阿吽
「参ったねどうも」
十二月二十四日クリスマスイヴ。
その日、モモは特対が誇る異常戦力の一人として太平洋上で大規模海戦に参加していた。
敵は付喪神の戦艦に兵士の亡霊、妖怪、悪魔、人間等々バラエティ豊かな悪党連合だ。
「世に盗人の種は尽きまじとはよく言ったものだ」
蜘蛛のように謀略の糸を巡らせ何もかも思い通りに進めていると時折勘違いしそうになる。
自分が世界の中心であるかのように。だが現実は違う。
あそこで暴れているのは自らの謀とはまったく関係のない悪党なのだから。
「何サボってるの。九課だけ働いてないって叱られるよ」
拠点になっている護衛艦のマストに立ちぼやいているとルイがやって来た。
作戦参加者の中では最年少だがその実力に疑いはない。
異常戦力である各課の長を除けばトップ3には入るだろう。
だからこそモモも九課から派遣する戦力として連れて来たのだ。
「サボりとは人聞きの悪い。マラソン序盤でいきなり全力疾走する者が居るかね?」
夜はまだまだ始まったばかり。
まずは様子見で徐々にギアを上げていくのだと笑いかける。
「全力で走り切れるならそうするべきだと思うけどね」
暗にお前ならやれるだろうと言っているのだ。
ルイの指摘にさてどうだかと肩を竦め、それよりとモモは別の話題を振った。
「この短期間でよくぞここまでモノにしているじゃあないか」
ルイはマストを上って来たわけではなく空を飛んで来た。
彼なら術で足場を作ることも出来るがそうじゃない。
真紅の美しい巨鳥を足にしてやって来たのだ。
その鳥の名は朱雀。伝説に名高き安倍晴明が式、十二天将の一角である。
「くれたのはあなただろうに」
と呆れたように言う。
「絵と筆を渡しただけで完成した絵画を自分があげたことにはならないだろう?」
確かに渡しはしたがそれはあくまで特対に保管されている核だけだ。
許可も出しはしたが復元改修出来るかどうかは術者の腕次第。
往時のそれより大きく劣化しているとはいえ、そもそも劣化品に仕上げることすら容易ではない。
十代後半の子供が見せた成果としては最上だろう。
「流石は“清明の再来”と噂される若き俊英だ。師として鼻が高いよ私は」
「……やめてくれ」
と嫌そうな顔をするルイを見てモモがケラケラと笑う。
事の始まりは十二月頭に行われた課同士の交流戦。
そこで実力を見せつけたルイに観戦していた他の課の長がこう言ったのだ。
『一ノ瀬さん以外で清明装束を纏えただけはある。これは安倍晴明の再来なんじゃないか?』
その流れで彼ならもしやと特対が保管している遺物の利用も提言された。
そして見事、ルイは周囲の期待に応えて朱雀を復元してのけたというわけだ。
「この分だと他の五つも復元出来るんじゃないか?」
「いや当面そのつもりはないよ。まずは一つを完璧に、だ」
「そうか。ま、好きにすると良い」
じゃあそういうわけでと話を打ち切ろうとするが、
「いや働け」
「やれやれ」
見逃してはくれなかった。
溜息を一つ吐いてモモは地を蹴り朱雀に飛び乗る。
「可愛い弟子の援護ぐらいはしてあげよう」
「……まあ、今はそれで良いよ」
不満を飲み込むとルイは朱雀に命じ異常戦力の居ない戦艦に突撃した。
上空から甲板に降り立つや大声で叫ぶ。
「ここは僕が受け持つ!!」
「了解した! 後を頼む!!」
この戦いに参加出来ているだけあって異常戦力以外も皆、優秀な者ばかり。
変なプライドが足を引っ張ることもなく的確な状況判断を下し戦艦を飛び出して行った。
全員が退艦したのを確認するとルイは防戦から攻勢へと転じ果敢に暴れ出す。
術、徒手空拳、時には敵の武器を奪い立ち回る。
ルイは紛れもない強者だが敵もさる者。単独では及ばずとも数の利で応戦。
(あのクラスの集団を一蹴出来るほどの実力はまだないけど……まあまだ大丈夫かな?)
危なくなったらちょこちょこ手を出すがまだまだ。
押されてはいるがルイの実力を考えれば限界は遠い。
朱雀に寝そべり観戦と洒落込むモモだったが、
「うん?」
少しするとふと小さな違和感を覚えた。
一瞬たりとも足を止めず甲板を縦横無尽に駆け続ける姿が何か引っ掛かる。
「……これは」
苦笑が漏れた。どうやら師の怠惰を弟子は許してくれないらしい。
気付かなければ間抜け。気付いても動かないなら愚か者になる。
異常戦力とやり合える敵が存在しない今が絶好の機なのだから。
「まったく……師匠使いの荒い弟子だね君は」
愚痴りつつもその顔は楽し気だ。
モモは装いをルイに合わせて狩衣に変えると正体が悟られぬよう自らに偽装を施した。
敵側の実力者が気付かれてしまえば弟子の仕込みが無駄になってしまうからだ。
「君に合わせるよ」
準備を終え足を止めたルイの隣に降り立つとモモは手短に告げた。
「了解」
背中合わせになり小さく息を吐き、二人は同時に駆け出す。
そして敵の攻勢に応戦する風を装いながらそれぞれの舞を始める。
(よくもまあ、修羅場でこんなことを思いつくものだ)
ルイは甲板を駆けずり回りながら陣を刻んでいた。
この艦を邪気祓いの舞に使う即興のステージに仕立て上げるためだ。
それでも単独なら成功しても精々がこの艦を無力化する程度に留まっていただろう。
(だがそこに私が加われば話は大きく変わってくる)
陽の男と対になる陰の女が加わることで儀式はより完璧に。
あまつさえその女はとんでもない実力者と来た。
調和が取れるようルイに力を合わせたとしてもルイ自身が並外れた強者。
そんな二人が完全に息を合わせて舞ったのなら効果は倍どころか何十倍にも跳ね上がる。
結果どうなるか。
「!? しまっ――――」
「「もう遅い」」
甲板の怪異は軒並み消滅し土台の戦艦付喪神は正しく祀られ善なる存在に塗り替えられた。
だがそれらは副次効果でしかない。
メインは戦艦サイズの聖域が戦場のど真ん中に形成されたこと。
邪気を持つ者に対する広域デバフフィールドが発生したと考えれば分かり易いか。
「面倒なものを……だが破壊してしまえば!!」
「おぉっと、させるわけないでしょ?」
ここで敵方の最高戦力たちも動き出すが各課の長がそれを阻む。
拮抗していた戦況はルイの一手により特対有利へと傾き始めた。
「疲れたろルーキー!? 少しばかり休んでな!!」
「ええ。若人がここまで魅せてくれたのですから次は我々が応えねば」
「清明の再来ってのも強ち間違いじゃないかもね! カッコいいよルイちゃん♪」
「一ノ瀬女史もとんだ子を見つけて来たもんだ」
課長を始め戦場のあちこちから届く賞賛の声。
少し照れながら真面目に対応するルイの後ろでは、
「フフン♪」
モモが後方彼女面をしていた。




