13.立っているだけで伝わる魅力
レオーネを武器屋に案内し、彼女と別れた後、私はそのまま前衛を一人確保出来ないかと冒険者ギルドを訪れていた。
勇者が女神から賜る祝福は誰もが知る所だが、実際にその詳細を共有しているのは国王と勇者パーティだけだ。
故に試練とされるダンジョンを踏破し、最奥に眠る秘宝を得るという行為自体は冒険者が日常的に行っている、探索そのものであるため、詳細を伏せれば冒険者を一人前衛として雇うことは可能だと思ったのだ。
酷い話ではあるが、この世界には忘却の魔術が存在している。
いざとなったら忘却してしまえばいいという考えにたどり着いた。
とはいえ、こういった経験は全く無いし、初心者を狙った詐欺などもあるらしく、依頼の貼られた掲示板の前で私は考え込んでいた。
「ごめんなさい。私もパーティを組んだことは一度も無くて……薬の素材の採取を依頼する程度で、冒険者登録をしたのもその為なんです」
「つまり……自分は依頼を受けないのに、武器屋で装備を整えてたってこと?」
「うっ……そ、そんなことは無いです。いつか一緒に行ってくれる仲間が出来れば行こうと思ってたのです。そのためにも装備は必要です」
「……」
「本当!本当なんですよ!有紗!」
私はその青い小鳥のあまりの可愛らしさに固まった。
その間小鳥はピーチクパーチクと永遠に言い訳を囀っているのだった。
可愛すぎる。絶対に守らねば。
「おっ、可愛い魔術師さんだなぁ。」
唐突に見知らぬ冒険者に声をかけられた。
「ええ。そうでしょう?この愛らしさがわかりますか。お目が高いですね」
などと、流れるように第三者目線で言葉を返していた。
まずい。あかん。やってしまった……!!
誰かとこの感覚を共有したかったとはいえ、相手を完全に間違えた。これはナンパに近いものだ。
声をかけてきた冒険者二人のうち一人はあっけに取られていたが、大柄の逞しい筋肉の男は私の言葉をものともせず更に続けてきた。
「うんうん。そんな可愛らしい魔術師さん。パーティメンバーをお探しなら、俺らなんてどうかな?」
「いや、やめろお前みたいなきたないおじさん、相手にされるわけないだろやめろぉ〜魔術師ちゃんも迷惑だよねぇ?」
「きたないは余計だろてめぇ!」
すでに話がパーティメンバー探しではなく、ナンパの寄りになってしまっている。ここはハッキリ断っておかねばなにか面倒な事になると私は直感した。
やはりシルファの可愛さは立っているだけで周りに伝わってしまうのだ。
彼女が若い女性冒険であるのならなおのことこういう状況には警戒しなくては……リオンが過敏になる気持ちを少し理解出来た気がする。
「今日は薬草の採取を依頼しに来ただけなので、すみませんが……」
「ならその依頼、俺達が受けてやろうか。なんなら一緒に行ってやってもいい」
「だから、彼女困ってんだろ〜いい加減気づけ〜ごめんねぇ魔術師ちゃん」
「女の冒険者が一人で行動するのは危ないから声をかけてやってるだけだろ」
なぜかこの緩いループ抜け出しにくい。
私は曖昧な微笑みを浮かべるしかなく、決定的な抜け出す行動を生み出せない。
転生者ってこういう時に相手をハッキリ言い負かして真価を発揮するものだと思っていたのだけれど……私の場合、長身の筋肉男の圧に負け、全く役にたてていなかった。ポンコツ過ぎる。
しかし、本当に生身で見る冒険者って筋肉隆々が多すぎて素直に怖い。
この人もバカでかい斧を背負っているし…。
「あっ!どこに行ってたの?探してしまったよ」
「!?」
「ちょっ……アレンですよ!せっかく雇ってくれたのにすぐに名前を忘れないでくださいよ!」
そうして私がもたついていると更に状況を混乱させる出来事が起きた。
見ず知らずの小柄な男性の冒険者が更に声をかけてきたのだ。
しかし、この状況を脱するのにはいい手かもしれない。
なにより小柄だった。背もシルファとほぼ同じくらいなので、男性としては平均より劣るだろう。周りのデカい筋肉の人たちよりも安心感があった。
「えと……すみません。名前を覚えるのが苦手で。失礼しました、アレンさん」
「わたっ……お、俺は彼女の護衛をしている者だ。雑務は俺が引き受けているので、間に合っている。仕事を奪われてはたまらないで、お引き取り願おうか」
「魔術師ちゃんの護衛?この小さいのが?」
お父さんと子供くらいの身長差がそこにはあった。
「身長と冒険者の実力は関係ないだろ。文句があるなら受けて立つよ」
「ほぉ……そうかい」
斧を背負った男とアレンという名前の小柄の彼は互いに睨み合って、そのままギルドを出ていってしまう。
どうしたものか、勝手に本人置いてけぼりでイベントが進行していく。
正直現時点だとどちらも不審者でしかないのだが。
「今なら逃げられそうですが、どうします?シルファさん?」
「流石にそれは可哀想ですよ……行きましょう有紗」
心優しき小鳥さんがそう言うので、私は彼らの行く末を見守ることにした。




