12.主人公レオーネ登場
どうやら背後から、武器を手にした男が複数私を追ってきているという。
「シルファ、騎士様には親衛隊的な存在がいるのかな?」
「はい。有名ですよ。私のような魔女が彼と話をしたら、こうなりますよね」
「そんな乙女ゲームの闇みたいな話聞いてないぜ!」
パニックに陥り私の語尾は迷子になった。
レオーネとしてゲームをプレイしていた頃はそんな状況に陥ることは無かった。
それは、彼女が物語の主人公であり、尚且つシリウスがレオーネの側近となったからレオーネに手が出せなかっただけ……?
完全にゲームの知識外の情報に襲われていた。確かにシリウスが女性に囲まれているという表現は連発されていたが、まさがそれが親衛隊を示唆しているとまでは考えが及ばなかった。
つまり主人公でなければ、攻略対象とは話しをすることさえままならない事もあるのだ!!
私は再び逃げ出そうとしたが、それをシルファに制された。
「大丈夫ですよ。有紗。私を誰だとお思いですか?」
「はっ!!そうだ私は今オルテンシアの魔女!!」
「そうです。こんなことで逃げる必要なんてないのです。間合いには気を付けて、迎え撃ちましょう」
背中の大きな水晶の様なものがついたとても魔女っぽい杖は飾りではない。
これは私の武器だ!
武器を手に取り……そして私は固まった。
「魔術ってどうやって使うんですか!?シルファさん!?」
「え!?……えっと……こう、私は水属性なのでバシャーン!かドーン!くらいの勢いなら建物を壊したりしないと思うから……!!」
小鳥が翼をパタパタさせてイメージをつかめと言っているのだろうが、全く理解できない。
とりあえず何か思い浮かべれば魔術を使えるのだろうか?
私は必死にRPG系のゲーム画面をイメージし水の魔法の想像を試みたのだが……。
ただそこに杖があるだけだった…!!
待って。こういう時にこそ、なにかチート能力が発現したりするのが異世界人ではないのか!?
そんな風にあたふたしているうちに逞しい体つきの男たちがこちらに迫り、間合いに気をつけろといわれたのにも関わらず、取り囲まれていた。
「すまねぇな。お嬢さんに恨みは無いが、雇い主からの命令でね。少し痛い目にあってもらわなきゃならん」
「いいいいいい痛い目ってなんですか!?!?」
屈強な男の手が私を捕まえようと伸びてくる。
思わず目を閉じたその瞬間、全身の血液が沸き立つような感覚に襲われた。
勝手に両手で杖を握りしめ、相手を睨むと、どこからともなく大量の水が流れ込んできて、それらが男たちを路地の向こう側にまであっという間に押し流してしまった。
「やりましたね!有紗!」
「うん……??」
自分がやったという感覚はあるものの、体が勝手に動いたのは間違いなかった。
「その……どうやら私が魔術を使おうとすると有紗が魔術を放つみたいです……」
「遠隔操作のロボかよ私は……」
召喚が上手くいかなかった後遺症とでも考えればいいのだろうか?
オート操作機能みたいで楽ではあるけれど。
「へぇ……すごいな。こんなに狭い路地にあんな濁流を流し込むなんて……。魔術師って色んな事ができるんだね」
杖を構えて私は即座に振り向いた。
しかし、慌てて杖を背後に隠した。
そこには薄紫の髪をした美しい、この物語の主人公が存在していて、私を見つめていたからだ。
「それで?君は一体何をしたの?」
この場面には少し既視感があった。
シリウスがご令嬢達から逃げるために路地裏に入り、荷台の後ろに隠れていた。その時のやり取りそのままだったからだ。
こんな展開もあるんだなぁ……って…これは、もしかすると私はシリウスのチャンスをまたもや奪ったという事だ。もはやシリウスルートは死んだと言えるだろう。申し訳ないが。
「突然あの人達が追いかけてきたので、私にも何がなんだか……えぇと……?」
「ああ。私の名はレオーネ。このあたりに腕の良い武器屋があると聞いて探しているうちに、迷ってしまって……そしたら、君が男達に囲まれているから、助けに入ろうかと思ったんだ。必要なかったけどね」
「あはは……」
魔術を使わずともレオーネが助けてくれるイベントだったようだ……助けてもらいたかった!!
「冒険者……かな?」
舞踏会で同席はしていたが、どうやらレオーネはシルファに気づいていないようだ。
「ええ。冒険者で名前はシルファです。レオーネは剣士……ですか?」
「ふふっ……そういう事になるか」
ゲームの中でレオーネは白い刀身の剣を振るっていたはずだ。
だが、なぜか今彼女の腰にあるのは先ほど武器屋に何本も並んでいた、量産された良くある剣だった。ゲームの中では出てこなかった剣の存在を知ることになり、私は彼女の秘密を知ったような気持ちになったのだった。
「安物だが、大事な人からもらったものだから、手入れをしてやりたくてな」
愛おしそうにレオーネは剣を見つめていた。
「よろしければ、武器屋までご一緒いたしますよ」
「ああ、大丈夫。場所を教えてくれればそれで……」
レオーネとシルファは心を通わせながらも立場的に敵対することが多い。彼女に殺されることすらルートによってはある。あまり積極的に近づくべきではないとは思うのだが……。
「すぐ近くなので、気にしないで下さい。レオーネ」
私は強引にレオーネの手を引いた。彼女は目を丸くして、それでもそのまま私についてきてくれた。
せっかく出会えたのだ。道案内程度の交流を許してほしいと思った。




