何が釣れた?
アホみたいなやり取りを終えルイはやってられねえとその場に寝転がる。
清明生存説と黒幕疑惑は立証出来ず。
一ノ瀬百、清明説も同じく立証出来ず。
そして結局、十二天将完全復元の手だても見つけられず。
情報は増えたがそれだけ。現状を打破する何かを得たわけではない。
「どうするかなあ……沖縄にするか北海道にするか」
【現実逃避の旅行プラン練り始めてるじゃないですか】
「悪いかよ?」
【いえ悪いとは言ってませんよ】
ツッコミを入れたがブラウンも気分転換自体は否定しない。
以前海外旅行を勧めた際、結局ルイは専門学校行きを選んだ。
ここらで一旦、休憩を入れるのも悪くはなかろう。
【骨休めも良いと思いますよ。ただ休むなら中途半端に休むよりしっかり休む方がよろしいかと】
「言われなくても分かってるよ」
ならばと次の周回に送り出そうとするが、
「あ、いや待てよ」
【どうかされましたか?】
「清明のそれに近付けるとは思えないけど変わったアプローチを思いついた」
完全再現とはならないかもしれない。
だがオリジナルの十二天将を超えられる可能性が無きにしも非ず。
そんなアプローチを思いついたのだという。
「休む前に軽く試してみるのも良いかもしれん
【何か連休前に少し仕事をで結局休めないタイプの人みたいですね】
「死ね」
【はいはいごめんなさい。それでは行ってらっしゃい!!】
そんなこんなで八十八周目スタート。
今回のルイは年増√ではなく新ハジメ√に進んだ。
ただ少し変更点もあり、この√でも十二天将の研究が出来るよう流れを整えた。
研究効率という意味では年増√に劣るが問題ない。
これはあくまで釣り針だからだ。
(さて……かかるならそろそろだと思うが)
髪を整えるイベントもさくっとこなし十月下旬の土曜日。
今日は任務もないので朝から工房に籠って作業をしていた。
すると遠慮がちに工房の扉がノックされた。
(――――来た!!)
モモならノックなどせず入って来る。
ということは待ち人の可能性が高い。
入室の許可を出すと、
「九十九さん? 何かあったの?」
「あ、いや特別用事があったわけじゃなくて」
忙しくない? と恐る恐る聞くハジメに大丈夫と微笑み椅子を用意してやる。
柔らかな対応にほっと胸を撫で下ろしハジメは出された椅子に腰掛けた。
「その、先生から話聞いてさ」
ハジメ自身、少し前からルイが何かをしているのは知っていた。
ただその内容までは聞いていなかった。
しかし根を詰めるルイを心配してハジメの教育係が彼女に事情を説明したのだ。
自分たちよりも歳が近くて良い雰囲気の女の子ならば、と。
「……あんま無理しちゃ、駄目だよ?」
心配そうに告げるハジメだが、
(ハッハッハ! 美容師修行を強いた女が言いおるわ!!)
それはそう。
「……ありがとう心配してくれて」
ちょっと意地になってたみたいだと気恥ずかしそうに頬をかく。
その誘い受けムーブは功を奏しハジメが話に乗っかって来る。
「じゅーにてんしょー、だっけ? この扇子の元の持ち主の人が作ったっていう」
「そう。大陰陽師安倍晴明の傑作さ」
「……神央くんや一ノ瀬さんより凄いの?」
「そりゃもう」
アニメやゲーム、漫画を嗜むサブカル系ならともかくハジメは普通の女子高生だ。
それゆえ安倍晴明なんて言われてもピンと来ないのだろう。
「想像できないな。二人は何でも出来るってイメージだからさ」
「評価してくれるのは嬉しいけど、上には上が居るもんだよ」
「そんなもんかぁ……あ、これ差し入れ。良かったら食べてよ」
今思い出したかのようにトートバッグを差し出す。
だが、さっきからタイミングを伺っていたことなどルイにはまるっとお見通しだった。
つまらん奴めと腹の中でせせら笑いつつありがとうと笑みを浮かべバッグを受け取る。
中は水筒とハンカチに包まれたお弁当箱。
(手作りか。反吐が出る)
コンスタントにカス。
「どういたしまして」
目的を果たして気が抜けたようでほにゃりとハジメが笑う。
「ところでさ。その復元? どこで詰まってるの? 伝説の素材とかそういう?」
専門的な知識なんてないし説明されても分からない。
ただ何となく聞いただけなのだろう。
しかし、それこそがルイの狙いだった。
ハジメならばこういう流れになるだろうと考えここまで誘導したのだ。
コイツの規格外の異能を上手く利用出来ればワンチャンあるかも、と。
「いや、素材とかなら一ノ瀬さんに頼めば大概のことは融通してくれると思う」
ふぅ、と悩まし気な溜息を漏らしながらルイは言う。
「難航してるのは清明だけが持つ“視点”なんだ」
「視点?」
「そう。僕の推測だがどうも彼には常人とはまったく異なる知覚が備わっているようでね」
ハジメに背を向け残骸を撫でながらルイは語る。
自身が読み取った安倍晴明という人間の特異性とその孤独を。
概要としてはモモに聞かせたものと同じだが若干、アレンジを加えている。
(この周回では一ノ瀬から清明の悪行については聞いてないからな)
そこはさも自分が独力で気付いたように変更を加えた。
そのことへの後ろめたさなどは当然のことながら一切、ない。
更に更に言い回しをより叙情的にすることでハジメのウケも狙う。
(僕は詩人としても食っていけるな)
などとナルっているせいで気付かない。
背後のハジメがどんな顔をしているのかに。
「――――」
分厚い岩盤に亀裂を刻まれたような。
一瞬、そんな表情をするハジメだったが……。
「……それ、私と同じような感じかな」
直ぐに綻びは消えハジメはどこか思い詰めたようにそう呟いた。
(うん?)
予想外の返答に思わず振り向いてしまう。
「私と同じようなって? 何か、あったの?」
「まだ、誰にも言ったことがないんだけどさ……“声”が、聞こえるんだよね」
「声?」
「うん。最初は全然そんなことなかったんだけど」
異能の訓練をする内に物の声が聞こえ始めたのだという。
最初は幻覚だと思っていたがどうもそうではないらしい。
「……平気なのかい?」
「うん。聞こえるのは能力を使ってる時だけだし」
「そっか」
安堵した風を装いつつルイは考える。
声、そのワードには聞き覚えがあった。
いずれ捕縛することになるであろう古賀香澄。
それよりも、だ。
(そうだ。何故、見落としてたんだ僕は)
清明装束。
あれは清明愛用の扇子が不完全な付喪神と化した結果の産物だ。
第三者の手により成されたと思っていたが、
(清明が自らの手で不完全な付喪神に変えたとすれば?)




