03.攻略対象者②公爵様登場
夜にはレオーネのお披露目も兼ねた舞踏会が開かれるそうだ。
スピカ殿下は年齢的にまだ出席できないため、彼女のご就寝の身支度を整えた後、ここからはオルテンシア家の令嬢として舞踏会に参加しなくてはならないとのこと。
王城の一室を借りて、シルファのメイドさん達に思い切り着飾ってもらった。
鏡の前には麗しいシルファ・オルテンシアの姿があり、有紗はその姿に素直に見惚れていた。
言わば、ゲームでは見られない新たな装いに感動していたのだ。
もともと彼女の衣装は魔女服も黒いドレスで素敵だったのだが、こういったお姫様のような明るい色味の衣装もよく似合っている。
「シルファ可愛い……」
「あ、ありがとう……今の私は小鳥なのだけれど」
舞踏会という響きにとてつもなく浮かれる一方で、シルファが美しくなればなるほど、どこでボロがでないか不安は募る一方だった。
レオーネの叙勲の数日前に異世界召喚を行ったシルファには日程調整について議論したいところではある。序盤からジェットコースターに乗せられているのは間違いなかった。
「はぁああああ……無理だ吐きそう」
「だいぶ緊張していますね……今日のところは壁の華に徹しましょう。ダンスの誘いは受けないで……ダメです!一回はリオンと踊らないと!」
「そうだよね。好きな人と踊りたいよね……でもど、どどどどどうするの!?」
「うーん……体は私だからなんとかなる!はずです、たぶん!」
「そんな適当な……!」
さらに不安が一つ増えた。
こんなことならばゲーム画面の外側からきれいな景色を眺めてニヤついているのがよかった。早々にゲーム画面の向こう側に戻りたくなった。腹痛でも訴えて辞退…………は、できない!!シルファを公爵様と踊らせてあげなくては……!!
それに、たしかこの場面でレオーネには複数の選択肢が与えられ、どの攻略対象と踊るか選べたはずだ。
序盤で攻略したい相手を選んでおくのは必須条件だったはず。その確認しなければ。
「わかった。ちょっと今からメイドさんと踊ってみる――――」
「お嬢様。アストライア公爵様がいらっしゃいましたよ」
「はい?」
メイドさんにご案内されたが、いったい何のことやらわからない。
アストライアとは、シルファが愛するリオン様のことではなかろうか。
「少し、お待ちいただいて……」
鏡に向かって髪を入念に直しながら、小鳥に話しかけた。
「シルファさん、どういう事ですか?」
「ごめんなさい……理由があって、私の同伴者はいつもリオンなの……」
待て。そんな話ゲームで聞いたこともない。
「確認させて。私は公爵様に対してどう振る舞ったらいいの!?」
「どうって……そうか。貴女はレオーネの視点で物語を読んでいるだけだから、私とリオンの関係がわからないのね。大丈夫。リオンとは恥ずかしくて必要最低限の会話しかできないから……彼の話に頷いているだけでも、不審には思われないと思うわ」
その光景がありありと脳裏に浮かび、私は思わず小鳥を抱きしめたくなったが、なんとか理性で押し留めた。これ以上引かれたくない。
鏡に向かってシルファの姿を再度確認し、私は覚悟を決める。
彼女の愛する男の前で奇行は絶対にとらない……!!と、思わず頬を叩いて気合をいれてしまったのだが、それがすでに奇行と気づくのに時間はかからなかった。
「どうぞ」
扉が開かれると、それはまるでおとぎ話の一幕のようだった。
濃い藍色の髪をゆるく束ねた美術品の彫刻のような整った顔の男が現れる。
そう、多分あれは人間じゃない、人間じゃない、人間じゃない!!
ひたすらに私は衝撃を抑える為に心のなかで呪文のように繰り返した。
ダメだぶっ倒れそう。なんだこのシチュエーションは…!!
今私の心の平穏を保っているのはこの体がシルファの姿をしているという事。このただ一点にあった。
「いくぞ……」
そういってリオンが腕を差し出した。
「……」
意味がわからず、私は相手を見上げてしまった。
すると、リオンがこちらを見向きもしていない事に気づいた。
腕に手を添えるの、とシルファに囁かれ、私はすぐさま手を伸ばした。
しかし、いやちょっと待て、これはなんだ。
顔はいいけどこれは……どういうことだ?
腕を取り歩き出しても、リオンはシルファを見ようともしない。
だから、私は目を合わせようとしても合わせられないのだと気づいた。
私はレオーネに見せるリオンの顔しか知らない。
そして乙女ゲームのキャラクターらしく、レオーネに対しては不器用ながらも優しさが感じられるキャラクターだった。初対面だろうとなんだろうと気さくに話しかけ、気遣いの出来る男として描かれていた。
その面影が今はどこにもなく、冷たさだけがこの二人の間にあるように感じられてしまう。
「ちゃんと挨拶の出来る方なので、今日は少し様子がおかしいです……」
シルファがこっそり私の耳元で呟いて教えてくれた。
どうやら彼の態度はいつもと違っている。
だとしたら、ここは乙女ゲームの世界。
不機嫌というわけではなく、きっとなにか理由があるのだろうとプレイヤーとして勝手に納得することにした。




