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お前がスパダリになれなかったせいで世界が滅びました。あーあ  作者: カブキマン


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あーあ

 年が明けあれやこれやしているとあっという間にその時はやって来た。

 バレンタイン当日。モモは一人ルイの通う学校の教室で彼を待っていた。

 時刻は21時過ぎ。人気のない時間に人払いもしてあるので邪魔者は誰も来ない。


(ここであの子は日々、勉学に勤しんでいるのか)


 ルイの座席に腰掛け頬杖を突く。

 窓際の一番後ろという中々良い立地。


(不真面目な学生ならラッキーと思うだろうけどあの子は……違うよね)


 几帳面な字でノートを取っているのがありありと想像出来る。

 その光景を頭に思い描き、おかしくなり笑ってしまう。


「はぁ。ほんっと、我が事ながらどうかしてる」


 まだ出会って半年も経っていない。

 なのに気付けばルイのことばかり考えている。ルイのことを考えているだけで胸が温かくなる。

 これが恋をするということなのだろう。これが愛を知るということなのだろう。


「我が身の不明を恥じるばかりだよ」


 伴侶を求めてはいた。だがそれは愛から導かれたものではない。

 そうする必要があったから能力値で選別していたのだ。

 それで良いと思っていた。重要なのは子を成すこと、次に繋げることだから。

 だが愛を知ったことでそれが大きな誤りであることを痛感した。

 愛なくして未来などありはしないのだ。


「……来たか」


 静まり返った校舎だから廊下から聞こえる足音もよく響いた。


(普段ならば特に意識せずとも校門付近ぐらいまでで気付くのにね)


 どうやらよほどに緊張しているらしいと苦笑が漏れる。


「やあ、こんばんは」

「こんばんは」


 教室に入って来たルイに片手を上げ陽気に挨拶をする。

 だが彼の表情は硬い。

 そりゃそうだ。こんな時間にこんな場所に呼び出された。

 何かあると勘繰ってしまうのが普通だろう。

 だからというわけではないが。モモは心の準備も兼ねてまずは他愛のないお喋りから入ることにした。


「もし、私と君が同い年の男女だったらどうなっていただろうね?」

「は?」


 もしものお話は雑談の定番だろう。

 人間は何時だってもしもに夢を見る。

 実際に良いものかなんて分からないのに希望を見出してしまう。


「私はね。二つに一つだと思うんだ」

「……というと?」

「クラスが一緒にならなかったら多分一度も交わることなく終わる」


 対人能力が低いわけではないがルイは基本的に受け身だ。

 他人に積極的に絡みに行くタイプではないから自分とは関わらないだろう。


「私からもそう。本来は積極的に人と関わるタイプじゃないんだ」


 だから互いの人生に干渉することなく道は分かたれる。

 でも一度でも同じクラスになることがあったなら話は別だ。


「だって嫌でも視界に入るからね」


 モモは人と交流の輪を持つことを好みはしないが人はよく見ている。

 同じ生活圏に居る人間なら好悪問わず自然と観察してしまう。癖のようなものだ。


「そしていずれ私の方から話しかけに行く」


 ただ遠巻きに見ているだけでは分からないものを知るために。

 当然、ルイはそれを無下にするような人間ではない。

 彼らしく彼のまま自分と接してくれるだろう。


「そうして少しずつ距離を近づけていく中で心境にも変化が訪れる」

「変化?」

「ああ。我慢が出来なくなったんだ」


 最初はただの好奇心。知人でも友人でも問題なかった。

 だけどそれだけでは物足りなくなってしまう。


「やがて自分の心に歯止めが利かなくなって」


 机の中に仕舞っていたそれを取り出し立ち上がる。

 少し離れた場所で佇んでいるルイの下まで歩み寄り、


「こんな風に想いを告げるんだ」


 思いの丈を差し出し言葉を紡ぐ。


「好きだよルイくん。君を愛してる」


 生まれて初めて伝えた愛の言葉はあまりにも拙かった。

 情けなくて涙が出そうになるけれど目は逸らさない。


「――――」


 ルイは大きく目を見開き固まってしまった。

 あるのは純粋な驚きだけで否定の感情も肯定の感情も読み取れない。

 しばしの沈黙が続く。目を逸らさないと心で決めたのに不安が胸を苛む。

 耐えられなくなったモモは努めて内心を悟られぬように口を開く。


「まあ私のような年増にいきなりこんなことを言われても困るだろう」


 だから今日のところはこれで。

 そう告げ足早に去ろうとするが、


「ぁ」


 背を向けたモモの手をルイが掴む。


「えと、その」


 何と言えば良いか分からず口ごもるモモにルイは静かに語り掛ける。


「……自分のことほど、分からないものだね」


 そう呟く彼の言葉には自嘲が滲んでいた。


「僕さ、自分で言うのも何だけど同年代の子より随分と自立してると思うんだ」


 だろうね、とモモは内心で呟く。

 幼くして両親を亡くし預けられた親戚の家でもあまり良い扱いではなかったらしい。

 一人で離れに住んで一人で家事をしていれば嫌でも自立するだろう。


「なるべく人に迷惑をかけないように。自分のことは自分で。

最初は意識しながら、次第に無意識の内にそれを指針に行動するようになっていた」


 視線が交わらぬまま背中越しの独白は続く。


「なのに、どうしてかな。あなたが相手だと気が緩んで甘えてしまう。

母とは似ても似つかないし……姉か何かのように思ってしまってるのかもとも考えた」


 けどそれもやっぱり違う気がする。

 結局よく分からないまま棚上げにしていたのだという。


「他にも分からないことはある。少し前から感じてたあなたへの不満だ」

「……不満?」

「うん。誰の手を借りることもなく一人で何でもやれてしまうのが不満だった」


 それは本来、素晴らしいことだ。

 なのに不満を感じるなんて見当違いも良いところ。


「嫉妬しているのかと思ってた。何でも出来るあなたに」


 けどやっぱり違う気がする。

 結局よく分からないままこれも棚上げにしていたのだという。


「でも、想いを告げられようやく分かった」


 小さく深呼吸をしてルイは言う。


「気が緩むのは何も取り繕っていない僕を見て欲しいから。

不満を抱いたのは僕があなたにとって必要な人間では無いと言われているような気がしたから」


 それはつまり、


「僕はモモさんが好きなんだ」


 反射的に振り返り何かを言おうとして、


「!?」


 唇で言葉を遮られた。

 こじ開けるように入り込んで来た舌が自分のそれに絡みつく。

 普段のルイからは信じられないほど荒々しく、そして情熱的なだった。


「ぷはっ」


 長い長いキス。

 呼吸なんて十分でも二十分で止めていられるはずなのに体が酸素を求めていた。


「……随分と、積極的じゃあないか……いや、違う。そうじゃない。そんなことを言いたいわけじゃ」


 何時もの軽薄な言葉が口をついて出てしまう。

 本当に伝えたいことはそうじゃないのに。

 焦りと自己嫌悪に苛まれかけるが、


「大丈夫。分かってる」

「ぁ」


 ネガティブな感情は微笑み一つで全て吹き飛んでしまった。

 そしてルイはこう告げる。


「ごめん。僕、もう我慢出来そうにない」

「……うん、私も同じ気持ちだ」


 お互いに不器用なんだろう。

 だから生まれて初めて抱いた感情の制御がまるで出来ていない。

 幼い子供のようにただただ求めてしまっている。

 何て情けない。何て恥ずかしい。でもそれで良い。


(だって私、今人生で一番幸せなんだもん)


 その日、二人は結ばれた。

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― 新着の感想 ―
ヒロインとの遭遇で手に入った刀、やっぱり何か重要な武器というわけではなさそうw
タイトルまんま過ぎるw モモさんから見れば完璧なスパダリだし仕方ない。 ルイ君は経験ないと言っていたけど、ベッドヤクザの素質もありそうです。
成人女性が未成年を学校の教室でっ!? 逮捕されるのでは?お姉ちゃんの前に長く立ち塞がった条例さんも国家権力の前では無力なのか(笑)
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