20.冒険者は酒場で打ち上げをするのだろう!?
ダンジョン攻略後、王都には転移魔術ですぐに戻れるとリーブラが教えてくれた。王都には転移魔術の帰還用の魔術陣が設置してあるのだそうだ。
それならば、野宿をするよりはと、相談した結果、一度王都に戻る事になった。
「冒険者はダンジョン攻略後、酒場で打ち上げというものをするのだろう!?」
王都に戻ると、上記の様な期待に満ちたアレンの提案を、あのキラキラした瞳を私は断れず、適当な酒場に入ってみることにした。
そこまではよかったのだが、驚愕の事実が明らかになった。私以外皆酒が苦手だったことだ。炭酸水でなぜかハイテンションなアレンと、数滴でベロベロになってしまったリーブラ。お行儀よくお茶を頂く青い小鳥と酒場に入る意味がわからない酷い状態が生まれた。
「すごいわアレン君。炭酸水で見知らぬ冒険者と意気投合してる……」
「アレン君は、人見知りではないのですね。私もあの様に炭酸水を頂けばお仲間にいれてもらえるでしょうか……勉強になります。」
違う。あれは炭酸水の問題じゃない。
しかし、炭酸水すらシルファ飲めないとかいい加減に可愛いが過ぎると思う。
「本当に最悪です……どいつもこいつも初心者ってめちゃくちゃですよ……」
「ご、ごめんなさい…リーブラ様…」
リーブラがブツブツと愚痴をつぶやいているのがわかった。私は酔っ払いを無視していたのだが、青い小鳥はリーブラに寄り添いきちんと話しを聞き、律儀に相槌をうっているのだ。
その様子はやはり私が故郷でよく視聴していた癒しの動物動画にしか見えず、永遠に眺めていられるなと感じた。
「本当に、僕がいないとダメダメなんですから……」
「はい!リーブラ様が居てくださってとても感謝です!」
「シルファ嬢……うぅ……」
アリエスから感謝なんてされたことが無かったのだろう。彼は涙をにじませ小鳥と会話していた。
そのうち、指で頭を撫でたり、首周りをくすぐりはじめてしまった。鳥を飼ったことがあるのか扱いをよくわかっている様子だった。
すると小鳥は小鳥らしくとても気持ちよさそうに撫でられていた。
「ここは……どうですか……?」
「んー……」
「気持ちいいですか……?」
一見微笑ましい光景なのだが、相手は鳥か人間か?どちらで考えたらよいのだろうか。犯罪一歩手前なのだろうか?見た目は癒しの動物動画そのものなのだが。
「ふふっ……可愛い……」
酒で頬を赤らめ蕩けたイケメンから吐き出された破壊力抜群の台詞に私は思わず犯罪者認定してしまい、リーブラの手を思い切り掴んでしまった。
人の恋路を邪魔するものは馬に蹴られて死ぬらしいので何があってもこの二人を見守る所存だったが、耐えられなかった。
すまないリーブラ!!
「い、痛いですぅ……精霊さぁん……」
「ええい!甘えた声を出すなこの酔っぱらいが!主人に手を出すなら正式な手順を踏んでこい!交換日記から始めろこのスットコドッコイが!!」
リーブラが人見知りの引きこもりで本当に良かったと思う。
こんな兵器を夜会なんかに投入して酔わせたら、女性が片っ端から被弾し、彼に押しかけて圧死するに違いない。初めて会った時もそうだが、酒が入るとこの男、妙に色気みたいなものが漏れ出して困る。
そうなのだ本人に自覚がないから勝手に漏れるって最悪ではなかろうか。ゲームのジャンルが乙女ゲーム故に、こういった現象が起こりやすいのだろうが、もっとこの設定ゲームで擦って欲しかったなぁ!!リアルだと耐えられなくて存分に楽しめないと学んだ。
「あ……あの!私なら全然困ってないのでもっと撫でていただいても構いません!」
「シルファ!?」
と、彼女が仰るので、お言葉に甘えて私が撫でさせてもらうことにした。ふわふわの羽毛がとても指に心地よく病みつきになりそうだった。
リーブラが涙を浮かべて僕にも撫でさせて下さいと隣で懇願しているカオスな状態だったが、これはこれで私はとても楽しかった。
しかし、そんな楽しい時間は長くは続かないもので、テーブルで騒いでいた所、フードを被った男が私の前に立ち、こちらを睨んでいたのだ。
「……あの……えっと…なんでしょうか?」
「まったく、何をやっているんだお前たちは……」
大げさなため息。この仕草には見覚えがあった。
流れで小鳥をリーブラから遠ざけ撫でる私の腰のあたりに、酔ったリーブラが巻き付くといった状態になっていたのだが、それを目にするなりフードのお方は水差しを躊躇いなくリーブラの頭に淡々とおかけになられた。
「……。」
ずぶ濡れになった魔術師が一人。
えっと、そうですよね。シルファ様に変な虫が巻き付いているようにしかみえませんよねこれ、はい……シルファは私でした。配慮がたりませんでした。リーブラごめんなさい。
「リーブラ……酔いは醒めたか?」
「はっ……へ?……ああああああ」
アストライア公爵様と言いたいのだろうが、言葉にならなかった。リオンはリーブラをシルファから引き剥がすとわざわざ二人の間に割って座った。
「王都に帰還したとは聞いておりませんが……」
「ああ。していないからな。」
「それは、どういう……?」
私は嫌な予感を感じていた。
ゲームのシナリオ通りならば、今頃リオンは女神の試練を受けている頃合いだからだ。その彼が今目深にフードを被り、城下の酒場にいる。
「とんでもないことになった。だからリーブラ。お前を探していたんだ」
「僕をですか?」
「お前が勇者パーティを辞退後、後任に別の魔術師が選別されていたのだが、なぜか当日になって、お前の義理の弟であるダリルが同行することになってな……」
「弟は僕なんかよりも優秀ですし……特に問題は……」
リーブラに義理の弟がいることは彼のルートで明らかになる。義理の兄がアリエスに選ばれ弟子になったことを妬んでいる。そんな設定だった。
「これは極秘事項なんだが、ダリルが女神の祝福を奪って逃げた。」
「はい……?」
「ダリルが転移魔術で逃げて、ギリギリの所でレオーネが転移魔術にすべり込んでしまって、彼女まで行方がわからなくなってしまった。」
レオーネが行方不明……。
いや、それは私がシルファとしてこの物語を観測しているからそうなっているだけで、これはもしかすると個別ルートに入った可能性がある。
だとしても、状況的に早すぎる。ゲームでは試練の後王都に戻った辺りから各々のルートへの分岐が始まったはずだ。
「あのシリウス様は?」
「アイツは王家に事情を話に行っている」
ということは、リオンもシリウスもリーブラも、確認は出来ていないがアダリスも城に居るはずだ。
攻略対象者の誰一人としてレオーネと行動出来ていない。
彼女がダンスを踊った相手はアダリス、リオン、アリエス……。
「アリエス様が……???本当に…??」
「アリエス?」
「あ……いえ、お気になさらず」
アリエスの所在が分かればこの件はハッキリするはずだ。あと念のためにアダリスの所在も確認しなければ。
しかし、本当にアリエスのルートに入ったとしたら、好感度はどこで高まったのだろうか。そもそもそんなものすら必要ない?わからないことだらけだった。
「それでは本題に入るが、リーブラ。ダリルを見つけ出せ。これは王家からの命令だ」
蒼白な表情のリーブラだったが、静かに頷いた。
物語は、更に異なる方向へと走り始め、私の手から離れていく。
未知へと進むことが鍵だとわかっているけれど、それは私が持ちうる唯一の利点を失うことだ。
不安だけが私の心にくすぶっていた。




