08.シルファ勇者化大作戦!
舞踏会の翌日。
私はお父様に呼び出された。
物語の序盤、シルファはお父様に、レオーネが勇者と成る為に必要な祝福を先回りして奪えと命じられる。人間である彼女は魔族に対して誠意を見せなければならなかった。
お父様からの呼び出しはまさにその事だった。
「シルファ、勇者が再び動き始めた。我々は彼女の歩みを阻まなければならない」
「はい……」
「女神の祝福が隠されたダンジョンの位置を特定したので、先回りして祝福を奪う事は出来るだろうか?人間であれば祝福がお前に応じる可能性もあるからね」
「私にしか出来ないお役目というわけですね」
「すまないね……もちろん1人では行かせない。護衛をつける」
この護衛なのだが、魔族である為、物語の流れ次第ではシルファを殺す事もあり、出来れば護衛はつけたくなかった。
「お父様、友人の魔術師の力を借りれるかもしれません。彼と話しをしてから護衛の件はお返事してもよいですか?」
「おお……」
「……お父様?」
何故かお父様は目に光るものがあった。
「お前にも若君以外の友達ができたのだな……」
「リオン以外にも、友達は……その……います。お父様が知らないだけで……私にだって……」
いるよな?え?もしかしてシルファって本当にいないのか??
小鳥に視線を向けると、俯いて、こちらに目線を合わせようとしなかったため、その姿が雄弁に彼女の気持ちを物語っていた。
「今度ぜひ、夕食に招待したいのだが、予定を聞いておいてくれないか?」
「それは気が早いです……」
勝手に晩餐会の日取りを決めようとするお父様を必死になって私は止めた。
×××
お父様からの指示も加わった為、私はシルファと作戦会議をすることにした。
黒幕の作戦会議という事で雰囲気を出すため、シルファが魔術研究の為に使用している、私が召喚された魔法陣の描かれた部屋にお茶とお菓子を持ち込み話し合いを開始した。
舞踏会の日に思いつきでリーブラをこちら側に勝手に巻き込んでしまった事の説明もシルファにしておきたかったからだ。
「結局、レオーネは殿下と踊った後、公爵様と……なぜか宮廷魔術師様と踊っていたんだよね?」
リーブラは私が阻止したので踊らずに済んだが、その影響で?その後騎士であるシリウスと出会うはずなのに、なぜかアリエスと出会うことになってしまったのだろう。
これってもしかしなくても、シリウスの可能性を私が奪ってしまったという事なのだろうか?まだ接点がなく、舞踏会で遠目に見ただけの彼に対して少し申し訳ない気持ちが湧いてきた。
だが、攻略対象ではないアリエスとレオーネが踊った事が新たなエンディングを出現させるきっかけになる!とも、今の所思えない。
何しろアリエスにはゲームで立ち絵がない。つまり彼のゲーム内での扱いはモブなのだ。
「私も驚きました。ある意味舞踏会での一番の珍事でした」
「そんなに珍しいことだったんだね」
「その、アリエス様が社交の場に居ること自体が珍しいのです。リオンも驚いていたでしょう」
「うん……青ざめていたね」
リオンはイレギュラーな事態に対し、だいたい青ざめているか怒っている気がする。根が真面目過ぎると感じた。
「うーん……宮廷魔術師とのエンディングの話は読んだことがないんだよな。可能性としては今のところ、アリエス(仮)リオン、アダリスが有力候補という事になると思う」
誰も知らないアリエスという可能性が浮上してきたのなら、出来れば二人を近づけたい。立ち絵もないモブ的な存在がどこまでのし上がれるかわからないけれど。
とは言え……そもそもこの世界、恋愛なんかしてる場合じゃない終末間近の世界観なので、アリエスをレオーネのパーティに引き入れるくらいの事をしないと、単純に接点が生まれてくれない気はしている。
女神より神託を受けた勇者の器は、試練とされる3つのダンジョンを攻略し、3つの祝福を得て、勇者として完成するのがこのゲームの仕様だ。その試練攻略時にレオーネは攻略対象者とパーティを組み交流を深めていく。
「今回、リーブラをこちらに引き入れようと思ったのは、私が唐突に閃いた作戦が……シルファ勇者化計画!だからなんだ」
「わ、私をですか!?」
「素質は十分だと思うよ。シルファは魔術師だから、単純に勇者の器としてはシルファの方が適任だと思うんだよね。なにかそれ以外の選定理由がレオーネにあったのだと思うけど」
現にリーブラの話では魔力のない人間が選定されることのほうが珍しいと言っていた。
「でも……勇者になる為にはレオーネよりも先に祝福を全て集めないと……」
「確か、祝福は譲渡出来るよね?シルファがレオーネに受け渡しをしていた話しがあったと思うんだ」
「はい。よくご存知ですね。譲渡は可能ですし、相手を殺して奪う事もできます……」
出来れば殺す等という状況にはしたくないので、穏便な受け渡しというものを検討していきたい。とはいえ、まだその方法までは思いつかないけれど。
「しかし、祝福を得るには全ての試練の場所がわからないと……あ!!」
なにかに気づいたらしいシルファは私を見て目を丸くしている。
「そう!私は試練の場所を知っているのです!」
レオーネは神託によって試練の場所を告げられるが、私はプレイヤーなので場所は把握している。故にとてもズルい感じはするけれど、先回りして祝福を得る事ができるはずだ。
「つまり、私が勇者になるというのが、有紗の考えたループの回避方法?」
「うん。シルファが勇者になれば、死の回避は確定できると思うんだ」
勇者となればこの世界を救うことも出来る。
ゲームにとってこれ以上無いエンディングだと思うのだ。
今のところ、私にはそのくらいしか思いつかなかった。
「今回リーブラに話しをもちかけたのは、彼とパーティを組めれば、シルファの戦力アップにつながると思ったんだ」
試練に向かう道中にはもちろん魔物や魔族がいる。
いくらシルファが優秀な魔術師だとしても、一人で全ての試練をレオーネより早く攻略するのは難しい。
しかし、宮廷魔術師の弟子という戦力が増えれば攻略速度を格段に上げる事が出来る。全てとはいかないだろうが、先回りも可能になるのではと思ったのだ。
もちろん彼を入れた所で全ての試練を先回り出来るとは思っていないので、レオーネと祝福を巡って戦いになった時の為にも、リーブラを仲間に出来れば相手の戦力低下にも繋がる。故にリーブラをこちら側に引き込むことはこの新ルート開拓においてとても重要だった。
まあ、これも当初から計画してそうなったわけではなく、リーブラのルートを回避しようとしたら、副産物としてリーブラの重要性に気づけただけなのだが。
「宮廷魔術師のお弟子様と私なら……うーん……前衛が一人ほしい気はしますが……」
「そうなんだよね。……でもそれは今悩まなくていいかも。そもそもリーブラが賛同してくれるかまだわからない状態だから」
小鳥は頷いてくれた。
「そういうわけだから、リーブラに会いに行こうと思うのだけど、どうかな?」
「会いに行くのですか!?」
「宮廷魔術師って王城に住んでいるとリオンから聞いたので、すぐに会いに行くことは出来るなと思ったんだけど」
「王城の北側に塔があるのです。そこにアリエス様はいらっしゃるのでリーブラ様も居るとは思いますが……」
突然訪ねて大丈夫だろうかと、シルファは悩んでいた。
「とりあえず行ってみようよ。昨日の話が気になっていれば、相手から接触してくるはず」
「……そう、ですよね。レオーネの先回りをするなら、何事も早いほうがいいですよね」
ただ、問題があった。
流石に長時間話しをするとなると、私の化けの皮が剥がれかねないという事と、そもそもリーブラが私とシルファの魔術的な?繋がり?に疑問を持っていることだ。その意味がよくわからないため、私は単純にリーブラに対してどう答えていいかわからないのだった。
「リーブラが言っていた、魔術的な繋がり?ってなんだと思う?」
「熟練の魔術師はその人の体内を巡る魔術の流れのようなものを可視化できるのです」
見え方が違うと言われると手の打ちようがないのだが……。
「今は確かに私の魔力が有紗に流れ込む様な奇妙な形になっているので……この事をリーブラ様は不審に思われたのだと思います」
「それって、入れ替わってるって気づかれているのかな?」
「そこまではわからないと思いますが、小鳥の方が高位の精霊くらいには思ったと思います」
そこで、シルファは何か思いついた様で、目を見開いたのだった。
「そうです!!だったらこうしましょう!有紗!これならもう私の真似をしなくても大丈夫です!」
「??」
「以前にもやってしまった事があるので、これなら不審に思わないと思います」
魔術のことはさっぱりわからないので、私はシルファにこの件を一任することにした。




