16.初心者パーティの出撃
翌日。集合場所である城門の前で、昨日の出来事を盛大に引きずったまま、青い顔をしたリーブラを青い小鳥が励ますという奇妙な光景が広がっていた。
「本当に出しゃばった事言ってすみません、俺なんかが……!!」
「いいえ。結果的に許可がおりたのですから、気になさらないで下さい」
みたいな話しを先ほどから永遠に繰り返しており、その間ちゃんと話しを聞いてあげるシルファがいい子で堪らない。
しかし、昨日で少しくらいはアリエスというキャラクターを理解出来るかと思ったが、結局何もわからなかった。
まあ、リーブラの爆弾発言で全部吹き飛んだとも言えるが。
リーブラがシルファに興味を持てば持つほど、アリエスはそれを後押しするという予想は当たっていたと思う。現にリーブラのルートにおいてアリエスはその為だけに存在していたと言っても過言ではないのだから。
それにモブとして他の攻略対象とレオーネを冷やかしている事もあった。ゲーム中の役割を確実に全うしてくれるのが彼だ。
しかし、どうして彼は恋愛という感情の動きには過敏に反応するのだろう……?
ゲーム中ではモブでしか無かったため彼の素性も過去も私にはわからない。
今のところ一番イレギュラーな存在には変わりなかった。
「そろそろ、出発しましょうか……?」
ようやく気分が落ち着いてきたのか、リーブラがこちらに目を向けてくれた。
「しばしお待ちを。もう一人来ます」
「だ、だだっ、ダレデスカ!?」
猫に追い詰められたネズミの如く、建物の影にリーブラは身を隠してしまう。確かに彼に事前に話しをしていなかったことに私は気づいた。
「すみません。成功率を上げる為に、ギルドで前衛を一人雇いました。お伝えしていませんでしたね。」
「あ……いえ……結果的に連絡を絶っていたのは俺の方なので……すみません」
壁際からこちらに彼は謝罪している。
「あの、リーブラ様、私は――――」
いちいち怯えさせたいわけではないと伝えたかったのだが……怯えるリーブラの肩にそっと青い小鳥が寄り添った。
「リーブラ様。悩まれる事がありましたら、遠慮せず私達にお話してください。一緒にと言って下さった事、私はとても嬉しかったです」
「……はい。そう言ったのは僕の方でしたね」
本当にシルファが居てよかった。リーブラは事あるごとにレオーネに叱咤激励され強くなって行くのだが、方向性は違えど、今はシルファが上手くなだめてくれている。この共感力のようなものが私よりもシルファは断然優れている。
リーブラとの相性は悪くはないのだろう。同じ魔術師同士でもあるわけだし。
「あの、もし相手に女神様の事を気づかれるような事態に陥った場合、忘却の魔術を使うという手筈になっているので、ご協力をお願いします」
「は、はい!おまかせ下さい!」
リーブラと方針を確認し、我らが前衛の登場を二人と一羽で待った。
朝の日差しが眩しく、旅立ちの日にはもって来いといった晴れの日。
その男は城下の高い建物の上からお気に入りのマントを翻しこちらを見下ろしていた。
「待たせたね!ギルドが秘匿している最強SSSランク冒険者!アレンの登場だっ!!」
あからさまに三流っぽい台詞と共に小さくて妙に小綺麗な冒険者がなぜか上の方から落ちてきて、かっこよさげなポーズで着地をきめた。
彼はやりきったとばかりに、満足げな表情を浮かべ我々に微笑んだのだった。
ちなみにアレン氏のランクはFでギルドの最高ランクはSだと受付のお姉さんに昨日教わった。
その頭の悪そうな登場の仕方にリーブラの目の色がみるみる変わっていくのがわかった。
「……(忘却の魔術)やりますか?」
「待って下さい!まだです!落ち着いて!」
私は全力でリーブラを止めた。
「初戦で殺されそうな奴来たぁ!!」
「うんうん。君って最初に殺されそうだよな?安心しろ?私が守ってやるから!」
正直、言われてみればどちらも初戦で死ぬ、または逃げ出すキャラクターの動きをしている気がしてきた。
リーブラは早々に取り乱し、それをシルファがなだめていて、アレンは何が楽しいのかめちゃくちゃ笑っている。おかしい、攻略対象者ってチートみたいなもののハズだからリーブラを仲間にすることが最善のはずなのだが……あまりにも三者三様の動き過ぎて、大丈夫かなこのパーティ……。
人選をミスったかもしれない。
レオーネとしてゲームをプレイしていた時とは比べ物にならない程、試練の始まりに不安を私は感じたのだった。
×××
ダンジョンのある森までは馬車で移動することになった。
馬車が苦手らしいリーブラは吐き気をもよおし、シルファが酔い止めの薬を調合してくるべきでしたと一人謝罪を彼に繰り返していた。
弱っている存在を放っておけないらしく、賢明に傍らで励ましていて、とても可愛かった。
吐き続けているリーブラには悪いけれどすごく良い。
主人を賢明に励ます癒しのペット動画感を感じられてとても癒される。
穏やかな気持で二人を眺めていると、隣に座っていたアレンが話しかけてきた。
「お嬢さんって、どうして冒険者になったんですか?」
「うーん……」
「あまり、冒険者っぽくないなぁ……と」
そのとおり過ぎて返す言葉がなかった。
そもそもシルファはどうして貴族のご令嬢だと言うのに冒険者登録などしたのだろうか?本人は薬草の採取依頼をしたいからと言い張っていたが、依頼をするだけならば、装備を整える必要などないのだ。
友達が欲しかったのだろうか?
だとしたら、貴族は社交場に出るものではないのだろうか?
「あ……貴女はお嬢さんではなくて精霊さんでしたね。属性は何の精霊なのですか?」
「それが召喚が上手くいかなかったせいで記憶が曖昧で、魔術もシルファ様が使えるものしか使えない状態で……」
言ってて悲しくなるほど役立たずな自分に気づき、私は思わず遠く空を眺めてしまった。シルファという優れた魔術師の体にポンコツが入り込んだだけで、未だチート能力の一つも覚醒しないのだが……どうなっている。
正直、今のままだと入れ替わった事でシルファのスペックが落ちただけなのだが……。
どうして私がシルファの救世主として選ばれたのかは永遠の謎になりそうだった。
「すみません。やはり、私は驚くほど役に立ちそうにありません」
「そんな事はないかなぁ……魔術の失敗によって小鳥の姿になってしまったシルファ嬢があんなに元気でいられるのは精霊さんがいるから、だと思うな」
「……。」
私は彼のその言葉に、答えられず、思わず息を飲み込んでしまっていた。
おかしい。眼の前にいる小さな冒険者がとてもまともに見え、不覚にも涙が出そうになっていた。
この人は不思議だ。何も見ていないようで彼はちゃんと周囲に目を向けて状況を把握している。だから、相手の望む言葉がわかるのだろう。
はしゃいでいる時はとてもそんな風に思えないけれど。
「えっと、つまり、アレン風に言えば、私はこの物語をハッピーエンドに導くために異世界からシルファ様に召喚されし、救世主なのです」
「救世主……だと!!!」
途端に、アレンの目が輝いたのだった。
「シルファ様を泣かせるような世界は許さないという意気込みを言葉にしてみました」
本当の事を言った所で誰も信じないだろうと思い本当のことを織り交ぜて彼に話した。
「ならば我々はお嬢さんの守護者というわけだな!」
「アレン君もですか?」
「救世主って響がカッコいいから私も入れてほしい」
思えば、現実世界でこんな風に1人の女性の為に戦うなんてことが女の身である私にあるだろうか?
今、私には姫君の為に戦うと誓う英雄の気持ちが理解できそうな気がした。
そして、私とアレンはどちらからともなく、固く握手を交わしたのだった。




