F●CKだね!
【……色々言いたいことはありますが一先ず飲み込みます】
モモも決して褒められた人間ではない。
だがそれを差し引いても何もかもが酷過ぎるが言っても無駄。
良いところ。良いところを褒めてあげよう。
そんな出来た教育者のような思考でブラウンはルイの判断を評価する。
【現状、あなたの実力は頭打ち。ここからダーク狭間氏を真っ向から打倒するまで伸ばすのは難しい】
とは言うがダーク幸男を見せつけられた際、ルイは地味に壁をぶち破っていたりする。
解釈違いで切れる厄介オタクの面目躍如といったところか。
【ならば外付け戦力を増やすという判断は間違っていません】
そしてそれが安倍晴明の式神というのなら文句なしだ。
繰り返しというアドバンテージにより時間的な制約は踏み倒せる。
ならば地道に積み重ねて行けば十二天将の完全復元も叶うだろう。
【特対に保管されているものは六つですが十分でしょう。
ダーク狭間氏ともやり合えるし後々の戦力としても役に立つはずです】
幸男を救うことが必須だとしてもあの場でやる必要はない。
あの場は撃退を優先し決着を先延ばしにして、その間に手段を探す。
ヒロインを狙う間男との度重なる衝突というのは物語としても美味しい。
ブラウン自身はそれが正規√だと考えている。
そしてルイは自分とのやり取りからそれを看破したのだろうと思っているわけだが……。
「はぁ?」
心底小馬鹿にし切ったような「はぁ?」。
ただの二文字でここまで人を苛つかせられる? ってぐらいの「はぁ?」。
「あんな気持ち悪いさっちゃんを一秒たりとものさばらせておくわけないだろ殺すぞ」
本気の殺意であった。
無駄が削ぎ落され極限まで研ぎ澄まされたそれは一種の美を感じるほど。
こんな場面で見せるような代物じゃねえ。
【ならば何のために】
「禁術に使う生贄に決まってるだろ」
完全復元が成るということは再度、作れるということでもある。
そこまで状況を整えた上で二度と作れないよう完全消滅を代償とするのだ。
コストとしては十分。確実に幸男に巣食う外法を撃ち抜ける。
【ば、馬鹿な……あれほどの代物を使い捨てに……】
残しておけばどれほど役に立つか。
慄くブラウンをルイは鼻で笑い飛ばし告げる。
「“だから良い”んだろ」
これは単なる厄介オタクの凶行というわけではない。
スパダリ要素も踏まえた上での策なのだ。
「友がため、ヒロインがため、何の躊躇もなく貴重なものを捨てられる」
それこそスパダリムーブだろうと。
その指摘にはブラウンも唸らざるを得ない。
確かにそれはかなり高得点であると。
「ああそうだ。どうせならオマケで形見の指輪もつけてやるか」
首から提げられた指輪を一撫でしルイは言う。
「形見さえも捧げるとかこれもポイント高いだろ? 丁度良い」
僕としても厄介払いしたかったところだしねと肩を竦める。
「九十九の力で変化させられたものを四六時中身に着けるなんて嫌だったんだ。
これで合法的に捨てられるし好感度も稼げる。良いこと尽くめじゃないか。
私のためにとか罪悪感抱くであろう奴に何か良い台詞をかけてやるのさ。
物は消えても想いは残るとかそれらしいことをね。な? 良い考えだろ」
策略という意味ではYESだね!
人道という意味ではNOですらないF●CKだね!
【何という……】
「で、満足したか? 見ての通り僕は忙しいんだ」
いや分からないかな? と嫌味たっぷりに鼻で笑う。
スパダリってかざまあされるタイプのイケメンだろこれ。
「お前がすべきは適時、僕に茶と菓子、そしてノートと筆記用具を補給することだけだ」
分かったら弁えろと通告しルイは研究に戻った。
【……】
言われた通りにしつつブラウンは黙ってルイを見守り続けた。
そして一年を越えたあたりで改めて思う。
【何と、恐ろしい】
ルイは一度も眠っていない。
肉体の枷がないから眠らなくても問題はないが、それでもだ。
飲食が出来るように体感は生身のそれと変わりはない。
にも関わらず寝ない。寝ずにペンを走らせ頭を悩ませ続けている。
飲み食いはしているがその間も思考を止めている様子は微塵もない。
【心を殺す術を身に着けているとかならまだ理解は出来ますが】
決してそうではない。
むしろ感情が豊かな方だろう。
呪詛のように愚痴を垂れ流していることからもそれは明白だ。
にも関わらず心を病ませるようなこともなく集中力を切らさず延々作業を続けられる。
【……周回中より圧倒的に外界からの刺激が存在しないこんな場所でよくもまあ】
何なら模様替えを検討した方が良いのでは?
とブラウンが考えるぐらいには精神衛生的にもよろしくない空間だ。
テレビがぽつんと置いてあるだけの真っ白い空間なんて発狂待ったなしだろう。
「はぁ。気は乗らないが一旦、検証に行くかあ。おいブラウン!」
【あ、はい。ではいってらっしゃい!!】
「うぃー」
ぬるっと七十八周目が開始。
精神的負荷など欠片もないままライン工のようにイベントを踏んでいく。
そして見事、年増√に突入し研究環境を構築。
世界の終わりギリギリまで研究に没頭し、説教部屋へ帰還。
「よしやるか」
とこちらでの研究を再開。
周回で得た問題点、改善点等を織り込み再度一から積み上げていく。
情報量が増えたからだろう。今回は三年、説教部屋に滞在した。
当然のように三年間、一度も眠らぬまま研究を続けていた。
「おい」
【はい。いってらっしゃいませ】
夫婦かな? しゅるると七十九周目が開始。
年増√に入り説教部屋で得た成果をフィードバック。
まだ、完成には至らず。説教部屋にデータを持ち帰り研究再開。
そうして一周、二周、三周と周回を重ねて行き八十五周目。小さな変化が訪れた。
ある日の作業中のことだ。
(うぜぇ……)
モモが差し入れを届けにやって来た。
物だけ置いてさっさと帰れというのがルイの本音だが言えるはずもなし。
仕方なく(そうとは悟られぬよう)モモに対応していた。
すると、
「ルイくんは本気で完全な復元を目指してるんだねえ」
「そりゃね」
「安倍晴明もまさか、今の時代に自分に並ぼうとする者が出て来るとは思いもしまいよ」
初めての話題が飛び出した。
そっくりそのまま展開をなぞっているのにこんな話はしたことがない。
何か実績を解除したのかとルイは少しばかり注意を割く。
「それはどういう意味で?」
「純粋な驚きってことさ」
遺された資料を見るだけでも清明が隔絶した術者であったことは明白。
周囲もそのように彼を扱ったことは想像に難くない。
だからその背に追いつこうとする者が居るなんて思いもしなかっただろう。
「実際、今の時代でも清明の遺物がそのまま使われてることもままあるしね」
東京に張り巡らされた大結界。
江戸時代に南光坊天海が敷いたものだがこれは天海オリジナルではない。
京都で使われていた清明の大結界をそのままコピっただけのもの。
何なら江戸に合わせる段階で弄る必要があったから劣化しているぐらいだ。
「どうかな? 清明自身、心のどこかで並び立つ誰かを欲していたと思うけどね」
「え」
「それどころか自分を超えて欲しいとすらも」
千年先でも輝くその才が生み出した周囲との隔たり。
自覚の有無は分からないが深い孤独が根付いていたことは想像に難くない。
だから並び立ち、いずれは自分を超えてくれる誰かを求めていたのではないか。
スパダリらしく綺麗事を並べて行き〆に入る。
「言って欲しかったんじゃないかな」
「何て?」
と興味深そうにモモが問い、ルイはさらっと答える。
「――――君はひとりじゃないんだよ、ってさ」




