ボッチに優しくするから……
【お、お、お、お前がお前がスパスパスパダリ……】
「文字でDJやろうとするな」
【スパダリセンサーならしっかり汲み取ってくれるかなと】
「うっざ死ね地獄に堕ちろ」
八十五周目が終わり毎度お馴染み説教部屋。
ブラウンもちょっと飽きて来たのだろう。
定型文にユーモアを混ぜるがルイの瞳は永久凍土よりも冷たかった。
【進捗はどうですか?】
「……六割、ってところかな」
ルイはそう苦々しく答えるが冷静に考えて欲しい。
安倍晴明の式神を六割も再現出来ているというのは普通にヤバい。
一周三年で実際、研究に使える時間は一周一年程度。
それを七十七周から始まって八十五周目までで大体十年。
そこに説教部屋での研究を加味しても異常な成果だ。
何せ先人たちは六割に辿り着くことすら出来なかったのだから。
【順調に進んでいるのに何がご不満なのです?】
「不満、というか」
珍しく歯切れが悪い。
「明確に言語化出来るわけじゃないがどうも嫌な予感がしてね」
【嫌な予感?】
「何かこう、致命的に何かが足りていないような……」
そこで頭を振りルイはパチンと指を鳴らした。
菓子とジュースを出せという合図だ。
もう口頭で伝えることすら面倒になったらしい。
ブラウンが所望の品を出すと以降は無言で研究を再開。
周回で得た情報を元に説教部屋でやれる限りを尽くしてから八十六周目に入った。
「……」
時系列としては清明関連の話を聞いた数日後のことだ。
ルイは一人、工房で脱力感も露わに天井を仰いでいた。
「やっほルイくん。頑張る君に差し入れを……おや?」
するとそこに上機嫌のモモが来訪。
らしくない姿のルイを見て目を丸くする。
「君がそんな顔をするなんてね。根を詰めすぎじゃないかい?」
連日連夜の作業。
さしもの超人であろうと心身の疲労は無視出来ないだろう。
休んだ方が良いのではと諭すモモにルイは首を横に振った。
「気持ちを切らしたくないというのは分かるけど」
「……違う。そうじゃないんだ」
「うん?」
「理解してしまったんだよ」
理解? 何を?
首を傾げるモモにルイは残骸を示しながらキッパリと告げる。
「――――完全な復元は不可能だ」
「……ふむ」
あまりにハードルが高過ぎて折れたというわけではない。
何か決定的な問題を見つけてしまったがゆえのもの。
少なくともモモの目にはそう映った。
「詳しく聞こうか」
「“視点”が足りないんだ」
「視点?」
「例えば地球に似た天体があって人類とほぼ同じ生命体が居たとしよう」
だが一点、異星人は知覚に関して決定的に異なる点があった。
彼らは光に関して紫外線領域のある波長の強弱しか検知出来ないのだ。
「色が分からないわけか」
「そう。となれば当然、技術や文化の発展は僕らのそれとは大きく異なるだろう」
その中には思いもよらないものが多々あることは想像に難くない。
「でもそれは優劣ではない。視点の差異でしかない」
異星人に地球人の視点は理解出来ないし、逆も然り。
まったく異なる視点からでしか見えないもの理解出来ないものがある。
だからこそ、生み出されるものも異なるのだ。
「それと同じさ」
あくまで僕の私見だが。そう前置きしルイは言った。
「清明には何か常人とは異なる知覚が備わっていたんだ」
「――――」
「その感覚が十二天将の作成にもフル活用されてる」
完全な設計図があれば同じものは作れるだろう。
だが残骸から逆算して完全な設計図を割りだすのは不可能。
異なる知覚を以って導き出された幾つもの解が組み合わさっているからだ。
テキトーに調味料を混ぜて絶品ソースが出来上がるか? という話である。
「ただ優れてるだけなら追いつけもしようが」
最初からないものを前提にとなると現状、手詰まりだ。
「どうしたものか」
作業台の上に置いていた洗面器に湯を張り濡れタオルを作り顔にかける。
ルイが簡易ホットマスクの効果に浸っていると……。
「……」
その後ろではモモが形容し難い表情を浮かべ黙り込んでいた。
溢れ出す喜びを必死に噛み殺している子供のような、そんな顔だ。
「君は、凄いね」
絞り出すような声だった。
「……何だい急に?」
「能力という意味では私の方が晴明に近いだろう」
だが、と少し興奮を滲ませながら続ける。
「清明が常人とはまったく異なる知覚を備えていたなんて考えたのは君ぐらいだ」
「……合ってるかどうか分かんないけどね」
と謙遜しつつもルイは自分の仮説を疑っていない。
どう考えてもそれぐらいじゃないと理屈が通らないからだ。
「いや合ってると思うよ」
モモは言う。
自分もかつて十二天将復元を試みたことがあると。
「実際に手を加えたわけではなく図面を引くぐらいだったがね」
「初耳だ」
「でも不思議ではないだろう? 清明装束なんてものの所持者だったわけだしね」
「……それもそうか」
「そして私自身も君と同じあたりで行き詰まった」
ある程度まで設計図を書いて気付いたのだ。
このままでは完成させられないと。
「だがそれが何に起因するものかが分からなかった」
霊能力者特有の直感だろう。
そこで思考を打ち切って以降は完全に忘却の彼方へ追いやった。
「……君がそれを理解出来たのは、清明の心に寄り添おうとしたからだろうね」
清明にまつわる黒い疑惑。
それを聞いても尚、安易な否定はしなかった。
「もし彼の大陰陽師が常人が持ち得ぬ目で世界を見ていたのなら、だ」
ルイの孤独だったという指摘もあながち間違いではあるまい。
隔絶した力量と異なる視点が清明を孤独に導いていたとしても不思議ではない。
「君は過去現在未来を含めて最も清明の心に近づいた人間なんじゃないか?」
「買い被り過ぎだよ」
というか、
(だから何だってんだ)
これがルイの本音である。
ちょっと黒幕疑惑が出てるので気にかけてるだけ。
遺産以外でとうに利用価値のない死人に対する興味など皆無だ。
「いいや間違いないよ」
そんなやり取りをした数日後のことである。
またしてもこれまでにないイベントが年増√において巻き起こった。
(……どうなってるんだ)
告白の前倒しである。
誘導したわけではない。モモが勝手に告白して来たのだ。
そのことでルイの中に一つの疑惑が生じる。
(――――よし、決めた)




