殴り込みデート③
モモとバディを組んで一月。
解放戦線との抗争は膠着状態にあった。
とは言えそれは二人を阻むような実力者が出張って来たからというわけではない。
むしろその逆で戦う機会は減っている。
「……ルイくん、これで何度目だったかな?」
「……五度目だね」
もぬけの殻になった解放戦線の拠点で渋い顔の二人が言葉を交わす。
襲撃前に逃亡されるのはこれでもう五回。
今回は拠点襲撃前に近場で二人が動くような事態が発生し、その間にという感じだ。
「単なる内通者というのなら話は早いんだがねえ」
こういう時、真っ先に思い浮かぶのは内通者の存在だろう。
だがルイとモモの中でその可能性は一番低いものになっていた。
というのも、
「だね。内通者が居るならあまりにも杜撰が過ぎるよ」
散らかった室内を見渡しぼやく。
まるで急いで夜逃げでもしたかのような有様だ。
「見る限り、これかなりギリギリで逃げ出したでしょ。前の四つもそうだ」
逃亡するなら襲撃者に渡る情報を少しでも減らすよう立ち回るのが鉄則だ。
一番は跡形もなく建物を消し去ること。
それが無理でも書類などは焼却処分なり何なりするべきだ。
しかし、ここもこれまでの四つもその手の処理があまりにお粗末。
もし内通者が居るのであれば余裕を持って手際良く引き払えていたはず。
「それにそもそもの話、襲撃予定を知ってるのは僕とモモさんだけだし」
そしてそのルイにしたって移動で次はここらにあるのを潰すかぐらいのもの。
完全に把握しているのはモモだけだがバラす理由がどこにある?
「ここらで一度、私らの拠点に戻ってしっかり話し合おうか」
空振り二度目の時点で怪しんではいた。
だが、推理するにも情報が足りなさ過ぎる。偶然という可能性もなくはないのだから。
しかし五度も同じことが起きたのだ。
偶然ではない、誰かの意図によるものであることは明白だろう。
幾つかの確定事項を下に話し合う時がやって来たのだ。
「賛成。でもその前に……家探し、する?」
「……何が嫌ってこの時間も嫌なんだよ私は」
比較的簡単に割れている拠点から潰して回っている。
そんなところに最重要機密はないだろう。
だが断片的な情報から何かが判明するかもしれない。
そう考えると無視も出来ず家探しするしかないというのは中々に辛い。
「……帰ったら絶対、シャワー浴びてビールだ。私が先に使うけど良いよね?」
四度目の空振りの結果、ホテルの利用は取りやめになった。
表の利用履歴から露呈した可能性を考慮したのだ。
結果、今回は郊外にある家屋を非合法に確保して拠点に使っていた。
「構わないよ。レディファーストだ」
「相方が紳士で嬉しいよ」
とぼとぼと家探しをしてから二人は直近の拠点に帰還。
宣言通りモモは帰るや否や、速攻で風呂に行ってしまった。
(やりたくはないが……)
残されたルイは渋々、ツマミ代わりの軽食を作ることに。
別にやらんでも良いのだが気の利く男であらねばならないのだ。
事前に買い集めて亜空間に放り込んであった食材を使い調理していく。
料理人修行の成果はやはり大きい。
これがなければクリスマスも正月も今も、スパダリアピールは出来なかっただろう。
「おやおや良い匂いがすると思ったら……君はつくづく気が利くねえ」
しばらくしてモモが戻って来た。
シャワーを浴びて多少気が晴れたのだろう。
うんざりした顔も今はほっこり緩んでいる。
「僕も正直、うんざりしてたからね。美味しいものが食べたかったんだよ」
「そんなこと言ってどうせ私のためなんだろう? 素直じゃないんだから」
台所に立つルイの横腹を軽くつつくモモ。
ここだけ見れば歳の差カップルがイチャついているように見えるが、
(殺すぞ)
当然殺意MAX。
イカリングを揚げている油よりも熱く煮え滾っていた。
「邪魔しない。というかはしたないよモモさん」
咎めるようにルイが言う。
それも当然。今のモモは下着以外は何も身に着けていないのだから。
「良いじゃないか。どうせ二人だけなんだし。私だって面倒なんだよ」
などと抗議するモモだが、
(嘘吐け。どう考えても僕を誘惑するためだろ)
布地の少なめな黒のレース。
ルイは知っていた。この下着が上下セットで三万ぐらいの品であることを。
ルイは知っていた。これがいわゆる勝負下着の類であることを。
(何せ見たことがあるんだからな!!)
それは年増√でのお話。
付き合い始めて一カ月半ぐらい経過したある日曜のことである。
ルイは義務によるイチャイチャ(通称兵役)をこなしその日もモモを喜ばせていた。
そうしてひとしきり楽しませた後、
『……はあ。仕事しなきゃいけないんだよなあ』
モモはトボトボと自室に戻って行った。
兵役を一時免除されたルイはリビングで読書に勤しんでいた。
貴重な癒しの時間である。
だが二時間ほど経ったところで、
『ル~イきゅん♪』
モモがやって来た。
半日はかかるだろう仕事が終わったわけがないのに、だ。
『どうかにゃ?』
『どうって……目に毒なんだけど』
醜悪過ぎて目が潰れる。
本音を押し殺し少し頬を染めて目を逸らすルイ。
というのもモモは何でか下着姿で姿を現したのだ。それもただの下着ではない。
ピッチリと肌に張り付く露出の多いボディストッキング――つまりはまあ、そういう用途のアレである。
『あ~もう可愛いなあ! もっとすごいことやってるのにぃ』
とますますご満悦のモモ。
『……というか何なのさ、いきなり』
『いやほら、私と君はそういう関係になったわけだろう?』
『……うん』
とこれまた照れ臭そうに答える。
内心は兵役再開で辟易としているのは容易に想像出来るだろう。
『だからまあ、ね? こういうとこにもこだわろうかなって。
いやこれまでも下着に手を抜いていたわけじゃないよ?
ただそれは誰に見せるというわけでもなく単なる身嗜みとしてだ。
けどこれからは……さ。こういうのも悪くないかなって。君の反応を見るに正解だったらしい』
とウキウキした様子でモモは再度、部屋に引っ込んだ。
次に出て来た時はまた装いが変わっていた。
今度は透け透けのチャイナ風ベビードールだ。
『良いでしょ良いでしょ? 他にもあるんだよ!』
と仕事そっちのけで始まるセクシーファッションショー。
その中でルイは見たのだ。例の三万ランジェリーを。
「というかあれ? 照れてる? 照れてたりする? 可愛いねえ」
密着しうりうりと体を擦りつけるモモ。
付き合っている時ほどのベタつきはないがルイからすれば拷問と変わらない。
(無駄足踏ませられた上にこんな……踏んだり蹴ったりとはこのことだよ……)
お待たせいたしました。投稿再開します。
いやホント、エアコンのありがたさが骨身に沁みました……。




