殴り込みデート②
「ッ……一ノ瀬百だと!?」
午後九時十二分。
ルイとハジメは関東某所にある解放戦線の拠点に殴り込みをかけたのだが、
(僕の名前はどうした!?)
そりゃおめえネームバリューの差だよ。
初手のリアクションがモモの名だったことでルイの機嫌は急降下。
一人残らず皆殺しにしてやると憎悪を募らせていることなど知らず戦端が開かれる。
建物内の気配からして数は大体、百と少し。それなりに見れる戦力は五、六名と少数。
そしてその少数にしても異常戦力を相手取れるほどの力はない。
「カルトが正月を漫喫してるとは滑稽な」
呆れたようにそう呟きながら八人の首を刎ねた。
一番気配が集まってそうな部屋に踏み込んだのだがそこは談話室だったらしい。
テーブルにはボードゲームや菓子が並べられていた。
モモの言うように彼らは正月休みを漫喫していたのだろう。
(こっちは年末年始も糞忙しかったのに社不のゴミカスどもがよォ……!!)
それもまたルイの逆鱗に触れた。
全身逆鱗男とは言え、こればっかりは仕方あるまい。
直接被害を被っているのだから怒って当然だ。
ルイは暗殺者の如き最小限の挙動を以って構成員の命を奪っていく。
「おやおや、随分とお優しいねえ」
一先ず談話室に居た二十数名は瞬く間に仕留められてしまった。
死屍累々という表現が相応しい惨状だ。
しかし、ルイの手にかかった者だけは穏やかな死に顔を晒していた。
スパダリムーブをするために会得した安らぎ殺人術を使ったためだ。
「くだらない自己満足だよ」
命を奪うことに躊躇するつもりはない。
そういう段階はもうとっくに通り過ぎた。
だがそれはそれとして殺すのであれば少しでも“引き摺らない”やり方を。
そんな自己満足で編み出した技術に過ぎないとルイは自嘲する。
「私には理解し難いが……君はそれで良いんだろう」
「……そう言ってくれると助かるよ」
わざわざお喋りをしているのは余裕から、ではない。
結界で逃走は阻んでいるが連絡手段は敢えて遮断していなかった。
何故って? 釣りをするためだ。
「さて。糸は垂らしたがどうなるかな?」
「私は餌として最上級だという自負はあるが……正直、読みかねている」
初手で即時殲滅を選ばなかったのは相手の出方を窺うためだ。
ルイたちのアクションに対し解放戦線が取る選択肢は大まかに二つ。
援軍を送るか、この場に居る構成員を見捨てるかだ。
今後の動きを決めるためにもそこは確認しておく必要があった。
「出来れば援軍を送って欲しいんだがねえ」
「同意するよ」
モモのぼやきにルイが頷く。
援軍を望むのは少しでも数を減らしたいというのもあるがそれ以上に、
「援軍を送るということは人員を惜しんでるってことだからね」
今回援軍が来るとして倒すための援軍はまずあり得ない。
異常戦力を相手取るのであれば相応の準備が必要だからだ。
なので十中八九、仲間を一人でも救うための援軍になる。
救いに来るということは仲間意識もあるかもしれないが使い潰せる余裕がないということ。
何を企んでいようとまだ十分、阻める範囲にあるということだ。
「まあそれを踏まえた上で攪乱して来るって手もなくはないが」
「何にせよあちらの動きを見ておくに越したことはない」
そう締め括りモモはフフ、と笑う。
そりゃそうだ。だってこれまでのやり取りは事前に示し合わせたものではないのだから。
「にしても君、何の指示も出していないのに気持ち良く汲み取ってくれるじゃないか」
最初にモモがこういう方針で動くと指示していたなら分かる。
だがモモは一切何も告げず、ルイが勝手に行動から考えを読み取っただけ。
自分を理解してくれているようで気を良くするのも当然だろう。
「まあ、あなたの考えていそうなことは大体分かるよ」
ルイもそこを分かっている。
だからこそのリップサービスだ。
「おやおや、口説かれてる? 参ったなあ」
「馬鹿言ってないでそろそろ行くよ。向こうも段取りが終わっただろうしね」
こんだけ悠長にお喋りをしていたのだ。既に連絡は済んでいるはず。
急いで救援に来るならそろそろ頃合いだろう。
「――――来た」
結界が破壊され五人、実力者がやって来た。
仲間を逃がし、尚且つ自分たちも逃亡出来るぐらいの実力はあるのだろう。
これで元から居た実力者と合わせて十名、戦力が集まった。
「どうする?」
「“今回は”見送ろう」
九十九一揃えを使うか否か。
まだカードは伏せておこうとモモが答え答え、再度戦闘が始まった。
集団転移は難易度が高いので逃亡手段は足しかなくなる。
モモほどの手合いから逃げようと言うのだ。
最低でも五分は稼がないと厳しいだろう。
(足止めに特化したスキル持ちのようだが)
まあ、無駄である。
「気をつけろ! このガキ……かなりやるぞ!!」
「古賀さんを倒したってのはコイツか!?」
ん? とルイが内心で疑問を抱く。
(特別、僕の存在は隠してなかったはずだが)
コイツか!? と敵の一人は言った。
つまりあちらは十代の少年ぐらいの情報しか得ていないわけだ。
そこまで分かっているのに身元を割り出せていない。
こちらは特別、隠蔽していないにも関わらずだ。
妙なちぐはぐさを覚えるが、
(まあ良い)
と割り切り戦闘に集中する。
式神を使わずとも敵味方含めて二番に強いのはルイだ。
そしてそのルイはスパダリ見習い。
相手が求めることを察する能力に秀でている。
それはつまりその逆も然り。嫌がらせが病的に上手いということでもあるのだ。
「ナイスアシスト。地味だが良~仕事をしてくれたもんだ」
「それは重畳」
ルイがやったことは実にシンプルだ。
時間稼ぎを徹底的に邪魔してアタッカーのモモに仕留めさせる。これだけ。
しかしシンプルだけにどうしようもなく凶悪。
足止めしていた敵は一分三十秒で一人を残して全滅したし逃亡した者らも皆殺しだ。
「……殺せ」
「ハッハ! 聞いたか、ルイくん。女騎士みたいなこと言い出したよコイツ」
ケラケラと笑いモモは扇子の先で倒れている敵の顎を持ち上げる。
「殺しはしないよ。捕らえるつもりもない」
「……何?」
「何でわざわざ一人だけ生かしたと思う? 君はメッセンジャーさ」
逃げた連中を使えば良かったのでは? そうでもない。
実力者――組織の中でも相応の地位に在る者が適任なのだ。
「物質総付喪神化計画。またぞろ頭のおかしな企みをしてくれるものだ」
「……ッ!」
「何故それを!? みたいなリアクションしなかったのは褒めてあげる」
でも顔に出しちゃ駄目じゃないかと嘲るように言いモモは続ける。
「ちなみに言っておくが情報元はこちらが捕縛している古賀香澄ではないよ」
信じるかどうかはそちらに任せるが、と意味深に含み笑い。
「多少の“おイタ”なら見逃してやれるがその企みは駄目だ」
ふぅと溜息を吐き、
「――――もう殺すしかなくなっちゃったよ」
宣戦布告。
しっかり伝えてくれたまえよと告げモモは敵から視線を外した。
「やるべきことは済ませた。帰ろうか」
「了解」
何か言いたげな敵を放置し二人は拠点を出た。
今日の仕事はこれで終了。あとはホテルに戻って寝るだけだ。
「しかし何だね。こうして見ると私たち、中々良いバディなんじゃないか?」
帰り道。月を見上げながらモモがそんなことを言った。
ルイはそうかもねと返すが当然、
(こんなん名誉棄損で死刑待ったなしだろ……)
ちょっとの間、投稿お休みします
エアコンがお亡くなりになって注文したは良いんですがこの時期なので届くまで間がありまして
クッソ暑い中、小説書くのはちょっと辛いので……申し訳ない<m(__)m>




