殴り込みデート⑤
(やるぞ、やるぞ! 僕はやるぞ!!)
権力という人参をぶら下げられたお陰だろう。
ソンダイテイオー(17歳♂)は一週間経った今も凄まじい勢いで独走中だった。
これまでは無駄足を踏ませられる度にキレていたが最早、どうでも良い。
解放戦線を潰すため手足から削いで行く。
それがカチコミ行脚の目的なわけだが拠点を一つ潰すだけでも成果は成果なのだ。
無限に拠点が存在するわけもなく、少しずつ追い詰めることが出来ているのだから。
(そう、時計の針は進んでいる。ゆっくりでも確実に!!)
どこかであちら側も攻勢に出ざるを得ない。
(一ノ瀬の首にギロチンの刃が届くまでやってやるさ!!)
獅子身中の虫が可愛く見えるレベルだ。
というかそもそもの話、別にモモが死ぬと決まったわけではない。
にも関わらずルイは勝手にモモの死を予約して課長の椅子を手にした気になっている。
取らぬ狸の皮算用という言葉を知らんのか。
「オラァ!!」
ちなみに今は戦いの真っ最中である。
ただ今日は解放戦線の拠点潰しではない。
支援していると思われる組織の調査で、その一環として今地下闘技場で殺し合いをしていた。
ここは目をつけた組織が運営しておりルイの役目は目くらまし。
選手として派手に暴れている隙に裏でモモがという役割分担だ。
「糞……この“アマ”! ちょこまかと……!!」
攻撃を回避された屈強な男が悪態を吐く。
確かにルイは中性的な見た目をしているが女と勘違いしている?
いや違う。今のルイは真実、女になっているのだ。
「ま! 少々口が悪いのではなくって?」
「黙れ!!」
瀟洒なドレスを身に纏い扇子で口元を隠すお嬢様風の少女が今のルイである。
調査に際して身元が割れないようにと術で一時的に性転換したのだ。
ちなみに性別を変えることに対する葛藤などはなかった。
流石は僕、女になっても世界の誰より美しいとかそういうゴミみてえな感想だけだ。
「逃げ回ってばかりかァ!? それじゃ勝てねえぞオイ!!」
見え透いた挑発だ。
しかし、時間を考えればそろそろ頃合いだろう。
「それもそうですわね」
パチンと扇子を閉じ軽くステップを踏み、
「!?」
相手の知覚をすり抜け接近。
「ごめんあそばせ?」
その顎を蹴り上げる。
垂直に伸びた美脚。それでも下着は見せないのが淑女の嗜み。
一撃で男の意識を刈り取ると優雅な動きで足を戻し、観客に向かって一礼。
わ! っと会場中から歓声が上がりルイ(♀)の勝利が高らかにアナウンスされた。
ファンサービスで愛想を振り撒きつつリングを出て控室に戻ると、
「や、お疲れ様」
暗がりの中からモモが姿を現した。
どうやら調査は終わったらしい。
「そっちもね。どうだった?」
「空振り。ただ別件で見過ごせないものを発見したから無駄足ではない……かな?」
その情報は担当する課の課長にもう送ったとのこと。
ならばここに用はない。
「おや、戻るのかい?」
「もう偽装は必要ないだろ」
「何時もとは違った可愛さで私としてはもう少し見ていたかったんだがね」
そんな軽口を叩きつつ脱出。
地下闘技場のあった都市から二つ離れた町までノンストップで駆ける。
十分距離を取ったところで二人は目についた喫茶店に入店。
今後の方針について話し合う運びとなった。
「今回は私としても本命の一つではあったんだが」
カップを傾けながらモモがぼやく。
ゲロ甘いラテでも表情に滲む苦みは相殺出来ないらしい。
「因縁があったの?」
「ああ。あそこは金を稼ぐことしか頭にない非合法な興行を主とする組織なんだが」
過去、偶然の巡り合わせで幾つも大きな興行を潰してしまったらしい。
そのせいで組織上層部からは酷く恨まれているとのこと。
「実際、定期的に嫌がらせを受けてたからね」
「……だが今回に限ってはノータッチ、と」
「そう。おかしいよねえ?」
解放戦線ほどの組織だ。諜報の質も相応のものだろう。
特別隠し立てしていないし、当然そこらの因縁は知っていたはずだ。
「交渉を持ったが断られてしまったか、そもそも声をかけていないか」
「君はどう思う?」
「まだ何とも。それを確かめる意味でも似たような組織を探ってみるべきだと思う」
他に強い恨みを抱かれている組織は?
とルイが問えば両手足の指じゃ足りないぐらいとモモは苦笑した。
「面倒だけど虱潰しでやっていくしかないか」
「千里の道も一歩からとは言うが、私これでも偉い人間なんだがねえ」
次に内偵を行う組織をピックアップしていく。
そうして一通り挙げ終えたところでそう言えばとルイが問う。
「そこそこ距離はあるけど解放戦線の拠点が二つあったよね?」
明日に回すか今日の内に片付けて別の地方に行くのか。
そう聞かれたモモは少し考えた後で潰すと答えた。
その上で、
「……あまりやりたくはないが少しアプローチを変えよう」
「……モモさんと僕が個別でってこと?」
二つの拠点は現在地からすれば距離は同じぐらいだが位置は正反対。
仮に襲撃が成功しても一つ潰している間にもう一つには逃げられてしまう可能性が高い。
なのでそれぞれが違う拠点へ襲撃をかけるというのは定石ではある。
「ああ。一応、試しておかなきゃいけないだろう?」
ただ状況を鑑みれば単独行動はリスキーでもある。
後手後手に回っているのが現状だ。手堅く行くべきだ。
だがまったく同時に奇襲をかけた場合、どうなるかを試すというのも必要ではある。
「私は良いが君に何かあった場合を考えると気は進まないけどね」
九十九一揃えのお陰で異常戦力級には上り詰めた。
それでもルイはまだ若い。だからモモは心配しているわけだが、
(単独行動……死亡フラグじゃん。いや分かってる。まだ早いって。
物語で考えるなら無数のフラグでお膳立てをしてからだって。
だがこれは現実だ。ワンチャン、ワンチャン死んでくれるかもしれん)
こっちはこれこの通り。
「だから上司として命令させてもらうよ。決して無理をしてはいけない」
何かあると思えば躊躇なく逃げること。
少しでも情報を持ち帰るなんて欲を出す必要はない。
「君が生きて帰ることが一番なんだから」
「……了解」
濁った欲望をおくびにも出さずルイはこう続けた。
「僕も言わせてもらう。どうか無理をせず自分の命を軽んじることはしないで」
部下として、バディとして、友人としての願いだ。
ルイの言葉にモモは少し目を白黒させた後、フッと笑った。
「OK。約束するよ」
「なら良い」




