殴り込みデート④
モモのウザ絡みでゲージを削られつつも何とか料理は完成。
皿をリビングに運び話し合いをする運びとなった。
「内通者の線は先ずあり得ないとして、だ。どんな可能性があると思う?」
鶏のから揚げを摘みながら問うモモにルイは少し考えこう答えた。
「ベタなところで言えば異能。予言系だね。ただし確度はそう高いものじゃないと思う」
その証拠が解放戦線の杜撰な逃亡劇だ。
ゴリッゴリの予言系ならばああはなるまい。
数日、数時間の尺度であればもっと手際良く拠点を引き払えていたはずだ。
「だから長くて一時間。もっと切り詰めるなら数十分とかその程度じゃないかな」
そしてまず間違いなく戦闘タイプではない。
短期の予知を可能とする戦闘タイプならそこまで長くはない。精々が数秒だろう。
数十分先が見えるということは非戦闘タイプ。
更に言えば限定的な未来。例えば脅威のみが見えるとかの制約つきだ。
「なくはないと思うが……」
「分かってる。だったら一件目は何故成功したのかって話だろう?」
可能性は幾つか考えられる。
一つは脅威にピントを合わせねば予知出来ないという制約だ。
「今回の場合は僕らだね」
「下手人が一ノ瀬百と若い燕と判明したからこそというわけか」
誰が若い燕だ。
それだとお前に囲われてるみたいだろ。
身の程を知れ。
お前にそんな極楽浄土が如き未来が訪れるなんてあり得ない。
等々直江状ばりの罵倒を心中で並べつつルイは頷きもう一本の指を立てる。
「もう一つは外部から借り受けた人員という可能性だ」
一ノ瀬百が解放戦線を潰すため直接、動いた。
その事実を重く見た上層部が外部の組織からその手の異能者を借り受けた。
だからこそ一件目は成功したが以降はこれこの通り。
「モモさんも同じようなことは考えていたんだろう?」
「まあね」
ならばここまでのやり取りは無駄だったかと言えばそんなことはない。
同じ予想であってもそこに至るまでの思考の過程を明らかにするのは大事だ。
そこで差異があるなら視点は更に広がって行くのだから。
「その上で聞くがどっちだと思う……いや、どっちであって欲しい?」
「そりゃまあ前者だよねえ」
レモンを絞りながらモモは深々と溜息を吐いた。
制約ゆえ一件目は見過ごしてしまった。その方がずっと良い。
つまり想定すべきは後者の可能性というわけだ。
二人は同時に溜息を吐き、ルイがまずこう切り出した。
「他の組織が協力してるとしてどの程度の結び付きだと思う?」
「……私の首が欲しい人間なんてごまんと居るだろうからね」
直接関わりがなくても立場が立場だ。
悪党からすれば公権力側の最高戦力を一人でも削っておきたいだろう。
直接、矛を交えるのは避けたいが他の組織が矢面に立つなら喜んで協力するはずだ。
「器物解放戦線と私。潰すか潰されるか道は二つに一つしかなくなった。
幾らか時間を稼いでやれば勝機が見えるなら予知能力者ぐらいは必要経費だ」
やって損はないから協力してるその程度の結び付きならまだ良い。
問題はガッツリと組んでる場合だ。
相手取る敵が更に増える上に、その組織がどれなのかを探る必要もある。
二人で動いている状態でタスクが増えるのは望ましいことではない。
「うちの人たちに調査してもらう……のもそれはそれで厄介か」
ルイの言葉にモモも頷く。
「……ああ。事と次第によってはややこしいことになる」
九課が付喪神を専門とするように他の課もそれぞれ担当がある。
調査の結果、解放戦線を支援する組織が他所の担当だったならそちらを巻き込むことになる。
解放戦線だけならともかく他の組織もとなれば戦火の拡大は避けられない。
お偉方からストップがかかる可能性が十分にある。
「私たち二人ならまだ言い訳も利くが九課全体を調査に使うのはねえ」
課として動くなら記録に残さざるを得ない。
面倒な話だが公僕とはそういうものなのだ。
「私が秘密裏に指示を出してというのも出来なくはないが」
「諸刃の剣だね」
「ああ。私一人が責任を取るなら良いが特対全体の問題になりかねない」
結論としては大変だがルイとモモの二人でやるしかないというわけだ。
二人だけならば先にも述べたように幾らでも誤魔化せる。
「なら方針としてはカチコミを続けつつ臭そうな組織を調べる?」
「そうなるねえ」
モモはビールを一気に飲み干し缶を握り潰す。
その表情はビールのそれより苦い。
「……総付喪神化計画、未だ手がかりすら掴めていない機人佰號の目的。
少しでも流れを食い止めようとしての奇襲だというのに全てが後手に回っている」
良くない流れだとごちりモモは黙り込む。
重苦しい沈黙がリビングを支配する。
まあルイからすればモモと言葉を交わさずに済むのでありがたいのだが。
「……ルイくん」
十分ほどか。
食事に箸もつけず考え込んでいたモモがようやっと口を開いた。
「何だい?」
「もし私に何かあれば君が後釜に座り九課をまとめてくれ」
「な」
驚きに固まってしまったルイにモモは言う。
「無論、死ぬつもりなんて毛頭ない。もしもの話だ」
「……だとしても縁起が悪いよ」
「すまない。だが、九課の長としては視野に入れておくべき事柄なのも分かるだろう?」
器物解放戦線の首魁は未だ判明せず。
実質ナンバー2だという機人佰號も立ち回りからして実力を隠している可能性が高い。
真っ向勝負か搦め手かは分からない。
それでも彼らとぶつかった際、自分が無事で居られる保証はないとモモは言う。
「そこで対付喪神を専任している九課が機能不全に陥れば状況は更に悪化する」
他の課がカバーすれば良いなんて簡単な話ではない。
彼らには彼らの仕事があるのだ。
それは決して対付喪神より劣るようなものではない。
淡々と厳しい現実を語るモモだが、
(権力……権力……え、権力!?)
ルイの心はかつてないほどに沸き立っていた。
「僕より適任が」
「居ないね。他所の部長を据えるとしてもずっとは不可能だ」
一時的な代理以外はキャパを超えてしまう。
他の九課職員の中で選ぶのも無理だ。
「実務能力でも戦闘能力でも君が私の次なんだから」
「……」
「ま、今は頭の片隅に置いておくだけで良いさ」
と話を打ち切りモモは空気を変えるべく雑談を始めるが、
(課長……僕が課長……九十九の能力も利用し易くなる……!
いやだが待て。僕が課長程度で終わる男だとでも? なわけないだろ!!
最初はそれで良い。だがゆくゆくは特対の局長だっていける!!
今はシビリアンコントロールの観点で一般人の役人が局長をしているが問題ない。
一ノ瀬の死や解放戦線のやらかしを上手く利用してやれば十分、現実的な範囲だ)
止め処なく加速する野望……。
(アッハッハッハ! 夢が広がるなァ!!)
屑に餌を与えてしまったモモのせいです。あーあ。




