聖夜②
(しかしコイツ、マジで危険人物だな……)
クリプレ交換を終え空気は更に甘やかなものとなった。
良い具合にムーディな会話を交わしつつルイは改めてハジメの異能について考える。
(この指輪と同じ物を作るのは絶対に不可能ではないだろう)
ただそれは山のように希少な素材を百年に一人の天才が用いてとかそういうレベルだ。
量産なんてものはどう足掻いても不可能。
なのにハジメの異能を使えば簡単に量産が出来てしまう。
多少なりとも消耗はするが効果を考えれば破格も破格。
百円払って一億円返って来るようなものでどう考えても釣り合っていない。
等価交換? 何それウケるってな具合だ。
(極めて高い性能の兵器を大量生産出来るようなものだが……)
それだけでも十分、ヤバい。
十把一絡げの雑兵に持たせれば物の質で人の質を補えてしまう。
(まだ成長の余地があるんじゃないか?)
意思が欠けた不完全な付喪神を生成する。
それが現段階におけるハジメの異能だ。
しかしそこに意思を宿すことが出来たとすれば?
当初からその可能性はモモに示唆されてはいたし危険性はルイも重々承知している。
(だが意図した能力を付与出来るという要素が加われば危険度は更に跳ね上がる)
人間であれば当然のようにある得手不得手。
集団を率いる人間はその不足を補い合うように配置しなければいけない。
それでも人間ゆえどうしたって完全には噛み合わない。ブレが生じてしまう。
だがハジメの異能ならそのブレを消すことが出来る。
一つの役割に完全特化させた意思ある兵士を生産出来てしまうのだ。
(完璧な軍隊ってことじゃないか)
生み出された付喪神を完全に制御出来るという前提ありきの話ではある。
だがハジメの異能を考えれば隷属させるぐらいは出来ても不思議ではない。
それでいて世界の終わりに現れる付喪神のような最強の個も生み出せる。
(一個人が所持して良いような能力じゃないぞこれは)
その癖、排除や封印にも異能の暴走というリスクが付き纏う。
いっそ笑えて来るぐらいの危険度だ。
(やはり僕が管理して正しい形で利用するしかあるまい。そう、全ては僕動説のために)
結局そこに行き着くんかい。
馬鹿に鋏という言葉を知らんのか。
「そう言えばさ、ルイくんはもう式神を作らないの?」
「え?」
「十二天将とその……指輪もなくなってお父さんとお母さんの式神もなくなっちゃったじゃない?」
どうするのかなって。
そう聞かれルイは思案する。
「……どうしようか」
父と母の式は演出のため。
十二天将復元は解釈違いを正すため。
既に目的は果たしているのだ。
(この先、戦闘能力が足りずにまたどこかで行き詰まるのは確定してるが)
結局のところ地力を伸ばすしかない。
それに式神は必須というわけではなく補助程度のもの。
そしてそれにしたって数ある選択肢の一つに過ぎないのだ。
「もし作るなら手伝うよ? ある程度、感覚は掴めたし」
代価としてしまった十二天将は二度と作れない。
製法は同じで違う名前をつけて一からなどという抜け道も不可能だ。
禁術とはそういうもの。
だがハジメの異能を用いてまったく違うアプローチの式神を作ることは可能だろう。
「私とルイくんならきっと清明の式神を超えるものだって作れると思うんだ」
「……僕一人なら難しいけど、そうだね。ハジメさんと一緒なら」
少しキョトンとした顔をしてからの柔らかな笑みを浮かべて肯定。
ハジメのチラチラアプローチに百点満点のリアクションを返すルイ。
場の空気が蜜のような湿り気を帯びていく。
(心底嫌だが今日、コイツを押し倒すか?)
無理か? いやでもギリ行けそう?
見つめ合いながらそんなことを考えていると、
「「!」」
突然電話の音が鳴り響いた。
スパダリ的マナーとしてスマホは当然、マナーだ。
だからこれは緊急の連絡。画面に表示されているのはモモの名前。
目配せでハジメに許可を取り電話に出ると開口一番、謝罪が飛んで来た。
≪楽しい聖夜を過ごしているところすまないね。私としても邪魔はしたくないんだが≫
「……まあ思うところがないと言えば嘘になるよ」
ほんの少し不機嫌さを滲ませハジメにアピール。
「けどあなたが飄々としているようでその実、気遣いの人だというのは知っている」
次にモモ。この順番が大切なのだ。
分け隔てない優しさを見せつつヒロインには特別な扱いを。
スパダリ五箇条の御誓文の基本をルイはしっかりと守っていた。
「それだけ重要な何かがあったんだろう?」
≪……やれやれ。年下の部下に気を遣われるとは≫
ああその通りだよとモモが溜息を吐く。
≪こっちへ来てほしい。彼“ら”が目覚めたんだ≫
「ら、ということは」
≪例の少年だけでなく古賀香澄もさ。タイミングが良いんだか悪いんだか≫
緊迫した状況下だ。
目覚めたのなら即座に事情聴取をというのは納得である。
特にその両者はルイが直接、話を聞いた方がスムーズに行くのだから。
「理解したよ。なら護衛の引き継ぎをしたら」
≪ああいや待った。ちょっとスピーカーにしてくれるかい?≫
「……? 分かった」
言われるがままスマホをスピーカーに切り替える。
≪やあお嬢さんこんばんは。すまないね。折角のクリスマスを邪魔してしまって≫
「あ、いえそんな。私のことで大変ご迷惑をかけてるわけですし」
≪気にする必要はないさ。それより心苦しいんだが君の力も借りたいんだ≫
「わ、私ですか? いやあの、ルイくんみたいにお役に立てるとは」
≪いや君にしか出来ないことだ。“その感覚”を知る君にしか、ね≫
その発言でルイも意図を察する。
『“声”が聞こえるそうだ』
『声?』
『そう。これがどうも比喩とかじゃなさそうなんだよね』
以前ルイは古賀香澄についてモモとこんなやり取りをした。
つまり、モモはこう言いたいのだ。
「……古賀香澄が聞こえていたそれがハジメさんのものと同じだと?」
確認の体を取っているがルイもまたそうではないかと思い始めていた。
むしろ何故、その可能性を見落としていたのかとすら思っている。
≪その可能性は高いと思う≫
勿論、直接対面させるつもりはない。
警察の取り調べに協力する参考人のように見えないところで立ち合わせる。
そう前置きした上で構わないかな?
とモモが確認を取るとハジメは顔を強張らせながらも頷いた。
「ハジメさんが良いなら僕から言うことはない」
準備を済ませたら直ぐに向かうと告げルイは電話を切った。
「……ふぅ。続きは帰ってからだね」
「うん。日付は変わってるだろうけど、まあそれも良いよね」
ルイが苦笑交じりに言えばハジメも同じように返す。
この場における対応としてはこんなものだろう。
(にしてもさっちゃん、昨日の今日でもう目覚めるなんて)
と、そこでルイは気付く。
(はっ!? まさか僕の貞操を守るために……?)
なわけねえだろ。




