第一次茶番戦争④
「……他は、まだか」
基点を破壊したルイは虚空を見やり呟いた。
腸は煮えくり返っているが不貞腐れている暇はない。
敵の企みを阻止出来ず無能の烙印を押される方がよっぽど屈辱だからだ。
まあ実際のところ失敗してもルイを無能だと責める大人は特対には居ないのだが。
むしろ褒めるだろう。現に一番早く儀式の基点を一つ潰しているのだから。
(無能が僕の足を引っ張ってる……!!)
悪態を吐きつつルイは考える。
既に戦闘が行われている基点に行き加勢するか、フリーの場所に向かうか。
事前の打ち合わせでもそこは各自の判断に任されていた。
(……課長就任を視野に入れるなら恩を売る方が――うん!?)
完全フリーの基点がある方角から強い力の励起を感知する。
ルイは即座に理解した。術式を組み替えていると。
原因は老人が守っていた基点を潰したことで間違いないだろう。
あの基点が担っていた分も負担することで術式が破綻しないようにしているのだ。
(これほどの術式をどうにか出来る手合いってわけか)
好き勝手させたら確実に尾を引く。
そう判断したルイは舌打ちと共に駆け出した。
(短期決戦。一気に消し飛ばしてやる)
走りながら五行扇と指輪の異能をフルに行使。
最大火力を放つ準備を整える。
「お前か」
数キロ先に居る女を視認。
華美ではないが品のある装いをしておりまるでどこぞのご令嬢のようだ。
だが見かけに騙されることなかれ。あの令嬢が術者で間違いはない。
語る時間も惜しいと問答無用で極光を放つ。
女はこちらを見やるがその顔に焦りはない。
「は?」
防ぎも躱しもしなかった。光は嘘のようにすんなりと女を飲み込んだ。
光が晴れる。女は無傷だった。
「源信さんを仕留めただけはありますわね。でも、残念。効きませんわ」
口元に手を当て上品に笑う令嬢。
ルイは腸をグツグツさせながらも冷静に状況を分析していた。
攻撃に対してノーアクション。それはつまりどういうことだ?
何をせずとも害されないという確信があったからだろう。
信じ難いことだが、
「……絶対耐性」
「あら」
「“陰陽術への絶対耐性”があるわけか」
術全般にというわけではないだろう。破格が過ぎる。
だからギリギリあり得るラインが陰陽術への絶対耐性。
口にしたルイ自身、半信半疑だった。
だが、
「まあ」
たおやかに驚きの色を滲ませる令嬢を見るに当たりだったらしい。
種が割れても平然としていることからカードはそれだけではないのだろう。
これでルイは陰陽術とその産物である式神を封殺されてしまったわけだが焦りはない。
即座に使用する術を陰陽術から魔術に切り替え攻撃を放つ。
が、令嬢を護るように浮かび上がったドームのような障壁に触れた瞬間に霧散。
「……護り、というよりは攻撃か」
「あらあら、本当に目がよろしいのねあなた」
その通りだと令嬢は肯定する。
その余裕綽々の態度がどれだけルイを苛立たせていることか。
説教部屋で見てるブラウンはもう先の展開が読めてしまい、頭を抱えていた。
「相手の術式に反応して自動で解析と解体を行う攻勢防壁。見事なものでしょう?」
「……」
分かってはいるが試さざるを得ない。
ルイは自分が使える体系の異なる術式を全て行使し防壁の性能を確かめた。
その練度はどれも一流の域にあったが、一つ残らず解体されてしまった。
「術者殺し。仲間内ではそう呼ばれておりますのよ」
老人が超一流の武術家ならば令嬢は超一流の術者。
いや実に都合の良い敵だこと――というのはさておくとしよう。
共に超一流だがこちらは老人と違いくだらないプライドを捨てれば勝てるという相手でもない。
(術を封殺された以上、体術でやるしかないが……)
老人を糧にして超一流の領域に足を踏み入れたとはいえ令嬢相手ではあまりにも心許ない。
このレベルの術者が近接対策を練っていないと考えるのは馬鹿の思考だ。
こちらの術は封じられているのにあちらは使い放題で体術だけで打破するのも困難。
この盤面は完全に詰んでいる。
そう判断した瞬間、ルイは禁術による自殺リセットを行った。
【お前がスパダリになれなかったせいで世界は滅びました。あーあ】
「……」
【えーっと、その、何と申しますか】
「……」
説教部屋に辿り着いたルイは無言だった。
ブラウンは無言で俯くルイを見て噴火寸前の山を幻視する。
それは決して錯覚などではなく――――
「あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!
ふざけやがってふざけやがってふざけやがってふざけやがってぇえええええええええ!!!!
爺もあのブスもどこまでも人を虚仮にして……! 何様のつもりだ身の程を知れェ!!!!!
たかが暴力に長けているから何だってんだ!? たかだか術の扱いが上手いぐらいでそれが何かァ!?
誇れるものが一つしかない非才のゴミは大変ですねえ! それしか縋るものがないんだからさァ!!」
その後、数か月休みない罵倒が続いた。
ブラウンは呆れを通り越して感動を覚えていた。
人は誰かの悪口をここまで続けられるものなのか。
よく罵倒の種が尽きないな。これもう一種の才能なんじゃないかと。
「はぁ……はぁ……はぁ……!!」
【それで、どうするんです?】
「舐めるな不燃ゴミ! 僕を誰だと思ってる!? 既に攻略法は見つけてるよ!!」
【おぉ! では早速――――】
「馬鹿が! 直ぐ実行出来るわけじゃないんだよ死ね!!」
パチンと指を鳴らしルイはその場に座り込んだ。
今度はブラウンも読みを外すことはなく洋菓子とコーヒーという正解を選べた。
「……あの攻勢防壁だ。あれを僕も展開してそのまま距離を詰めればそれで事足りる」
ロジックエラーのような現象が起き無効化される。
そうなれば後はもうどうとでもなるとのことだが、
【使えるんですか?】
「禁術で解析したからな。原理は分かる」
無敵のバリアなんてものは存在しない。
あれが機能するのは攻撃などあくまで術者を害するものだけ。
とはいえ解析だけなら弾かれていた可能性もある。
なのでルイは禁術の解析に令嬢へのバフを組み込み結果、解析は成功。
「今回は無駄に周回を重ねる必要はない」
今はまだ使えない。
だが原理が分かれば練習は出来る。
ここなら幾らでも時を注ぎ込めるし、術に失敗しても死ぬことはない。
「やりたい放題だ」
血走った目でルイは笑う。
「見てろ。あのブスの何もかもを踏み躙って殺してやる……!!」
【容姿は整っていたように思いますが……】
「汚物のような内面が台無しにしてるんだよ! それぐらい分かれ!!」
その理屈だとコイツはアルティメットブサじゃん。




