードが届きました。

もちろん、お得意のクロスステッチの刺繍入りです。


 これで、魔法は使っていないというのです。

だったら、ほんとうに魔法を使ったら

グランマリンバには、

どんなことができるのでしょう?


 それを知っている人は、誰もいません。

グランマリンバときたら、いつだって

誰にもわからないようにやってのけるのですから。


 でもね。これまでで

いちばんすごかった魔法のことを

こっそりお話ししましょう。

ないしょですよ。


 それは、ときくんが生まれたときのことです。

いいえ、もう少し前。

ときくんが、まだママちゃん王妃様の

おなかの中にいたころのことです。


「どんな赤ちゃんが生まれるかしら」


 妹のグランバーバが、旅の宇宙船の中で

占いのカードを並べていました。

一枚、もう一枚。

さて、どのカードをめくろうかしらと

手を止めました。


 窓の外も、お部屋の中も、静かでした。


 そのとき、ふわり。


 どこからか風が入ってきて

カードを一枚、めくりました。


「おっとりした、賢い男の子」


 そんなカードです。


「あら、その風は、もしかして」


 グランバーバは、そっと笑いました。


 ちょうどそのころ、遠く離れたところで

グランマリンバは、楽団のお仲間たちと

午後のお茶をいただいていました。


 カップを両手で包んで、ひと口。

おっと、まだ熱い。

そこで、お茶に向かって、ふう、ふうっと

息を吹きかけたのです。


 そう。風があのカードをめくった

ちょうどそのときに。


 お向かいに座っていたお仲間は

グランマリンバが

お茶を吹き冷ましているところなら

よく見ていました。

けれど、そのひと息がどこまで届いたかなんて

いっしょにお茶をいただいていた誰ひとり

知りません。


 そもそも、グランマリンバは

妹がカードを並べていることを

知っていたのでしょうか?


 お茶をふうっとしたときに

たまたま、宇宙船の窓から

風が入っただけかもしれません。


 それとも、グランマリンバの車椅子は

ほんとうは空飛ぶ車椅子で

時も場所もひとっ飛び。

小さなつむじ風になって

あの一枚をめくりにきたのかもしれません。


 もしかしたら、遠く離れた姉と妹が

まだ見ぬ赤ちゃんを思っていた

その気持ちが風になったのかも。


 やがて、ときくんが生まれました。


 きらちゃんは、小さなおとうとの顔を

そっとのぞき込みました。


「ときくん。わたし、お姉ちゃんよ」


 グランマリンバからも、お祝いが届きました。

グランバーバはといえば

宇宙船の窓辺でにこにこしながら

次の旅じたくをしているところでした。


 さて、ときくんは、ほんとうに

「おっとりした、賢い男の子」だったでしょうか。

それなら、ときくんといっしょに

冒険をしたみなさんのほうが

もう、よくご存じかもしれませんね。


 どうしてそんなことが起きたのか

誰にも説明がつかないとき

人はおどろいて「奇跡」といいます。

けれど、カードが一枚めくれたくらいでは

うっかりすると

びっくりするのも忘れてしまいます。


 びっくりするようなあたりまえのことより

びっくりするような、びっくりすることのほうが

誰だってびっくりしますものね。


 あら。

なんだか、よくわからなくなってきましたか?


 では、お城の窓を

もういちどのぞいてみましょう。


 今夜は、きらちゃんが

ときくんに絵本を読んであげています。

お月様とお星様が

窓の向こうからふたりを見ています。


 きらちゃんが一枚、ページをめくると

ときくんの目がとろん。

もう一枚めくるころには、その目が閉じて

小さな寝息がしはじめました。

きらちゃんは残りのページを明日のお楽しみにして

そっと本を閉じました。


 その窓へ、遠くから一通のお手紙が飛んできます。

きらちゃんは窓辺で受け取ると

封筒を枕のそばに置きました。

これも明日、ときくんとふたりで開けるのです。


 遠くのおうちでは、グランマリンバが

今度は贈り物を包んでいます。


「きらちゃん、喜ぶかしら」

「ときくんは、これが好きかしら」


 まだ届けていないのに

ふたりの笑顔が浮かんで

グランマリンバのほうが先に、にっこり。


 誰かを思う気持ちで、自分まで笑顔になれる。

そんなすてきな魔法が使えるなんて。


 やっぱり、グランマリンバは魔法使いです。


 空飛ぶ車椅子のことも、ないしょですよ。

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