見えざる手に導かれて
モモとバディを組み解放戦線を攻める。
そう決まったは良いが(ルイ的には良くないが)、即動けるわけではない。
モモの立場を考えればあちこちに話を通す必要があるし、ハジメの護衛の手配もある。
なので動くのは年が明けてからということで話はまとまりその日は解散と相成った。
ルイはハジメと家に戻ったものの、
『何か、パーティって感じじゃなくなっちゃったね』
『……そうだね。残りの料理は明日に回そうか』
日付も変わっていたのでパーティはお開き。
とは言え一緒の部屋で眠るというイベントは発生したのでまだ行き止まりではなさそうだ。
そして翌日。
「ごめんね。ただでさえ不自由な冬休みなのに時間まで奪っちゃって」
「気にしないで。これから大変なルイくんのために少しでも力になりたいの」
「……ありがとう」
二人は工房で昨日話した式神作りを行うこととなった。
状況が状況だ。
モモも九課に保管してある素材は何でも使って良いと許しが出た。
特対全体の保有物に関しても申請を出してくれれば何とか融通するとも。
ハジメの異能と合わさればかなりの逸品になるだろう。
「じゃあ早速と言いたいけどどんな式神を作るかは考えてるの?」
「変に衒ったものではなく基本に忠実なものをとは考えてる」
特化した一つの役割を持たせて補助させる。
式神使いの基本の一つだ。
「何せ大陰陽師ですらそうしたんだからね」
「なら清明と同じで十二体作るの?」
「いや流石に数は減らすよ。僕と清明では求められる役割も違うからね」
安倍晴明と神央累。両者は力の差はあれどスタイルという意味では同じ万能系だ。
しかし清明の場合は立場という形で多くを求められていた。
だからこその十二天将なのだ。
「まあ清明の実力を考えればぶっちゃけ十二も要らなさそうではあるけど」
「あー、ノリノリで色んな料理作ったけどこれ多すぎ……みたいな感じだったのかな清明も」
「そんなノリの清明はちょっと面白いな」
親近感を覚えるよと言えばハジメは嬉しそうに笑った。
「話を戻すけど僕の場合は言ってしまえば単なる戦闘員だからね」
そこまで複雑なものは要らない。
だから、と続けてルイはノートにコンセプトを書き込んでいく。
解析、近距離、中距離、遠距離、強化、弱体化、回復。
「これぐらいで十分かな」
「だよね! 私もそう思う!!」
ブンブンと頷くハジメにルイは、
(まあ頭悪いお前なら七つでも多過ぎだけどな。二つが精々関の山だ)
優しい笑顔で見下していた。
「多分清明も式神リニューアルするならこれぐらいにするんじゃないかな。
やっぱ十二も要らんわ。ノリで作ったけどこんなん七つぐらいあれば十分やん、って」
力説するハジメにルイは内心、気を良くしていた。
(分かってるじゃないか。持て囃されてるが清明も僕に比べりゃ凡夫も凡夫)
必要ないってだけで扱い切れないとは言ってねえだろ。
どうしてお前は他人の言葉を都合の良いように歪曲するんだ。
「名前は? もう決めてる?」
「いや昨日の今日だしね」
ああそうだと手を叩きルイはこう提案する。
「良ければハジメさんが考えてくれないかな?」
「……良いの?」
「勿論。だって二人の共同制作なんだからさ」
それっぽいことを言ってるがぶっちゃけ考えるのが面倒で押し付けただけ。
霊的に名というのは重要であることは承知している。
その上で自分に使われることの方が比重は高いので名前など些事など断じているのだ。
いや断じるな。
「なら貪狼、巨門、禄存、文曲、廉貞、武曲、破軍でどうかな?」
まるで“最初から考えていた”ようにハジメは答えた。
「北斗七星の別名か。よく知ってたね。講義で習った?」
「あ、うん。占星術とかそんなあれだったかな? カッコいいしどうかなって」
少し早口でそう答えるとルイはそれでいこうと頷いた。
さっきも言ったが名前なんてどうでも良いのだ。
「それじゃあ作業を始めようか。補助、よろしく」
「任せて!」
蔵から持って来た目ぼしい素材を一つ一つ厳選していく。
「これとこれは良いかも。こっちは……うーん?」
十二天将の時と違い一からの制作だ。
どうも最初から合わせない方が良い物も分かるらしい。
上手く言語化は出来ていないが、他ならぬハジメの言だ。間違いはないだろう。
「あー、ここにはないかなあ?」
「大まかで良い。足りないものの材質とか分かるかい?」
「鉱石……だと思う。種類は。でもすごく特殊な感じだと思う」
十二天将復元という経験を得て異能が更に成長したのか。
ここにはない素材の種類まで特定出来るようになっていた。
「九課にはない鉱物の類、か。ちょっとモモさんに頼んでみよう」
モモに連絡を入れれば一時間もせず幾つか候補が送られて来た。
そして運の良いことにピタリと嵌まるものを発見。
驚くほど順調に作業が進んで行く。
一から作るとなれば復元とは勝手が変わって来る。
明確な設計図もないまま手探りで進めているにも関わらず工程に淀みはない。
まるで見えざる手に導かれているかのようだ。
しかし、
(流石は僕だな。長年の十二天将復元計画がまた新たな才能を開花させてしまった)
ルイは疑わない。それが自らの才覚に由来するものであることを。
ルイは気にも留めない。路傍の石ころになど。
「外装はどうするの?」
「うーん、どうしようか」
「狼にしない?」
「貪狼だから?」
「……た、単純過ぎた?」
「いやそうしよう」
なら残りは、とルイは頭を回す。
「対応させようか」
「対応?」
「そう。狼は地を駆ける獣でしょ? ならもう一つ陸の獣を」
そして海から二つ、空から二つ。それぞれの場を生きる獣を象る。
そして最後に獣ではなく人型を据えることで調和を成すのだ。
ルイの説明を聞きハジメは、
「ほへー……な、何かごめんね? 特に考えず候補挙げちゃって」
「良いさ。こういう作業にはインスピレーションも大事だからね」
時折休憩を挟みながら作業を続けること半日。
「……出来た」
日付が変わる少し前に一体目の式神、貪狼が完成した。
ハジメが目を輝かせ両手を挙げたのでルイも仕方なくそれに応じる。
勿論、表面上は取り繕ったまま。
「ハジメさんのお陰だ。本当にありがとう」
「どういたしまして! これであと六体だね。このままやっちゃう?」
「いや、今日はこの辺にしよう。疲れてる状態でやっても効率が悪いし」
「了解。じゃ、明日だね」
「ああ」
片付けをするから少し待ってて。
そう背を向けたルイの後ろで、
「……」
ハジメは蕩けるような笑みを浮かべていた。




