はぁ?
【お前がスパダリになれなかったせいで世界は滅びました。あーあ】
「ふぅ」
八十八周目が終わり何時もの説教部屋。
出迎えの言葉を弄るマイブームは終わったようでブラウンも普段の定型文に戻っていた。
【――――では反省の弁をどうぞ】
「……?」
この顔にピッタリの擬音は?
アンケートを取れば百人が百人キョトンと答えるレベルのキョトン顔。
ブラウンは恐怖した。
コイツは自分が一体何をしたのか本気で分かっていないのだと。
が、
「……あー、いやそういうことね。はいはい、分かった分かった」
【ほっ。何だ。分かってるんじゃないですか】
ポンと手を叩き照れ臭そうに頭をかくルイを見て胸を撫で下ろす。
いや撫で下ろすな。
お前が考えてることからすればどう見てもおかしいぞそいつのリアクション。
「――――禁術の設定ミスったわ」
【――――何を言ってるんです?】
「惨めな顔を見るためには命を捧げちゃダメじゃん」
やらかしてしまった。
片手で顔を覆い座り込んでしまったルイの表情を見ろ。
まるで些細なケアレスミスで点を失ってしまった優等生のようではないか。
「威力落ちても寿命を残り十秒まで代償にするのがベストだったわ」
うんうんと頷くルイにブラウンはテレビを震わせる。
【あ、あなた……それ、本気で言ってます……?】
今回の死因は本人の言からも分かるように禁術だ。
だがそこではない。
問題は命と九十九一揃えを代価に起こった現象の方にこそある。
【東京都を丸ごと更地にするような自爆をしたんですよ?】
これだ。
そういう大火力を放つ場合、空間の隔離処置などは必須。
そうしなければ一般人に多大な被害が及んでしまうからだ。
悪党たちですら後々の面倒を考えてそこらはしっかりやってる。
【あなた何の処置もしてませんでしたよね?】
だから発動したその瞬間にブラウンは巻き戻しを敢行したのだ。
どうせなかったことになってしまう。
だが無意味に人を死なせるのは違うだろう。
「はぁ?」
返って来たのはこの一言。
声色と表情を見れば猿にでも分かる。
お前は一体何を言ってるんだ? 馬鹿なのか? とルイは言葉以外の全てで表現している。
「さっちゃんに施した外法の恐るべき精度。あっさり僕の背後を取った事実。
そこらを勘定に入れれば自分がどれだけ馬鹿なこと言ってるか分かるよな?」
悠長なことをしていれば勘付かれる。
やらないだろうという思考の隙を突く以外では有効打を与えられない。
だからこそのノータイム自爆なのだとルイは肩を竦める。
「はぁぁああああああああ……頭の悪い奴の相手は本当に疲れるわ。
何だっけ? IQが20違うだけでも会話が成立しなくなるんだっけ?
僕とお前の間にある差を考えると、この会話さえ通じてない気がするよ。
でも良いさ。どんなゴミカスにでも慈悲をくれてやるのが釈迦の再来と呼ばれるこの僕だからね」
釈迦の生まれ変わり、と言わないあたりしっかりしてるのかしてないのか。
いやしてないな。不遜にもほどがあるわ。
「赦そう。お前の愚かさを」
死して尚、その性根正されることなく悪口雑言を繰り出すその姿正に“屑”。
その人生で口にした自賛、実に数兆。放った罵倒はそれ以上。
さりとて――そのどうしようもない在り方に、或いは救いようのないその人生に、一切の“反省”なし!!
【……倫理観を数値化するとして20も差があれば話が通じないという仮説を提唱したくなりますね】
「ああそうか。知能だけでなく倫理観って意味でもお前ゴミだもんな」
【皮肉が通じないんですか!?】
「いや事実だろ」
パチンと指を鳴らし茶と菓子を出させる。
こんだけ虚仮にしてる相手に平然と要求出来る感性は最早、モンスターだ。
「真っ当な倫理観の持ち主が終わりの見えない繰り返しを強いるもんかね」
【んぐ……!?】
正論である。
こればっかりは文句のつけようもない。
選んだ相手がルイだから悲壮感皆無なだけで常人なら何度発狂していることか。
「さてどうしようか」
ブラウンを黙らせたルイは茶を啜りながら今後について考える。
怨敵の機人佰號に一発かましたは良い。
だが冷静になって考えればあんな糞のために命を捧げるのは抵抗感がある。
幸男を曇らせるためなら何度も死ねるが機人佰號のためには嫌だ。
「心底ムカつくけど次からは我慢するか」
何時か正面から殴り殺せるその日まで耐える。
そう誓いも新たに煎餅を飲み込む。
「よし、じゃあ」
【ああ行きます? では】
「いや待て。少し考えたい」
【……何ですかもう】
「あの忌々しいガラクタがあそこに居た理由についてだよ」
あの拠点に足を踏み入れたから接触して来たのか。
神央累という個人に用があって接触して来たのか。
前者と後者ではルイとしても打つ手が変わって来る。
【あなたに興味があると言っていましたし後者では?】
「敵の言葉を丸々信じるのか? これだから低IQは」
【……】
「前者なら……まだ探してないとこはあったけど怪しいのは偽造パスポートか?」
あれの照会結果も見れていないしつくづく迷惑な輩だ機人佰號。
奴さえ現れなければ調査は進んでいたのにとぼやきつつルイは考えをまとめる。
「とりあえず次で確かめるか。今回一ノ瀬が行ったとこに殴り込もう」
【そうですか。ではいってらっしゃい!!】
八十九周目スタート。
昆虫走法で√をなぞり個別でのカチコミまで進める。
予定通り前回モモが選んだ拠点に殴り込みをかけた。
【首尾はどうだい?】
「こうやって呑気に電話に出られるってことで察して欲しい」
前回と同じく空振り。
ここまでは良い。前回と同じやり取りをしてモモとの通話を切った。
「さて家探しするか」
自分目当てならその内、あちらから姿を現す。
もし来ないなら再度、モモに連絡をする。
通じなければあちらに機人佰號が行っている可能性が高い。
(お、寿司発見)
何となく台所を見ると寿司桶を発見。
料理人としてのスキルゆえ分かってしまう。その寿司が一流店のものであると。
(カルトの癖に良いもん食いやがって)
寿司桶を片手にパクつきながらあちこちを物色する。
正直かなり呑気な気分だったが、あるものを発見し一気に表情が険しくなった。
「……偽造パスポート」
この拠点にもあった、というわけではないだろう。
だって記されている個人情報には見覚えがあったから。
間違いなく前回もう一つの拠点で見つけたのと同じものだ。
つまりこれはあちら側が自分に差し出しているということ。
そこまで考えたところで、
【敵地で盗み食いとはまた豪胆だね君は】
「――――そうか死ね」
寿命全ツッパの自爆再び。
我慢出来ずにやった。後悔はしていない(少年Kの供述)。




