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お前がスパダリになれなかったせいで世界が滅びました。あーあ  作者: カブキマン


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次回、発狂

 十二月二十四日、クリスマスイブ。

 放課後の校舎は聖夜と明日の終業式を前に浮ついた気分が漂っていた。

 ルイはそんな喧騒から一人距離を置き、図書室で考え事をしていた。


(……行き止まりが近いな)


 順風満帆。遮るものは何一つない。

 そのように思えてしまうぐらい何もかもが上手くいっている。

 だがルイは確信していた。近い内に道が途絶えてしまうと。

 長年の経験による勘に加え証拠も一つある。

 それは、


(古賀香澄。あの女だ)


 捕縛したのは十二月中旬で今は下旬。

 だがあれから古賀香澄は一度も目を覚ましていなかった。

 ルイがやり過ぎたというわけではない。むしろ優しく意識を刈り取ってやった。


(医者の見立てでは極度の精神的疲労に起因するものとのことらしいが……)


 常人では発狂して死ぬほどの精神的負荷に年単位で苛まれていた。

 張り詰めていた糸が切れたことでその反動が一気に押し寄せ心身共に衰弱。

 その結果、今も眠り姫になっているというのが医者の診断だ。

 しかし状況を物語として俯瞰的に捉えられるルイには別のものが見えていた。


(何かしらの条件を満たしていないからだ)


 だから目覚めない。

 そしてその条件を満たすイベントが近々、迫っているような気がしてならないのだ。


(あの女の実力、情報の重要性……)


 それらから推察するに難易度の高いイベントになるのは想像に難くない。

 先ず間違いなくそこで足止めされるだろう。

 それ自体は構わないというか、仕方のないことだとルイは割り切っていた。

 問題は、


(……もういい加減、修行じゃ頭打ちだぞ)


 戦闘力の向上だ。

 モモとの鍛錬ではこれ以上はもう伸びない。

 霊能力者としての成長が必要不可欠だが、一体何をすれば良いのか。


(前回の壁越えは一ノ瀬の奴を抱くという極大の自己犠牲だったが)


 極大の自己犠牲。

 年上とはいえとんでもない美人を抱いておいてこの言い草。


(あれ以上って何だ? 不特定多数の女を抱きまくれと?)


 男からすればご褒美やんけ! とツッコミたくなるだろう。

 だがルイにとっては違う。

 例えそれがアイドルや女優並の美女であっても罰ゲームでしかない。

 不特定多数の女に体を許す=自らの貞操の希少性が薄れるという思考ゆえだ。


 ――――やべえマジでキショイ。


(う゛考えるだけでインフルエンザ級の寒気が……)


 どんな生態してんだコイツ。


(よし、一先ず棚上げだ。あまりにも悍まし過ぎるしな)


 その思考が?


(お茶を濁すみたいでアレだが術を増やすか?)


 長く繰り返しに身を置いているがルイの覚えている術はそう多くはない。

 属する体系が違うだけで効果は他で代用可能なものなどは省いているからだ。

 無駄に手札を増やすより必要な分を覚え、練度を高める。

 その方針ゆえ手を出していなかったものにこれから手を出していこうか。

 そんなことを考えていると、


「ごめんお待たせ!」


 委員会で遅れていたハジメがようやっと姿を現す。


(僕を待たせるとか万死どころか不可説不可説転死だぞお前)


 普通知らねえよそんな数詞。

 なので解説を入れるとこれは仏教由来の数詞である。

 わりと聞く方の無量大数をなど足元にも及ばない。

 文字通り言葉や数字では表せられない単位だ。

 釈迦の悟りの功徳の広大さを表現するものなのだが……ホント仏教好きだなコイツ。


 ※尚、特に仏教徒というわけではない。


「大丈夫だよ。というかゆっくり来てもらっても良かったのに」

「いやぁ、そういうわけには」

「休憩はしなくて平気?」


 ハジメを待っていたのは任務があるからだ。

 ルイとしてはハジメのコンディションなどクソほど興味ないがスパダリ的に確認は必須だ。


「いける! むしろ今はさっさと体を動かしたいかな」

「OK。じゃあ行こうか」


 うんと頷き二人は学校を後にする。


「……やっぱ良いね。こういう空気」


 駅に向かう道すがら街の賑やかな雰囲気にあてられハジメが呟く。

 無視したいが今日という日に気の利いたことを言えないようではスパダリ失格。

 ルイも口元を軽く緩めながら呟きに同意する。


「うん。見てよほら、恋人かな? 本当に幸せそうだ」


 視線の先では 互いの名を呼び合いながらじゃれ合う男女。

 絡めた指先を見るに恋人同士だろう。


「……」

「九十九さん?」

「あ、うん。ごめんごめん。確かに良い雰囲気だよね」


 と、そこで何やらキョロキョロと視線を彷徨わせ始める。

 そして寒さとは別の理由で頬を染めながらハジメがこう切り出す。


「そ、そのさ。私らバディ組んでもう三ヵ月とかじゃない?」

「そうだね。本当にあっという間だ」

「うん。それで、さ。これからも一緒なのに何時までも苗字呼びは……他人行儀じゃない?」


 少し弱弱しいのは拒絶を恐れてか。

 まあいじましいその姿もルイの心にはまるで響かないのだが。


「言われてみれば。九十九さんが嫌じゃないなら名前で呼びたいかな」

「わ、私は全然! 全然大丈夫だから!」

「じゃあ、ハジメさん? うん、この方がしっくり来るね」

「……えと、私も、良い?」


 勿論、と笑顔を返す。


「る、ルイくん」

「はい。ルイくんです」

「な、何か恥ずかしいねこれ」

「フフ、確かに。でもそれも良いさ」


 この気恥ずかしさを楽しもう。

 互いの名前を自然と呼べるようになるその時まで。

 などと気障ったらたしいことを言えば、ハジメも嬉しそうに笑う。

 ほわほわとした空気のまま二人は駅に入り現地行の電車に乗り込んだ。

 向かった先はとある町の外れにある廃屋。

 住み着いた付喪神との交渉or討伐だ。


(……ったく面倒な)


 被害は報告されていないので話が通じそうなら交渉を。

 そうでなければ討伐をということだが仕事的には討伐のが圧倒的に楽だ。

 だが今回の付喪神は話が通じるも偏屈な性格の付喪神だった。

 交渉は難航し終わる頃にはすっかり夜も更けていた。


「これから夕飯は太るよねえ」

「ハジメさんは痩せてるし大丈夫じゃない?」

「いやいや、これで見えないとこは」


 駅に向かって夜の町を歩いていたその時だ。

 さしかかった坂の前で、突然風が止む。

 不穏な気配を感じ足を止めた二人が坂の上を見上げると、


「会いたかったぞハジメ」


 月をバックに少年が不気味な笑みを浮かべていた。


「だ、誰?」

「――――」


 困惑するハジメと大きく目を見開くルイ。

 呆然と呟かれたその名は、


「さっ……ちゃん?」


 愛憎の交叉路で彼らは再会を果たした。

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― 新着の感想 ―
ついに。ついに。ついに! 終に! 闇堕ちさっちゃんキター! 狼狽えるルイ君に、思い出せないハジメちゃん。 たまりませな。
あれ?もしかして悪堕ちさっちゃんに遭遇しちゃうとしばらく悪堕ち回避ルート構築の為ハジメちゃんまた放置されるのでは?ルイ君さっちゃん大好きだし
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