14.シルファを巡る戦い
ギルドの前では三人の男がシルファを巡って睨み合っていた。
実に素晴らしい状況だと思う。
この美しい生き物を前にして男たちが争わないわけがないのだから。
思わぬ胸アツ展開の到来だった。
しかし、冒険者の実力は身長で決まるとは思わないが、剣士の場合はやはり体格差は不利になることもあるように思う。圧倒的に大柄な男対小柄な男といった状況。
啖呵を切っていたが本当にアレンは大丈夫なのだろうかと少し心配になってしまう。
「地べたに頭こすりつけて土下座するなら今のうちだぞ、小僧!」
「なんで私が負けると決まっているんだ!土下座するのは君たちのほうだぞ。土下座の準備はいいか!?」
謎の決め台詞と共に、アレンは剣を引き抜き、大柄の男に切っ先を向けた。
漆黒の刀身に碧色の模様が発光し浮かび上がる見栄えする剣で美しかった。
大柄の男は背に背負っていた大斧を手にすると思い切り振りかぶり躊躇無く振り下ろした。
その一撃は力任せで地面にめり込み石畳が飛び散る程だったが、アレンは身軽に避け、そのまま斧を踏み台にして大柄の男の頭目掛けて、見事な空中蹴りを入れ、着地と同時に剣を構えた。
「蹴るんだ」
「見事な蹴りです!」
頭を蹴られた男はよろめき、大斧を手放してしまう。
「おい!見てねぇでお前もやれ!」
「二人がかりって、流石にダメじゃねぇかぁ?」
「喧嘩にルールなんてあるかよ」
男が見物していた相棒に声をかけると、アレンの前に二人の男が立ちはだかった。
一人は魔術師だった様で、杖を構え彼は炎の玉を出現させ、それを小刻みにアレンに向かって打ち込んでいくのだが、どういうわけか、アレンに一つも当たらない。
アレンは魔術攻撃を緩慢な動作で、見切りながら少しずつ前進し、反撃のチャンスをうかがっているようだった。
炎の魔術から距離をとり、動かない大斧の男を盾にしつつ通り越し、魔術師との間合いを一気に詰めた。
そして、腹を蹴った。
「やっぱり蹴るんだ」
「カッコいいです!」
魔術師はそれだけで気絶してしまい、動かなくなってしまった。
アレンは続けて、素早く体を反転させ、今度は背後で大斧を振りかぶった男の懐に入り込み、みぞおちをぶん殴っていた。
「殴るんだ……」
「殴りましたね!」
あの筋肉が見てくれだけだったのか、アレンが馬鹿力だったのか……わからないけれど。殴られた大男は泡を吹いて気絶したのだった。
剣士は戦いを終え、優雅に漆黒の美しい剣を鞘に戻し、私の方へとやってきた。
正直、なぜ剣を抜いたのかについては最後までわからなかった。
「どうかな?パーティを組みたいなら、私を雇って損は無いと思うのだけど?」
「あの……なぜ剣抜いたんですか?」
「お嬢さんの前でカッコつけようと思って!」
あまりにも反応が素直過ぎて私は目を丸くした。
彼は剣を引き抜いて、私の前にかざした。
「実はとある商人から高値で購入したんだけど、この剣、魔力を通さないと切れ味が半減する魔剣士用の剣だったんだ。俺には魔術適性がないから、全然切れない上に、耐久も弱い。でも勿体ないから、こういう時に、カッコつける為に持ち歩いているんだ」
「ぶっ……」
私は思わず吹き出していた。
そんな理由の為に高値で剣を買う人がいるのだと思うと堪えきれなかった。
やはり相当な金持ちなのだろう。
「私は魔術師のシルファです。貴方は?」
「私は剣士のアレン。あ!ちゃんとした剣も持ってるからそのあたりは心配しないで」
戦闘時とはうって変わって、柔和な微笑みを彼は浮かべている。悪い人ではなさそうだなと感じた。
それに、彼を見ていると何か思い出しそうになるのだが、思い出す事はできない為、もしかしたらゲーム中に存在したモブの可能性も考えられる。繋がりを作っておくことに越したことはないと思った。
「では、ギルドでパーティ登録しておきましょうか。色々お話もお伺いしたい――――!!」
話しを遮るようにして、突然腹の虫がないた。
私では無い。シルファも首を振っている為、一人しかいないだろう。
小鳥と私が、アレンに目を向けると、眼の前の彼は腹を押さえて恥ずかしそうにこちらを一瞥した。
「ち、違うんだ。誤解しないでくれ。食べ物を買うお金はあるのだ。断じて、市場の屋台での振る舞いがわからなかったわけではないぞ」
この言い回しはやはり貴族確定なのでは?
シルファの様に貴族の身でありながら冒険者登録する変わり者の可能性がどんどん強まっていく。
「それなら、市場の屋台で何か食べますか?」
「本当か!?……そうしてくれるとありがたい!」
すると彼はこちらに向かって手を差し出した。
「では、参りましょうか。喧嘩で散らばった破片が危な――――」
その仕草は舞踏会で何度も目にしたものであり、冒険者の彼がするようなものでは無いはずだ。私は思わず、キョトンとしてしまい、反応が遅れた。
「あ……」
何かに気づいたのか、彼は気まずそうに手をおろした。
「あはは……その……うん、これは貴族の友人に教わったかっこいいエスコートの方法なんだけれど、気にしないでくれると助かる」
「はい……」
それは、あまりにも自然で流れるような美しい所作だった。




