年末年始も休まずカス
「……終わっちゃったね」
ハジメが呆然と呟く。
十二月三十一日、午後四時半。
二十六日早朝から始まった連日の式神制作は完全に終了した。
「正直私、一月中ぐらいはやるんだろうなって覚悟してたんだけど」
目指すクオリティを考えればそれでも早く見積もり過ぎなぐらいだ。
では出来上がった式神が微妙な代物なのかと言えばそんなことはない。
「ハジメさんのお陰だよ。君の力がなければこうもスムーズにはいかなかった」
短期間とは言え完全な十二天将を使役していたからこそ分かる。
出来上がった七体は確実に十二天将を上回る代物であると。
まるで清明自身が十二天将の経験を基にブラッシュアップしたかの如く。
(馬鹿と鋏は使いようとは言うが九十九という馬鹿な鋏をこうも上手く扱えるとは流石僕だな)
鋏使ってる奴が馬鹿で屑なのは良いんすかね。
「いやいや、フワフワしたこと言ってるだけじゃん私!
実際に頑張ったのルイくん……ってか自分で言うのもアレだけどよくやれたね!?」
ハジメさんのことだからね。
などとスパダリレスポンスを返しつつルイはミネラルウォーターを飲み干す。
休憩を挟みながらとはいえ連日の作業、やはり疲労は溜まっていた。
「ところでハジメさん。一つまだ決まってない名前があるんだけど」
「あったっけ? 七つ全部……あ、グループ名?」
「グループ名って……って言うと何かアイドルみたいだけどその通り」
それでなんだけど、とルイは少し恥ずかしそうに切り出す。
「そこの名前は僕がつけても良いだろうか?」
「全然良いよ! むしろ気になるっていうか。何て名前にするの?
「九十九一揃え」
「……それ、私の勘違いじゃなければ」
「使役するのは僕だからね。見る人間は僕が作ったと勘違いするだろう」
かと言って声高にハジメの功績を主張することも出来ない。
わざわざ危険を招くような真似をするのは馬鹿なことだ。
「でも、おかしいだろ? 一番の功労者なのにさ」
だからせめて名前に込める。
本当の功績が誰にあるのかを。
「事後承諾になるけど……良いよね?」
少し、強引に迫る。
こういうやり方も時には必要なのだ。
「……うん」
顔を赤くして俯いたハジメを見ればアクションの成否は明白だろう。
恥ずかしくて堪らないのだろう。
ハジメは手で顔を仰ぎながら誤魔化すようにこう口にする。
「え、えーっとじゃあ……その、早速、試運転……する?」
「それは後日に回すよ。物が物だからね」
十全に試すというのなら相応の相手が必要になる。
まあぶっちゃけモモだ。
しかしそのモモは関係各所との調整で大晦日の今日もあちこち走り回っている。
「ゆっくり時間を取れそうなのは三が日が明けてからだろう」
なのでそれまではお預けだ。
「だから僕らも今日は休もう。十分頑張ったし気持ち良くお正月を迎えようじゃないか」
「ん……そだね。ああでも、折角のお正月なのに初詣も出来ないのはちょっと残念かも」
せめてお節でもあればお正月気分を味わえるのにとぼやくハジメに、
「お節はあるよ」
「あ、頼んでくれたの? 気が利くぅ!!」
「いや作った」
「お節作れんの!? というか何時!?」
「休憩に合間にちょこちょこ仕込んでたからね」
当然、ポイント稼ぎである。
そしてこれまた当然、作ってあるのは二人分だけではない。
大晦日、三が日も庁舎に詰めっぱなしの職員の分までしっかり用意していた。
行き違いがないよう、事前にお節に関しては自分が作ると各所に伝えてある。
クリスマスの一件でその腕は知れ渡っているので皆、大歓迎だった。
「ちなみにこれからお雑煮の用意をするつもりだけどハジメさんの家はどんな感じ?」
「……まさか、ご家庭に合わせて全部作るの?」
「当然」
「うぉぉ」
慄きつつハジメはルイを拝み出した。
家事能力に自信がないので後光が見えるぐらい感動しているのだ。
「拝むな拝むな。それでどう?」
「えーっとねえ、うちは昆布と鰹節のお出しに白味噌だね。具はお芋や丸餅とか」
「京風かな? 了解。腕によりをかけて作らせてもらうよ」
「手伝おうか?」
良いよ、休んでて。そう答えるのは簡単だ。
しかし正解になるのは提案が単なる社交辞令だった場合。
一緒に料理をしたいというのが本命なら失点に繋がってしまう。
ここの見極めがスパダリにとっては大事なのだ。
今回は、
「なら幾つか手伝ってもらおうかな。でもハジメさんの分は僕だけで作らせてよ」
これが正解。
本音を見極めつつハジメにだけはとアピールするのがポイントだ。
「了解。じゃ、早速やろっか。もうあんまり時間ないし」
「うん」
二人揃って食堂に向かいまずは下ごしらえから始める。
ちなみに食材は前回のパーティと違い経費で落としてもらっている。
職場に詰めっぱなしの職員の分もということでモモが許可したのだ。
前回も皆の分んを作ると言えば経費で賄えはしただろう。
だがそこはクリパ。特別な夜ゆえ身銭を切るという姿勢を示した。
「おやおや、随分と良い匂いがするねえ」
六時を少し過ぎたところで草臥れた壮年の男が食堂にやって来た。
現在、モモの代理で護衛として庁舎に居る六課の課長岩崎だ。
「お疲れ様です岩崎さん。雑煮を作ってるんですが食べますか?」
「良~ねえ……いやだが日付が変わるまで我慢しよう」
お節もあるんだろう? と嬉しそうに笑う岩崎に勿論と笑みを返す。
「はは、不謹慎だが良い正月を過ごせそうだ。今年はもう……ホント忙しくてねえ」
三が日も出ずっぱりだったと肩を竦める。
今も仕事であることに変わりはないが代理の護衛任務。
ハジメが庁舎を動くことはないので随分と楽なはずだ。
まあそれでも自分とこの書類仕事などはあるのだろうが。
「ところでインスタントラーメンか何か置いてない?」
「夕飯でしたら作りますよ」
「良いのかい? 忙しいだろうに」
「並行して作業するのには慣れてますから。とりあえずメニューにあるものでしたら作れますよ」
「そうか……じゃあ親子丼を頼もうかな」
「了解です」
そんなことをやっていると他の職員もぞろぞろと顔を出す。
一人だけ特別扱いなど出来るはずもない。
結局、全員分のオーダーを受けることになってしまった。
そうなると一人では足りないのでハジメにも手伝ってもらうことになったのだが……。
「……何か、良いね。こういうの。色々なことを忘れられるぐらい楽しいよ」
「……だね」
当人はご機嫌だった。
まあ分かると思うが計算通りである。
まるで夫婦で食堂を切り盛りしているようなシチュエーション。
これを想定してわざわざ雑煮作りを理由に食堂に詰めたのだ。
(まったく年の瀬まで万事卒がないとか流石は僕だな)
年末ぐらいカスを休業してもええんやで?




