殴り込みデート①
「ふぃー……やぁっと人心地ついたね」
年が明け三が日最終日の今日。
関係各所との調整を終えたモモがようやく九課に帰還。
ルイお手製のお節と雑煮を摘みながら溜息を吐く彼女の顔には疲労の色が滲んでいた。
「お疲れ様。にしても早く終わったね。お偉方との話は長引くかと思ったけど」
今回の調整は言ってしまえばこれから暴れますよという根回しだ。
敵もただやられるわけではない。殴られたら殴り返す。問題はその殴り返す対象だ。
モモに直接報復するのが難しいなら他を狙うだろう。
それこそ無関係な政治家なり何なりを狙って政治的にモモの動きを封殺するなどだ。
ゆえにあちこちに根回しが必要になるというわけだ。
「器物解放戦線は結構な規模の組織だ。難色を示すと思ったんだけどね」
組織の危険度がそのまま報復の危険度にも直結する。
リスクを嫌うお偉方ならば何とかモモを思いとどまらせようとするだろう。
そう読んでいただけにルイとしては意外だった。
「結構ゴネられはしたよ。だが今回ばかりは彼らの及び腰に付き合っているわけにはいかない」
キッチリ最悪をプレゼンして来てやったとモモは笑う。
「連中の目論見が成ればどうなるか懇切丁寧にね。勿論、お嬢さんについては伏せたまま」
「脅迫だな」
「警告さ。耳に痛い話もしっかり報告するのが出来る公僕というものだよルイくん」
それより、と真面目な顔をするモモにルイも表情を引き締める。
「雑煮も良いが餅は餅で楽しみたいな」
「……分かった。焼くよ」
「や、悪いね。催促したみたいで」
してんだろ。
と思いつつルイは七輪で餅を焼き始めた。
屋内だが煙やらは術でどうとでもなるので問題はない。
「食事を終えたら君の試運転に付き合おう。私も興味がある。何だったか」
「九十九一揃え」
「そうそれ。千年の時を経て十二天将を超える式神が誕生したんだ。是非、味わってみたい」
好戦的な笑みの中に、どこか誇らしさを交えながらモモは言った。
「そこで体を温めたらカチコミだ」
「……今日?」
「今日」
さらっと言っているが冗談ではないらしい。
「ぬくぬく三が日を過ごしてる馬鹿どもの横っ面を盛大に殴り付けてやろうじゃないか」
「……OK。僕も覚悟を決めた」
「そうこなくちゃ。時にルイくん。醤油マヨと七味が足りていない気がするんだが?」
「はいはい」
餅を喉に詰まらせて死ね。
そんな呪詛を込めつつルイはモモの世話を続けた。
そして食後。訓練場に向かい早速、九十九一揃えの全力での試運転を敢行。
やはりモモには勝てない。
だが、
「……真っ向からやり合うかね。この私と」
戦いを成立させることが出来た。
手は抜いているがそれでも普段のそれに比べれば大したものではない。
七割、八割ぐらいの力で戦っていた。
そのレベルのモモと真正面から渡り合えるという時点で破格の性能だろう。
「式神の質もさることながら驚くべきは君との相性」
自分のために作ったのだから相性が悪いはずがない。
それはその通りだが噛み合い方が尋常の域ではないのだ。
「制作者とは言えあくまで個別の存在。己が手足のようにとはいかない。
どうしたってラグが生じるものだが君と七体の式神にはそれが欠片も存在しない。
文字通り手足と同じような感覚で扱っていなければあそこまではやれないだろう」
単純な性能でも、相性の良さでも十二天将の比ではない。
神央累が扱えばこその九十九一揃えだ。
「ハジメさんのお陰だよ」
「それはそう。お嬢さんの異能がなければここまでのものは出来なかっただろう」
だが、とモモは扇子で口元を隠しながらこう続けた。
「異能が介在しない基礎設計部分がしっかりしてなければこれほどの物は出来まいよ」
ルイの尽力も必要不可欠な要素だ。
そこを卑下する必要はない。むしろ嫌味になるとモモは言う。
「なら素直に賛辞は受け取っておこうか」
「そうしたまえ。だがまあ、安心したよ。これなら遠慮なく君を連れ回せる」
これまでのルイはお供としては十分だが並び立てはしなかった。
どうしたってモモが足並みを揃えてやる必要があった。
その能力の高さゆえモモ単独よりかはプラスにはなる。
それでも窮屈さがあるのは否めない。だが九十九一揃えがあるなら話は別だ。
「振り落されないよう努力するよ」
「ああ、そうしてくれ。欲を言えば年度末までには片付けたいんだがなあ」
色々忙しい時期に突入する前にということだろう。
だがそれは幾ら何でも欲張り過ぎだとルイが咎める。
「分かってるさ。長期戦は覚悟してるよ……はあ」
年末年始も休めず、ここからしばらく強行軍が続く。
それを考えると溜息の一つや二つ吐きたくなるのも仕方ないだろう。
「君もしばらく家には戻れないよ。住み慣れて来たであろうこの庁舎にもね」
「承知の上だよ」
器物解放戦線は全国に散らばっている。
あちこち出向いて東京に帰還、では手間がかかり過ぎだ。
ホテル暮らしになるだろう。
(かったるくはあるがホテル暮らしは正直、楽しみなんだよな)
九課の長という立場を考えればまず安いビジホなどではあるまい。
それなりのランクの宿をハシゴ出来るというのは中々に魅力的だ。
「最初はホテル暮らしで様子を見るが」
うん? と内心で首を傾げる。
「連中の出方によっては表の施設を使うのを避けた方が良いかもしれない」
そうなれば先々で郊外に家を借りるなどする必要があるだろう。
つまりはまあ、
(……コイツと一つ屋根の下かよ!!)
年増√でさえ一緒に暮らしていたわけではないのに。
打ちひしがれるルイに気付かぬままモモは言う。
「そうなった場合に備えて家事の分担はあらかじめ決めておこうか」
本格的な家事をということはない。流石に忙し過ぎる。
だが最低限やる必要がある部分は二人でしっかり分担しよう。
そう語るモモはどこか楽し気だった。
「……了解」
「とりあえず食事は私に任せてくれ」
「あちこちのスーパーで惣菜買いたいだけだろ」
「バレた? だがまあ、実益も兼ねているのだから問題あるまいよ」
そんな話をすることしばし。
大方話題も尽きたしそろそろカチコミに行くか?
とルイが聞けば最後にやっておくことがあるとモモは異空間収納からあるものを取り出した。
「……スーツ? しかもこれオーダーメイド」
「おや、分かるかね? 馴染みの仕立て屋に頼んでたものさ」
そこに後付けでモモが自ら術式を刻み戦装束として仕上げたものとのこと。
モモはクスリと笑いウインクをしながらこう告げる。
「九課のトップ二人が粗末な格好で殴り込みをかけるわけにはいかないだろう?」
男に自分が選んだ服を着せる。つまりはまあ、そういうことだ。




