遅れて来た青春、その裏側
(我が事ながら恐ろしい智謀だ。世が世なら将として万の大軍を縦横自在に率いていただろう)
戦乱の時代と世界の滅びが確定されている現代。
はたしてどちらがマシなのか。未来があるだけ前者のがマシ?
(いや僕ほどの男が将程度で収まるわけないね。天下人内定コースだもん)
誰が出すんだその内定、というのは置いといてだ。
脚本について語る前に前提を幾つか、提示しておこう。
尚、ステータス向上については継続してのタスクなのでここでは省く。
以下がその前提である。
一つ、ルイは周回において幸男のように本命以外の楽しみも幾つか確保していること。
二つ、より恩恵を得られるようモモの好感度を稼ぐこと。
三つ、上記と並行して今周のモモが謎に好感度が高い理由を調べること。
モモの好感度を上げれば仮面を外し易くなるので二、三は複合している部分もあると言えよう。
今回学園祭にモモを誘ったのは二、三が理由だ。
だが普通にエスコートするだけでは大きな成果は狙えない。
そこでまずルイがやったのは、
『……書き換えるか自由研究』
自由研究の改変だ。
本来のテーマは別にあったがそれは使えないと判断した。
『何に書き換えるか。年齢差のある恋愛について、は少々あざと過ぎるか?
いやそこは内容で調整すれば良いか。シビアなことを書きつつ結論は甘く。
甘さは一匙、変に飾らず簡潔な文章でまとめれば刺さりそうな気がする。
まあそこまで凝らなくてもアイツ馬鹿だし普通に刺さる可能性もあるけどね』
という思考の下、自由研究を改変。
その上で書き換える前の自由研究を知る全員の記憶を弄った。
いや冗談でも何でもなくたかだか五分、十分のために他人の記憶を弄ったのだ。
一切の逡巡はなかった――――人の心とかないんか?
『あとは演劇も使えるかな?』
この演劇については元からあるものを利用した形だ。
一つ目の前提を思い出して欲しい。
自己顕示欲を満たすためにはお芝居で主役を張るなんて打ってつけじゃないか。
ゆえにルイは数少ない交友関係に演劇部関係者を以前から抜擢していたのだ。
『台本も弄る必要はないしこれは楽だね。ヒロインをどかすだけで済むし』
はい。お察しの通り急な体調不良はルイの仕業です。
自分の目的のため罪もない女の子を体調不良にして晴れの舞台から追いやったのだ。
モモはルイが日常で異能を使うのを好まないとか思ってたがとんだ見当違い。
自分のためなら平然と一般人にも異能を行使するのがこの男である。
これがスパダリの姿か?
『丁度昼休み、食事時に僕に相談が来るよう誘導しておかないとな』
電話がかかって来る時間帯も完全な仕込み。
ほどほどに場が温まっている頃を見計らったのだ。
『あとは〆だね。浮かれているあの女を更に刺すためにもう一手』
後夜祭のダンスを使うのは決定事項。問題はそのシチュエーションだ。
どのような状況を整えればモモの臓腑を抉れるのか。
『喧噪が少し遠くに思える静かな場所が良い。裏庭、無人の教室……』
それらも悪くないがここはやはり屋上。空が近い場所の方が絵になる。
『温かな営みを見下ろしながら少しの寂しさと共に去り行く今日について語り合う。
楽しい時間は終わる。でもあと少し、ほんの少しだけ。誘いに多くの言葉は要らない。
手を差し出すぐらいが丁度良いだろう。うん、よし。それで行こう』
とまあ、これが今日一日の真実。
甘い時間の裏には冷徹な計算が張り巡らされていたというわけだ。
(それにしても……)
改めて今日一日を振り返りルイは思った。
間違いなく目論見は大成功。手応えは確実にあった。
だがそれはそれとして些か驚いてもいる。
(幾ら僕がハンニバルや孔明と肩を並べる稀代の策士とは言えこうも上手くいくとはね)
この男はどれだけ謝罪相手を増やせば気が済むのか。
(……思えば僕は少しばかり頑なだったのかもしれない)
え!?
(色々と気に食わない部分があるのは事実だけどアレで可愛いところはある)
おいおいおい。
そろそろ五十にさしかかろうという繰り返しの中、心境の変化が訪れていた。
(役に立つ道具もくれるし、指導も真面目にやってる。美点が皆無というわけじゃない)
自分より強い。進行の邪魔。モモに対しての好感度はド底辺だった。
しかし、しかしだ。ハジメルートから続く師弟関係。上司としての振る舞い。
今回の周回では清明装束という金銭価値の高いプレゼントまで。
そして今日、絵図を描いたルイでさえ驚くほどのチョロさを見せつけられた。
(少しばかり報いてやっても良いのかもしれないね)
まあどれだけ見方が変わろうとあくまで上からというのは変わらないのだが。
「ふむ」
報いてやっても良い。
そう思いはしたが具体的にどういう形にするのかが思いつかないとルイは頭を悩ませる。
(僕という存在に一時関われるだけでも生涯の宝ではあるんだが)
そのお宝鑑定しても価値なしだよ。
(僕は地球みたいなものだからなあ)
何て?
自認釈迦に加えて自認地球とかどうなってんだその思考回路。
(広大な宇宙の中で地球という恵まれた環境で生きられる。
これがどれだけの奇跡でありがたいことなのかを日々実感してる奴は居ないだろう。
それはこの僕も例外ではない。まあ僕の場合は地球に感謝される側ってだけの話だが)
地球に感謝される? ちょっと何を言っているのか分からないと思うので解説を入れよう。
地球は神央累という存在が地球に生まれてくれたことを感謝すべきと言っているのだ。
(奴程度の知能では僕のありがたさにも気付けまい。もっと分かり易い形じゃないと)
しばらく考え込み、ようやくルイは結論を出す。
(よし、今回は寂しい年増の恋人になってあげようじゃないか。
功績と報酬が月とすっぽんレベルで釣り合ってないけど絶命大サービスってことで)
出血大サービスの最上級か何かっすかね?
(僕としても本命の練習台になるから丸っきり損にはならないだろう。
まあ十億払って一円返って来るようなものだけどここは僕が大人になるとしよう)
大人……大人とは……。
(そうと決まればどう持っていくかな。あちらから告白させるとして)
世界が滅ぶまで一年ほど。やると決めたからにはなるべく早くまとめたい。
クリスマスが分かり易いけど時間が無さ過ぎる。
(こちらから告白するなら問題ないけどあちらから告白させるには時間が足りない)
告白するならクリスマスでもいけるという読み。
普通ならとんだ自惚れと鼻で笑われるがルイは違う。
今回の脚本を見れば実際にやれてしまうだろう。
(となるとバレンタインだな。よし、あそこで告白させてやるか)
そう結論付けルイはフッ、と小さく笑う。
(期間限定だが僕というスパダリを得られる幸福を噛み締めるが良いさ)
スパダリはそんなこと言わない(断言)。




