人の命を何だと思っている!?
「何で……何で!? だって、怪我はもう治って……!!」
立ち上がった際、ダメージはもう治癒していた。
なのに何故? 愕然とするハジメにルイは優しく語り掛ける。
「自業自得だ。アレを砕くにはこれぐらいしか方法がなかった」
ハジメの目が大きく見開かれた。
座学で習った覚えのある知識に引っ掛かったからだ。
「禁、術?」
体系を問わず重い代償を支払って発動する術の総称。
生贄を捧げたり己が身を削ったりするのが相場だという。
ルイが前者を選ぶはずもなく答えは、
「お、俺が……俺の、せい、で……」
顔面蒼白で震える幸男の顔を見てルイは思った。
(何て良い顔をするんだ君は……)
何で腐った性根なんだお前は……。
「違う……僕には分かる……あれは、君が望んだ結果じゃないだろう?」
誰かに無理矢理押し付けられたもの。
心と体を強制的に捻じ曲げられてしまった結果だ。
被害者である幸男に一体何の責任があるというのか。
「違う! だって、だって……お、俺が……俺がもっと強ければ……!!
ハジメを危険に晒すこともなかったし……お、お前が命を捨てることも」
止め処なく溢れる涙が地面を濡らす。
その雫の一つ一つがルイの幸福ゲージに変換されていることを幸男は知らない。
「選んだのは僕だよ」
「~~ッ何故だルイ!? 何で、なんで、俺なんかのために……ッ」
「……君とハジメさんに過去、何があったのかは知らない」
だが大きな負い目を抱いていることは察せられる。
ここでハジメの意思を捻じ曲げ彼女を連れ去ったらどうだ?
被害者であるハジメは当然として幸男もまた新たな罪を背負ってしまう。
「ここで僕が自分の命を惜しめ大切な友達が二人とも不幸になってしまう。
それ、は……僕にとっても何より、辛いことだ……もう二度と、目の前で……僕は……」
朦朧とする意識の中で過ぎ去りし時に思いを馳せる。
そんな風を装いながらルイは更にこう続けた。
「これは、僕のエゴだ。二人が気に病む必要はない……なんて言っても、無理だよね?」
だから呪いを残そう。
静かに笑いルイは幸男に語り掛ける。
「どれだけ泣いたって良い……けど、必ず、立ち上がって。
そして、今度こそ護るんだ。君が大切に想う誰かを。力が足りないなら僕のを、あげるからさ」
自身の胸元から全霊力を結晶化した光の玉を取り出し幸男の体に押し付ける。
埋め込まれた呪物とはまるで違う。
優しく染み渡るような温かさに幸男の顔が悲痛に歪む。
「僕のようには、なるな」
加速度的に失われていく視力。
それでもルイは決して見逃すまいと幸男の表情をしっかりと焼き付けた。
そして今度はハジメの方に顔を向ける。
「……ッ!」
一瞬、ハジメの顔に煮え滾るような嫉妬と苛立ちの感情が浮かんだ。
しかし、完全に視力を失ったルイは気付かない。
気付かぬまま、〆に入る。
「ハジメさん……ごめん、クリスマス……やくそく、まもれ……」
手を伸ばしながら絶命。
ルイの身柄が説教部屋へと転送される。
【お前がスパダリになれなかったせいで世界は滅びました。あーあ】
「あ^~ええもん見れたわぁ」
何時もの定型文に迎えられたルイはご満悦の表情でその場に寝転がる。
ペカペカと肌の艶が尋常ではなく良くなっている……害獣め。
【あ^~ええもん見れたわぁ――――じゃないんですが?】
「ンだよ……人が折角良い気分に浸ってるのに」
ぺっ! と銃弾レベルの勢いで吐き出された唾が画面に直撃。
罅一つ入らなかったが態度悪いとかそういうレベルではない。
【何で死んでるんです?】
「何でも何も見ての通りだ。壁にぶち当たって死ぬのは何時も通りだろ」
【いやいやいやいや誤魔化されませんからね?】
何を言ってるのコイツ? 顔のルイにブラウンは続ける。
【あの狭間氏……ダーク狭間氏、と呼称しましょうか】
「ダッサ。ってかあんなんウンコで良いだろウンコで。お前の友達だ」
と心底忌々し気に吐き捨てる。
どうやらあの解釈違いはかなり根深いようだ。
【友達ではありませんが。というか私は排泄物ではありませんが】
「あのさ、長くなるなら壁に話しかけてくれる?」
【クッ……!】
それでもめげないのがこのテレビ。
【(´-ω-`)スー…ハァ…】
と深呼吸の顔文字を表示してからこう切り出す。
【ダーク狭間氏を殺すことは出来たはずです】
「殺すことは、ね。つまりただ殺すだけでは結局ルートは閉ざされると」
コンスタントに察しの良さを発揮するのが無性に苛つく。
【……狭間氏に巣食っていた呪物の核のみを破壊するのは正しく神業です。
“あなたの知る”一ノ瀬氏にも出来るかどうか。しかし逆に言えばそれ以外は可能だ。
それこそ十年ほど寿命を捧げてやればあの場で殺害ないしは撃退は出来たはずです】
仮にどこかで行き止まりにぶち当たるとしても死ぬよりは良い。
何せ壁が何であるかを確認出来る可能性があるのだから。
だが死ねばそこまで。振り出しに戻るだけ。可能性はゼロになる。
【ハッキリ言います。あなたの行動は非合理の極みだ】
「はー……にしてもさっちゃんええ顔してはったわぁ……」
【……聞いてます?】
「あ、終わりはった?」
何で西の言葉になってんだ。
「じゃあ逆に聞くがお前はあの悍ましい状態のままさっちゃんを放置しろと?」
【いやだから】
「あり得ない。気持ち悪い。どんな生き方してたらそんな思考が身に着くわけ?」
何でちょっとした質問でここまで言われなきゃいけないわけ?
【……あなたにとって望ましい姿ではないのかもしれません】
言いたいことは山ほどある。
理不尽な罵倒に噛みついてやりたいとも。
だがそれは無駄に時間を長引かせるだけとブラウンはグッと我慢。
コイツはコイツで忍耐力を鍛える苦行でもしてんのか?
【ならば殺してしまえば良いではありませんか】
殺してしまえばもう二度と幸男には会えない。
だが今回のルートだって結局幸男とは死に別れたのだ。
どちらにせよ二人が二度と交わることはないのだから殺して先に進めば良い。
【狭間氏の曇った顔を見て死ぬよりよっぽど有益でしょう】
ブラウンの言葉にルイはキッ! と目尻を釣り上げ叫ぶ。
「簡単に殺すと言いやがって人の命を何だと思っている!?」
お前が言う?
「貴様のような奴は屑だ! 生きてちゃいけない奴なんだ!! 死んでしまえ!!!」
そこまで言う?




