お前には屈辱を贈ろう
モモをして規格外と言わしめる異能。
それゆえ使えるのはハジメだけだと思っていた。
しかし清明もまた同種の能力が使えたとすればどうだ?
(使えても不思議ではない。むしろしっくり来るぐらいだ)
相手は千年の時を経ても尚、頂点に位置する規格外の術師。
誰でも習得出来る技能だけを極めてそこに到達するのは困難だろう。
特異極まる固有能力も合わさってということなら納得がいく。
「……」
「どうしたの?」
「いや、話を聞いていて思ったんだ。清明も九十九さんと同じ能力の持ち主だったのかもって」
「そ、そうなの?」
「あくまで僕の推測だけどね」
そう言って幾つか根拠になりそうな理屈を並べる。
確証はないので仮説止まりだが問題ない。実証の機会は直ぐに訪れるのだから。
「じゃあ、私の力を使えば神央くんのお手伝いが出来る?」
「と思うけど……良いのかい?」
「勿論! 折角、神央くんの役に立てそうなチャンスなんだもん!!」
貰ってばかりだったけどようやく少しだけど恩返しが出来る。
折角の機会を逃すつもりはないとハジメは胸に手を当て笑う。
(何だコイツ。表情に自信の色が混ざってるぞ。不愉快だ)
良いじゃねえかそれぐらい。
「あ、でもその……素人だから指示は神央くんに任せたいなって。へへ」
「フフ、そうだね。そこは僕がやろう」
じゃあ早速だけど良いかい?
とルイが問えばうん! とハジメが元気良く頷く。
二人の共同作業。おぉ、如何にもヒロインとスパダリのイベントっぽいではないか。
「先ずは声について詳しく聞かせて欲しい」
「うん。何て言うのかな、声って言ったけど知性とかそんな感じではなくて」
痛い苦しい、嬉しい、気持ち良い。
そんな感じの思念のようなものが伝わって来るのだという。
「なるほど。なら、この残骸たちの声を聞いてくれるかな?」
青龍、朱雀、玄武、白虎、六合、勾陳。
特対が保管する六つの残骸を作業台に並べるとハジメは一つ頷き目を閉じた。
「……気持ち悪い? この子たちは、何だろ……不快感を覚えてる、のかな?」
自信なさげにそう口にするハジメ。
一見すれば大した情報ではないように思えるが、
「なるほど」
ルイには大きな手掛かりとなった。
つくづく無駄に有能な男である。
「分かったの!? 直接、声が聞こえてる私にも全然わかんないのに!?」
「正しいかどうかは分からないけどね」
声が聞こえる。
物に何かを感じる機能があったとして何を思うのか。
ハジメから告白された時、ルイはまずそこを考えてみた。
「九十九さんは声について検証とかはしたかい?」
「検証ってほどではないけど色々聞いてはみたかな」
「なら質問。ちょっと不快なことかもしれないけど」
「ううん、大丈夫」
「ありがとう。聞こえる声ってさ、悲鳴染みたものが多いんじゃない?」
「……うん」
ごめんねと謝罪を口にしルイは二つの物を指さした。
自分が腰掛けている木製の椅子と作業台の上にあるデジタル時計だ。
「椅子みたいな単純な物と時計みたいな複雑な構造の物。
悲鳴が聞こえる割合や声の大きさは後者の方が前者より多いし大きいんじゃない?」
そう問うとハジメの目が大きく見開かれた。
「え、何で分かるの!?」
「やっぱりそうか。うん、説明するよ。まず一つ聞こう。この時計は何で出来てる?」
「な、何で……プラスチック?」
「そう。プラスチック。他にも液晶、シリコン、クォーツ、銅、はんだ様々な物で構成されてる」
次いでルイは椅子を軽く小突く。
「こっちは基本、木材を加工したものだ」
「そうだね……それが?」
「その差こそが悲鳴の原因、その一つなんだと僕は思うんだ」
少々グロテスクな話になってしまうが人間で例えると分かり易い。
そう前置きしルイは説明する。
「椅子の方はメイクやちょっとした整形手術、アクセサリーをつけたぐらいかな。
でも時計は違う。他人の手足や人体とはまったく異なる物質を混ぜ込まれているようなもの」
正確な表現ではないのだろう。
ハジメのように声が聴こえればもっと適切な例えが出来たと思う。
だが大まかな説明としてはそう的外れでもないはずだ。
「それに起因する拒絶反応、忌避感、そういったものが悲鳴に繋がっているんだ」
本来の在り方からどれだけかけ離れているのか。
それが単純な物と複雑な物で差が生まれる理由なのだとルイは言う。
「……複雑な構造のものでも悲鳴がないのもあるけど」
「うん。拒絶反応を生じさせずなるべく自然に成立させることも出来るんだろう」
優れた技術であったり、制作者の思念であったり。
良い物を作るための何かが拒絶反応を軽減させているのだ。
「その上で十二天将について考えてみよう」
これは物の声が聞こえる清明が手ずから作り上げたもの。
多くの物を組み合わせても拒絶反応の類は一切ない。
「それどころか組み合わさった状態こそが自然体。そう感じてしまうほどの出来だったはず」
千差万別の物質が合わさって文字通り生まれ変わったのだ。
「あ、じゃあ」
「壊された怒りなんかも当然、あるんだろう」
だがそれ以上に大きいのが欠けてしまったことによる気持ち悪さだ。
当たり前のように存在していた手足、臓器が消え失せればどうなる?
生きてはいても喪失感や不快感は拭えないだろう。
「彼らは完全な在り方から大きく乖離した現状が堪らなく嫌なんだよ」
「そっか。ならちゃんと治してあげないとだ」
ハジメは残骸を優しく撫でながら言う。
「そうだね。よし、作業に入ろう。僕の指示通りのお願い出来るかな?」
「任せて!」
ただ繋ぎ合わせるだけでは意味がない。
ただ埋めるだけでは足りない。
完璧に。一分の狂いもなく。
まるで最初から破損なんてしていなかったかのように。
「良い」
「あ、そっちは駄目」
「これは、うーん?」
曖昧なナビゲートに従ってミリ単位。
或いはそれよりも繊細な作業を休みなく行う。
ルイはスパダリの義務としてハジメを気遣い休憩を提案したが、
「駄目。少しでも手を止めたら、きっと最初からになっちゃう」
と返されてしまった。
ルイとしては好都合なので表面上は難色を示しつつも受け入れた。
少女を酷使することに痛める心などありはしないのだ。
そうして二十四時間に及ぶ修復作業の末、一つ目の式神が完全に復元された。
花飾りをつけた和装の女性。調和を司る式、六合である。
「……すごい」
その存在感に圧倒され呆然と呟くハジメの横でルイは、
(ざっっけんなやゴミカスがァ!!!!!)
キレていた。
自分が散々苦労して辿り着けなかったゴールにたった一日で到達されてしまったからだ。
ハジメは夢にも思うまい。自分がルイの自尊心をこれでもかと傷付けてしまったなんて。
(頼むから死んでくれ……)




