17.僕がやらなきゃ……
試練のあるダンジョンは黒き森と呼ばれる場所に隠されている。
途中までは馬車で行けるが、流石に森の中は無理だった。
ダンジョンまでは徒歩なので、そのために地図を用意し、コンパスも買った。
準備は万全のハズだった…!
「案内板とかないですか!?」
「森の中のダンジョンにそんなものはないですよ。有紗。」
青い小鳥に諭され、私は足を止めたのだった。
先ほど守ると誓った存在に早々にご迷惑をおかけしている自分。やはりポンコツでしかない。
「すみません。この無能な精霊めに救いの手をどうか魔術師様……」
私は青い小鳥を手に乗せ崇めた。
ゲームでダンジョンまでの道のりはさらっと描かれていたため、気づいたら到着していた。それがこんな鬱蒼とした森の中を歩いていただなんて思いもしなかったのだ。
「あの真面目にこの世界の冒険者ってどうやって位置情報を把握しているのかな?」
GPSなんてものが存在してる様にはとても思えないし地図アプリも無さそうだ。
「以前、薬草採取の依頼に同行した時は、地図とコンパスだったな」
アレンが地図を見ながら答えてくれた。
「それは比較的近い場所の依頼だったからでは?大抵は魔術師がパーティにいれば魔術でマップ上に自分の位置をポイント出来きます」
そう言って、リーブラが杖を一振りすると、手持ちの地図の上に星の様な形が浮かび上がった。GPSも地図アプリも存在していたのだった!!マークは目的地の左斜下にあり、かなり近くまで近づいてた事がわかった。
「近いですね。少し見てまいります」
青い小鳥は高く飛び上がり空へ消えてしまった。
「もっと早く教えてほしかった……」
「ガンガン進んで行くので、てっきり場所を把握していると思っていました」
なんとなくで進んでいただけなので恥ずかしすぎる。
「そもそもSSSランクの冒険者ならこのあたり一体のダンジョンの事など全て把握できていたのではありませんか?」
やはりアレンを疑っているリーブラは道中、彼に対して当たりが少し強かった。
そんなリーブラの嫌味に対してアレンは。
「私はギルドに秘匿されていてね、身バレを防ぐため、Fランクの依頼しか受けていないのだよ。目立ってしまうのはよくないからね」
と、謎の返しをアレンはしていた。
永遠に秘匿されているSSSランクとはFランクと変わらないのではないかというツッコミはもはや誰もしなかった。
「本当にすぐでしたね。皆さん。こちらの方角です」
小鳥が少し先の方を偵察して戻ってきてくれた。
彼女の示す方角に歩いていくと、岩場に大きな洞窟があり、それは探し求めていたダンジョンの入口だった。
×××
洞窟を進んでいくと、石造りの人工的な空間へとつづいていた。どこまで行っても似たような作り方の石室に次ぐ石室。まさにダンジョンと呼べる空間がそこにはあった。
「有紗!見て下さい!本当に宝箱ですよ!宝箱がありました!!」
「うんうん。何が入ってるかな!」
シルファと私は初めてのダンジョン攻略にめちゃくちゃはしゃいでいた。
ギルドでの彼女との会話から察するに、パーティを組んでくれる人がいたらダンジョン攻略を本気でしたかったのだろう。
そして私といえば単純にファンタジー世界のダンジョンにいるという事実に対して興奮していた。
「あ、ちゃんと中身を魔器で鑑定してから開けてください。危ないですから」
「了解です!」
リーブラから渡された天秤の形をした魔器を宝箱にかざした。拮抗しているか傾くかで中身が魔物かお宝かを判断してくれるのだ。
鑑定の魔器を手に楽しそうな私と一羽を見つめ、リーブラがつぶやいた。
「ダンジョン攻略って楽しいですか?」
「楽しいですね!リーブラ様には見慣れた光景ですか?」
「実は師匠のお使いのほぼ全てがダンジョンでの素材収集で……」
リーブラは師匠の命令で高頻度でダンジョンに素材やらアイテムを回収させられに行っているらしい。
故に、ダンジョンなんてものには飽きてしまっていて、できれば最短ルートで余計な部屋の探索をせずに踏破したいくらいなのだと語った。
「しかし、いつもはだいたい一人なので、この様な賑やかさは初めてです。稀に師匠が同行してくれるのですが、本当に稀で……どちらかと言うと邪魔で……」
師匠に言われた通りのレアドロップアイテムを手に入れた時も、ひたすら同じ魔物を狩り続ける苦しい作業でしかなく、おかげで宝箱に一喜一憂することも無くなってしまったそうだ。
「そういえば、アレンさんはダンジョン攻略経験はあり――――」
ますかと、リーブラは続けたかったのだろうが、宝箱を前に目をキラキラさせているアレンの姿に何かを察しているのが傍から見ていてもわかった。
「す、すごい……宝箱が本当に実在していただなんて……!誰が配置してるんだこれは!?」
「……こいつもコメントがおかしいな」
「あのアレン君はSSSランクなのですよね?ダンジョン攻略の経験ありますよね?」
「実は秘匿されしSSSランクだから、採取依頼しか受けるなと言われていて、今回こっそり……は、初めてダンジョンに入ったんだが楽しいものだな!」
「ええ!?アレン君経験者じゃなかったの!?」
「私は薬草の採取依頼しか受けたことがないんだ」
ものすごく胸を張って言われた。
しかし、冒険者として最下層でも武術の腕前はずば抜けているため、逆に秘匿されしSSSランクの真実味が増したような気がするのは、気のせいだろうか?気のせいだと思うが。
キラキラした瞳のアレンにリーブラが頭を抱え始めてしまった。
「精霊さん。このパーティでダンジョン攻略経験者、僕だけだったんですね……」
思えば、勢いでここまで来てしまったが、このパーティでダンジョン攻略経験者は自分一人なのだと、今更になってリーブラが気づいてしまった。気弱な彼の事だ、帰る等と言い出さなければよいのだが……。
「僕がやらなきゃ……」
「ん?」
予想外の言葉が彼から発せられた。
「ひあっ!!!!」
唐突に青い小鳥の叫び声が室内に響いた。
その声に間髪入れずにリーブラが反応し、アレンを呼ぶと、剣を手に彼が素早く斬りかかり、リーブラが強化魔術で援護した。
牙を剥き出しにして、噛みついてきた宝箱の形をした魔物は一刀両断され、すぐに動かなくなったのだった。
流れるような連携に私は言葉を失った。彼らは今日が初戦のはずだ。
城門前で感じた不安が嘘のように、戦闘だけは抜群の連携を見せてくれた。
「シルファ嬢……」
「ごめんなさい……鑑定結果が半々だったので誘惑に負けました……」
「次は事前に僕かアレンさんを呼んでくださいね。怪我がなくてよかったです」
「はい……ありがとうございます」
シルファは即座にリーブラの手の中に確保されていたらしく、彼の手のひらの上で小さくなっていた。それから、小鳥を優しくそっと私の肩に戻してくれた。
「リーブラ様が突然頼もしい」
「う、うん……頼もしかったです……」
小鳥は恥ずかしいのか己の羽毛の中に顔を埋め丸くなっている。
あの、公爵様一択だったシルファからの予想外の発言が!!
これも今までに無かった道ではあるが、予想外過ぎて何が起こるか全く私にもわからない。
攻略対象者はレオーネ以外を選ぶ場合もこの世界はあるのだろうか?
でも、彼女の選択肢が増えるのは悪いことでは無いと思うのだ。
「次はこっちかな!」
「逆ですよ。アレンさん。不用意に進まないで下さい」
リーブラは笑っているが、言葉の一つ一つに圧が感じられた。
今のリーブラはレオーネを守る為に覚醒したあの時の彼と似たものを感じる。
しかし、わからない。恋というトリガーがないのになぜ彼が覚醒したのか…?
そして、私は思い出したのだ。
先程のリーブラの『僕がやらなきゃ……』という切迫した呟きを……。
彼はあまりにも不甲斐ない2人の初心者冒険者と1羽を守らねばと思ったに違いない。
本来レオーネとの恋によって生まれるはずだった感情を、こんな事で覚醒させてしまい、申し訳ない気持ちを私は感じたのだった。




