聖夜①
「こんなもんかな?」
「ルイくん、照明落としてもらって良い?」
午後六時過ぎ。
テーブルの上に料理を並べ終え準備完了。
指示通りにルイが部屋の電気を消すと、ハジメがキャンドルに火を灯した。
淡い光に照らされた室内は何ともムーディだ。
これから恋人たちの夜が始まると言われても納得の空気感である。
「じゃあ改めて」
「うん」
互いのグラスにノンアルのシャンパンを注ぎそっと掲げる。
「「メリークリスマス!!」」
軽くグラスを打ち合わせ乾杯。
二人だけのクリスマスパーティが始まった。
「にしても……何度目かって感じだけどルイくん何でも出来過ぎでしょヤバくない?」
テーブルの上に並ぶ料理は料理上手の素人レベルなどではない。
高級レストランで出て来ても不思議ではないクオリティだ。
「昔取った杵柄だよ」
正確には昔取らされた杵柄である。
「何個あるのその杵柄……?」
今現在の数に意味はない。
これからも増える可能性があるのだから。
「僕ばかり持ち上げてくれるけどハジメさんも大したものだよ」
とルイもお返しでハジメを褒める。
まあハジメのそれは純粋な賛辞でルイのは果汁100%の心にもない世辞なのだが。
「ケーキ。それちょっとお菓子作りが上手とかの範疇じゃないもん」
見ただけで分かるよとルイが言えばそりゃそうでしょとハジメは頷く。
「これかなり練習したんだよ? それなりの出来になってなきゃ悲しいって。
でもルイくんは年齢的に考えてさあ。そんな時間かけたわけじゃないでしょ?」
本当に凄いと何度も口にするハジメ。
火を点けたのはコイツなのである意味マッチポンプである。
「フフ、今日は褒め殺しの日なのかい?」
「いやお世辞とかじゃなくって本当に凄いと思ってて」
「分かってるよ。ちょっとからかってみただけさ」
「もう!」
楽し気なやり取りの裏でも当然、ルイの内臓はグツグツだ。
冬の寒さも忘れるレベルで煮えくり返っている。
ともあれ表面上、パーティは和やかに進んだ。
そうして半分ほど料理を平らげたところで自然とプレゼント交換の流れに。
まずはルイからプレゼントを渡すことになった。
「わ!」
渡されたのはデパコスの詰め合わせ。
だが百貨店で売っているセットそのままではない。
ハジメに合う、或いはより際立たせるものを一つ一つ厳選したものだ。
「おぉぅ……ルイくんって実は女の子だったりする?」
男がリクエスト以外で化粧品をプレゼントするのは中々にハードルが高い。
ただ単に高いもの、評判の良いものだけでは90点の壁は超えられないからだ。
受け取る女性の魅力を完全に引き出すチョイスは同性でなければ中々。
しかしルイはミリも外していない。だからハジメも驚いているのだ。
美容師としての経験に基づく確かなセンスとは夢にも思うまい。
「女男、なんてからかわれたりすることはあるかな」
「あ! いやそういうことじゃなくて」
「フフ、大丈夫。冗談だよ。喜んでもらえて何よりだ」
「もう……もう!」
ごめんごめんと言いつつもう一つ、小箱を差し出す。
「え、まだあるの? それは流石に申し訳」
「いや最初はこれだけだったんだけどね」
実務的過ぎてどうかと思いコスメセットも追加したのだと苦笑を浮かべる。
そしてどうしても受け取って欲しいと懇願し、ハジメは遠慮がちに小箱を受け取った。
「……指輪? え、こんなの実務的っていうか」
もごもごと口ごもり顔を赤くするハジメ。
そこには触れずルイは指輪の説明をする。
「お手製のタリスマンさ。身代わりとして使える」
「あ、そういう……」
「身に着けてて自然なものをと考えて指輪にしたんだ」
専用のチェーンも同じく守護の意味合いがあるもの。
しかも相当の実力者でなければ見抜けないほど完璧な隠蔽が施されている。
仮にハジメが囚われても没収される可能性は低いだろう。
「ありがとう。大切にするね」
ナチュラルに左手の薬指に嵌めるハジメ。
かなり苛つくルイだったがうんと頷きクリプレミッションを終了させる。
「じゃあ次は私……なんだけど、やっちゃったかなこれ」
小声でつぶやくハジメ。
(ああ、コイツも指輪か。露骨過ぎんだよな。つまらん奴だ)
当然ルイには聞こえていたが聞こえない振り。
「じゃ、じゃあまずはこれを」
開けて良いか確認すれば中身はマグカップとコーヒー豆。
どちらも結構お高いやつで高校生のプレゼントとしては破格だろう。
マグの方はデザインも中々でハジメのセンスが窺える。
「作業中とかよくコーヒー飲んでたし良いかなって」
「……ありがとう。大切に使わせてもらうよ」
「どういたしまして。そ、それでさ。実は私ももう一つあって」
これ、と同じように小箱を差し出す。
中身は予想通りの指輪。
しかも、
「……これ、能力を使って?」
「うん。ルイくんって無茶しがちだから少しでも助けになればなって」
その指輪は不完全な付喪神と化していた。
分類するならこの指輪もルイが贈ったものと同じでタリスマンになるだろう。
だが問題はそこではない。
(こ、こいつ……付喪神に付与される能力の方向性をコントロール出来るのか……?)
形見の指輪と五行扇。
ハジメが異能を用いて変化させたものを見たのは二回だけ。
それゆえ勘違いしていた。発現する能力はランダムであると。
だが先の発言と指輪を見るにハジメは守護の能力を意図的に付与している。
「……でもまさか被るとはなあ。は、はは……いや面目ない」
「似た者同士なのかもね」
おい訴訟もんの発言だぞそれ。
誹謗中傷に厳しいご時世であることを自覚してほしい。
「ありがとう。首元が寂しくなってたし嬉しいよ」
「……うん。大切にしてね?」
「勿論」
言いつつ付属していたチェーンに指輪を通そうとするが、
「あ、一回つけてくれるかな? 上手くいってるか分からないし」
「ああそうだね。じゃあ」
と同じく左手薬指に指輪を嵌める。
ストレス値が一瞬でハイスコアを叩き出した。
しかもそのスコアは秒単位で更新中だ。
「! こ、これは」
「え? 嘘……し、失敗してた……?」
「い、いやお守りとしての能力はちゃんとあるよ。ただ」
能力はそれだけではなかった。
指輪を嵌めた瞬間分かったのだ。
この指輪を装着している間は陰陽術が強化される能力も付与されていると。
「……そんな能力あったの?」
これは意図したものではないらしい。
が、
「う、うん。でも強化の度合いが尋常じゃない」
消費MP90%減。威力2.5倍。
具体的な効果をゲーム風に言うならこんな感じ――――チートか?
「へえ、そうなんだ。あ、これならちょっとオリジナリティ出せたかな?」
あははと楽しそうに笑うハジメは知らない。
(僕より上等なもん出すんじゃねえよ殺すぞ……!!)
ルイのプライドがこれでもかと傷付けられていたことに。
……いや別にどーでも良いわなコイツのプライドなんか。




