15.この世界を救うよりも……!!
ダンジョンに向かう為の準備は整った。
侍女の仕事をしばらくお休みさせてもらうため、スピカ様にはシルファの魔術の失敗の話しを伝え、解呪の為に長期休暇を……というとんでもない休暇申請が受理されてしまった。私の代わりをしばらく母に努めてもらえるように後任もバッチリだ。これで私の方の準備は整った様に思う。
しかし、一向にリーブラからの連絡が無い。
王城ではレオーネの出発に向けて準備が着々と進んでいる。
彼女よりも先に出発したいので、そろそろ魔塔を訪ねるべきかもしれない。
今後の事を考えながら、王城から屋敷に帰るために私は馬車に乗り込んだ。
「うわぁああああ……!!」
そして馬車から飛び出したのだった。
理由は座席に真っ黒なローブに身を包んだ真っ黒いものが座っていて驚いたからだ。
「えっと……リーブラ様?」
真っ黒いものがおどおどしながら馬車を降りてきた。
「すみません。驚きましたよね……」
「これは誰でも驚きますからやめて下さい」
「は、はい……考え事で頭がいっぱいでした」
フードを外し、申し訳なさそうに彼はチラチラとこちらの様子を伺っていた。
「少し前に師匠から、勇者様に同行して試練に向かうように言われてしまいまして……師匠が行けと言って譲らないのです」
師匠からの命令を覆せた事が一度もないため、リーブラは一人で悩み行き詰まっていたらしい。しかし、当然といえば、当然の成り行きだろう。シナリオとしてはそれが正しいのだから。
「有紗……どうするの……?」
「うーん……。」
あのアリエスを納得させる理由……。
…………
……
……ある!!!
私はリーブラの腕を掴み、魔塔へと強引に引きずっていった。
×××
この時間アリエスは魔塔の最上階で胸焼け必須の激甘の珈琲を飲んでいるという妙に具体的な説明を受けながらリーブラの案内で、高い塔を登って行った。今回は最上階だったせいか、やけに時間がかかっていまい、階段がエスカレータの様に動いてなかったらシルファには登りきれなかっただろう。魔術師とはどうして高い場所を好むのか……。
息を切らして最上階にたどり着くと、宮廷魔術師は椅子に腰掛け、予想通り優雅に珈琲を飲んでいた。
「おや……リーブラ、貴方ついに結婚の報告を――――」
「違いますよ」
笑顔できっぱり彼は否定した。
隙を見せると取り込まれるとわかっているのだろう。
「お寛ぎのところ申し訳ありません。今日は私からお話がありまして、少しお時間をいただいてよろしいでしょうか?」
「では、婚約の報告――――」
「違いますよ」
間髪入れずにリーブラが話しを切った。
「つれないですねぇ。まあ、いいでしょう。それではどうぞ、オルテンシア嬢」
アリエスが杖を一振りすると、その場に椅子が現れた。
一脚しかないが……。
私はリーブラに目を向けた。
「僕に遠慮する必要はありません。どうぞ」
私は椅子を使わせてもらい、空中でふわふわと食器が勝手にお茶を注ぐ様に気取られそうになったが、話しを始めた。
「アリエス様。私が今どのような状態にあるか、貴方ならばお分かりになりますよね?」
「と、言うと……入れ替わっている状況の話ですか?」
流石としか言いようがなかった。
リーブラでさえ、そこまで初見で見抜く事は出来なかったのだから。
「残念ながら、それは私でもすぐには解呪出来ませんよ。そういった魔力の流れによるしがらみを解すのはとにかく時間を要するのです。コツコツ積み重ねるという意味では私よりもリーブラの方が向いています」
アリエスの視線がリーブラに向けられた。
「だったら……僕に、彼女の魔術の解除を手伝わせて下さい。時間がかかっても必ずやり遂げ……ます……ので」
値踏みする様に、アリエスは弟子を見つめていた。
「私の言いつけを断る理由はこれ、というわけですね?」
「はい……」
「つまり、勇者と共にこの世界を救う事よりも、君は彼女の力になりたいと?」
アリエスの大げさ過ぎる質問ではあったが、私は祈った。
手筈通りにリーブラがやってくれる事を……!!
「はい!そうです!僕はどうしても彼女の力になりたいんです……」
「……」
「この世界を救うよりも……!!って……はっ!?!?」
確かに、私の力になりたいみたいな話しを連呼して押し切ってほしいと行ったのは私だ。だが、あまりにもスケールのデカい話になってしまい……私は気恥ずかしさから、顔を上げられなくなった。
このゲームが乙女ゲームだからなのだろうか?
どうにもリーブラはこういった事故みたいな気恥ずかしい展開になることが多くて少し困ってしまう。
すると、アリエスは腹を抱えて静かに震え始めた。
おかしくて堪らないといった様子になってしまった。
「いいでしょう。貴方はシルファ嬢の力になってあげなさい。この世界が滅んでもいいわけですし」
「師匠……!!」
「冗談ですよ。かねてより勇者パーティに参加したいと打診してきた魔術師は山程いますから。まあ貴方に敵うのは1人か2人ってところですけど」
アリエスの言い方だとリーブラはずば抜けて優秀なのではと思うのだが、先程の自分自身の爆弾発言のせいで彼の耳には全く入っていない様子だった。
何が面白いのかわからないが、アリエスはその後もしばらく1人で笑い続けていて、リーブラは顔を真っ赤にしてその様子に耐えていたのだった。




