僕の勝ちだ
(――――コイツ来世どころか那由多の先の人生の幸運も使い切ったな)
自分の腕枕で穏やかな寝息を立てる恋人になった女を見つめての発言である。
一から十までルイの脚本通りに進みモモは無事陥落。
イタイケな年増は年下のピに夢中な恋愛脳に変えられてしまった。
(ともあれこれでコイツに報いてやるという目標は無事達成出来たわけだ)
ならばこれからのタスクについて整理しよう。
モモと付き合えたことで得られた恩恵をフルに活かしステを上げる。
より恩恵を得られるようモモの好感度を稼ぐこと。
上記と並行して今周のモモが謎に好感度が高い理由を調べる。
以前挙げたタスクは続行しつつ新たに一つ増やす――スパダリ予行練習だ。
(コイツをモルモットにして精々、学ばせてもらおうか)
弁解の余地など微塵もない最低の発言であった。
ともあれこうしてルイとモモのカレカノライフは始まったわけだ。
動機は最低だが付き合ってからのルイは正しく百点満点のピだった。
付き合って一月とか誕生日などのイベント対応は当然として恐るべきは“切り替え”。
『ね? 良いでしょ』
モモが甘えて欲しいと思っている時は甘え、
『おいで』
モモが甘えたいと思っている時は甘えさせる。
状況に応じたギアチェンジを一切外さなかった。
一時間前は逆だったのに今は違うみたいな状況にも完全対応。
結果、
『ル~イきゅん♪』
甘えたいモードの時はこんなになるほどモモはドハマり。
大大大大好きだよォ! とか素面で言えちゃうレベルだ。
そんなこんなで時は流れ聖夜。終わりの日がやって来た。
「良~天気だぁ」
朝。一ヵ月ぶりの我が家で目を覚ましたルイはカーテンを開け目を細める。
一ヵ月ぶりというのは殆どモモのマンションで同棲しているようなものだからだ。
今日一人なのはモモが突然の日帰り出張に行ってしまったから。
「気分が良いしちょっと真面目に世界の終わりを探ってみようかな」
調査しながらでもかなりの時間生存出来るだけの実力はついた。
まだまだ先のことだしと一旦放置していたことを調べてみるのも悪くない。
そう今日の予定を考えていたルイだったが、
「……チッ」
スマホの通知音に遮られる。モモからのメッセージだ。
今直ぐ会いたいから家に来て♥――どうやら帰って来たらしい。
完全に甘えん坊モードでルイは更に舌打ちを重ねる。邪魔すんじゃねえよと。
無視しようかとも思ったが、
「ああいや、奴を使えば調査が捗るか」
どうせ昼には終わりが始まるのだ。
モモを戦力として上手く使えばかなり良いところまで辿り着けるのではないか。
思いついたら即行動。直ぐに行くとメッセージを返し家を出る。
「……うん?」
合鍵で中に入ると同時に妙な違和感を覚える。
ルイはその場で清明装束を纏い臨戦態勢に入るとリビングへ突入。
「――――」
そこには壁にもたれかかって死んでいるモモの姿があった。
胸に穴が空き、口から血を垂れ流し、濁った目で虚空を見つめている死体。
ルイが知る中で世界の終わりに現れる怪物を除けば最強はモモだ。
あり得ないと頭が真っ白になる。だって現場の様子を見るに争った形跡がないのだ。
下手人が親しい人間だったから? あり得ない。そんな相手からの不意打ちでもモモは対処出来る。
つまり圧倒的な実力差で抵抗する間もなく殺したということ。
【お前がスパダリになれなかったせいで世界は滅びました。あーあ】
「は?」
我に返ったと思ったその瞬間、そこは何時もの説教部屋になっていた。
「ころ、された?」
世界が終わるまで猶予はあった。
しかしここに戻って来たということはモモの部屋で殺されたからに他ならない。
下手人は恐らくモモを殺害した者と同一だろう。
「ぼくが? この、僕が?」
理解が追いついた途端、
「ふぅううううざけやがってぇええええええええええええええええええええええええええ!!!!」
【うぉ、キレた】
「ブラァアアアアアアン! 早く僕を巻き戻せぇええええええええええええ!!!」
【何か健康食品みたいになっちゃってるじゃないですか。いえ私ブラウンでもありませんけど】
そこでブラウンは疑問を呈する。
【というか……え? まさかまた繰り返すんですか? あの時みたいに?
嘘でしょう? 一ノ瀬女史すら一方的に殺されたと思われるような相手に?
未だ一ノ瀬女史に傷をつけられていないあなたが? 冗談か何かではなくて?】
怒涛の疑問連発を、
「やぁかましゃあ! 僕が今回何をしたかもう忘れたのか!?」
【えぇっと?】
「年増に純潔を捧げたんだよォ!!」
だから何だよという言葉を寸前で飲み込んだブラウンは偉い。
「さながら前世の兎時代に飢えた老人のためその身を捧げた釈迦の如くだ!!
おぉ、何という自己犠牲と献身……僕は僕に涙が止まりません!!
そんな宇宙規模の自己犠牲を払った僕が訳も分からない相手に殺されるなんて……!
他の周ならともかく今回、世界を滅ぼす怪物以外にやられるなんてあり得んわ早くしろァ!!」
すごい、頭から尻尾までカスが詰まってる。
これはもう何を言っても無駄だと長い付き合いになってしまったブラウンは溜息の顔文字を表示。
【( ◞ ⌓ ◟)=3】
【はいはい。じゃあいってらっしゃい】
投げやり気味にルイを送り出す。
そうして始まった四十九周目。お得意の昆虫走法で問題の場面まで直行。
誰かに殺されることが分かっているなら相応の対処が出来る。
感知バリバリで部屋に乗り込み、
【お前がスパダリになれなかったせいで世界は滅びました。あーあ】
「次ィ!!」
顔も拝めず一乙してメモリアルな五十周目に突入。
修復する式神を朱雀から感知に長けたタイプに変更。
その他事前に用意した身代わりや感知に使える呪具、法具、魔具をフル装備。
そうして問題の場面まで行き、
【お前がスパダリになれなかったせいで世界は滅びました。あーあ】
「次ィ!!」
【お前がスパダリになれなかったせいで世界は滅びました。あーあ】
「次ィ!!」
【お前がスパダリになれなかったせいで世界は滅びました。あーあ】
「次ィ!!」
【お前がスパダリになれなかったせいで世界は滅びました。あーあ】
「次ィ!!」
五十一、二、三、四と周回を重ねて行く。
時には女誑しムーブで出張に着いて行きモモが殺される現場に立ち合おうともした。
だが無駄だった。恐らくは諸共に始末された。
「……まあ、これぐらいにしておいてやるか」
六十周目を完走したところでルイはフッと笑うと、
【おやおや負けてしまいましたね】
ブラウンがつい皮肉を飛ばしてしまう。
無理もない。五十五周目から六十周目までは試行錯誤もせず最初の焼き直しだったのだから。
十五年も無駄な時間に付き合わされたのだから皮肉の一つも言いたくなる。
「つくづく。嗚呼、つくづく凡愚」
それはブラウンにとって予想外のリアクションだった。
てっきり何時ものようにキレ散らかしハラスメントが始まるとばかり。
ルイは言う。
「――――僕の勝ちだ」
【――――何言ってるんです?】




