第一次茶番戦争⑤
「術の類は一切通じないことはご理解頂けたかしら?」
記念すべき百まで残り一を切った九十九周目。
毎度お馴染み昆虫走法により詰み地点まで到達。
前回はここで禁術リセットをかけたが最早、その必要はない。
「……なるほどね」
ルイは内心、ほくそ笑んでいた。所詮この程度かと。
令嬢の攻勢防壁をものにした時点で術関連のスキルは大幅に向上していた。
だがルイは老人の時と同じように自らの能力を誤認させるべく偽装を行っていた。
令嬢がそこに見抜けていない時点で二人の格付けは済んだと言って良いだろう。
「好んで子供を殺める趣味はありませんの。退いてくださるなら」
「理解したよ。あんたは“良い教科書”になってくれた」
「……何ですって?」
ルイは答えず二度、三度具合を確かめるように手を開閉する。
そして、
「こうかな?」
令嬢の使う攻勢防壁を展開してみせた。
「な」
令嬢の目が驚愕に見開かれる。
対術式専用攻勢防壁。それは彼女にとって術者としての最高到達点だった。
それを明らかに自分より劣っていた少年が真似をしてのけたのだ。
いや真似どころか、
(私よりも、上……ですって?)
その質はほんの少しではあるが自身を上回っていた。
覚えたてでこれなのだ。ルイにはまだまだ先があるのは明白。
ゆえに、
「……どうやら、あなただけはここで何が何でも殺さねばならぬようですわ」
覚悟を決めた。
目指す理想の先をこの目で見られなくなるのは残念だ。
しかしここでルイを先に行かせてしまえば必ずや大きな障害となる。
それこそ器物解放戦線の命脈を絶ちかねないほどに。
「そうか」
殺気を受け流すルイを見て歯噛みする。
揺れない、ブレない、どこまでも凪いでいる――これが心底厄介なのだ。
ありとあらゆる手段、それこそ禁術なども用いて殺しに来る。
そう宣言されたようなものなのだから少しぐらいは強張りを見せても良いだろう。
「何て可愛げのない……!!」
付け入る隙がまるで見えない。
ならば無理矢理こじ開けると令嬢は地を蹴った。
攻勢防壁同士が衝突すればどうなるかを開発者である彼女は当然、理解していた。
あちらは間違いなくそれを狙っている。ならば先手を取るしかないと。
「果断だな」
「皮肉かしら!?」
多種多様な術を織り交ぜての近接戦。
だが術の方はともかく徒手の技術は一流に届くか届かないか程度。
老人を糧として成長を果たしたルイにはどう足掻いても及ばない。
(まさか、この方……源信さんを肉弾戦で……!?)
ルイがその万能さで老人を封殺した。
令嬢はそう思っていたが直に振るわれる拳足を見てそれが間違いであったことに気付く。
この少年は体術で真っ向から同胞を打ち破ったのだ。
(届かない……ッッ!!)
ルイが勝負を急いでいればその焦りが隙となったかもしれない。
だがそれすらなく、徹底的に隙を殺す堅実な立ち回りを続けている。
じわじわと確実にこちらを仕留めるために。
(……致し方なし)
禁術は痛打を与えられる確信の下に放つつもりだった。
だが最早、贅沢は言っていられない。
(身体強化――まずは二十年、持って行きなさい!!)
寿命は代価としてはポピュラーなもの。
だからこそ令嬢も捧げる寿命によるブースト量を熟知していた。
痛打ではなく無理矢理隙を作らせるために最低限必要な寿命は二十年。
そう判断し代価を払い術を発動しようとするが、
「は? あ……ぐっ!?」
寸前で禁術を解体されてしまう。
得られるはずだった強化を得られず拳が腹に突き刺さりその矮躯が吹っ飛ぶ。
解体された際の驚きで生じた隙を狙い打っての浸透勁の一撃。
令嬢の内臓はかなりの部分が破壊されてしまった。
治せはするが、それでかなりリソースを削られる。また一歩、彼女は敗北の淵へ追いやられた。
「悪いね。禁術は僕の得手なんだ。どう崩せば良いかも誰より熟知してる」
散々リセットボタン扱いして来たからな。
禁術に関しては前周の時点でも令嬢よりは上だろう。
「……最悪、ですわね」
「止めるか?」
「まさか。冗談を仰らないで」
言いつつもその顔色はよろしくない。
怪我だけがその理由でないことは誰の目にも明らかだ。
それを見てルイは、
(……嗚呼、良い。最高だ。そうだよ。僕はその顔が見たかったんだ)
喜びを噛み締めていた。
老人で堪ったフラストレーションがどんどん晴れていくようだった。
よし、もっと徹底的に油断なく追い詰めてやろう。
血も涙もない立ち回りが続き、
「……わたくしたちの邪魔をしたこと……後悔、いたしますわよ」
「だとしてもお前には関係のない話だよ」
「……本当に、可愛くない」
令嬢は何一つ成せぬまま死んだ。
これで二つ目。残りの場所でも戦闘は続いているが最早消化試合だろう。
「一番近いところから行くか」
増援に行き敵を潰す。
増えた味方と共に別の場所へ。
それを繰り返し敵の目論見を潰していく。
最後の最後で予想を超える痛撃を与えられはしたがそれだけ。
広島突入から三時間後、勝敗は完全に決した。
「……一先ず、こちらは片付いたか」
「でも……流石に、長崎に向かう余力はないわね」
平和記念公園では息も絶え絶えな最高戦力が座り込んでいた。
下っ端の死者はかなり出たが課長陣withルイは全員生存。だが消耗は甚大。
不完全な状態で無理矢理生み出された核の付喪神を相手取ったせいだ。
ルイも式神こそ無事だが禁術で五行扇を失ってしまった。
「……こんな状態で向かっても足手纏いになるだけ。してやられたな」
「味方の勝率を少しでも上げるため……敵ながら天晴じゃないか」
もう出来ることはない。
「あちらが味方を信じるなら僕らもそうしよう。大丈夫、モモさんたちならきっとやってくれるさ」
ルイの言葉に全員が頷き目を閉じた。
その一時間後のことである。
「ご、ご報告……!!」
未だ休息中のルイたちの下に伝令がやって来る。
その顔を見て全員が気を引き締めた。良くない報せらしいと。
「……か、核の付喪神誕生は阻止したものの解放戦線の首魁は逃亡」
伝令の声は震えていた。
「異常戦力は……い、一ノ瀬課長を除き全滅……」
それは最悪の報告だった。
「一ノ瀬課長も、最早長くはないとのこと……!!」
だがそれは、
(――――いやったぁああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!)
この男にとってはかつてない福音であった。




