閑話①「母の目」
朝食の準備をしながらリクが起きてくるのを待った。
ガレンはもう出ていた。
「行ってくる」だけ言って振り返りもしなかった。
あの人もあの人で、昨日の件が頭にあるのだろうと思う。
言葉にしない分だけ抱えているものがある。
粥の塩加減を確認しているとリクが起きてきた。
朝食の手伝いをしに台所に来たリクの顔を見る。
変わらない顔だった。
泣いた跡もなかった。腫れてもいなかった。
荒れなかった。
何かを訴えるような顔も、しなかった。
ただ、いつもの顔で「おはようございます」とだけ言い、朝食を並べ始める。
昨日あんなことがあったのに、箸を持つ手も、茶碗を取る指も、変わらない。
朝食の準備を終え、食べ始める。
リクは何も話さない。私も何も話さない。
「悔しかった?」
気づいたら聞いていた。
「別に」
間を置かずに返ってきた。
嘘をついている顔ではなかった。本当に「別に」なのかもしれない。
それが——余計に、気になった。
悔しいのに悔しくない顔ができる子、というのは、2種類いると思っていた。
すごく強いか。
すごく我慢しているか。
どちらかは、私にはわからなかった。
「そう」とだけ言って粥を置く。
それ以上は聞かなかった。聞いても、答えが出てくるものではなかった。
リクは何も言わずに粥を食べ続ける。
きれいに食べた。残さなかった。「ごちそうさまでした」と言って茶碗を流しに持っていった。
「行ってきます」
それだけ言うと、リクは外に出ていった。
少ししてセナの声が聞こえて、2人分の足音が遠ざかっていく。
流しで茶碗を洗いながら考えていた。
ふと、思った。
この子のこういう顔、どこかで見たことがある。
誰の顔だったか。
思い出せなかった。
ずっと昔のような気がする。
でも、どこで見たのかはわからない。
窓の外で風が吹いた。
葉が、揺れた。




