迫る毒牙
予約時間間違えてました申し訳ない<m(__)m>
「おやもうこんな時間」
時刻は午後八時半。
本来の予定では今日はあくまでルイがどれほどのものかを確かめるだけだった。
しかし清明装束の試運転を終えたところで、
『折角だ。このまま本格的な指導といこうじゃないか。私も急ぎの仕事があるわけじゃないしね』
と何故か乗り気のモモに押し切られて気付けばこんな時間。
座学の時間も多かったので肉体的な疲労はそこまでではないが気分は最悪。
だって、
(――――クソ! クリーニング屋閉まっちゃっただろうが!!)
これぐらいの時間でも受け付けているところはある。
だがルイは近所にある良心的なお値段のクリーニング屋に行きたかったのだ。
というかオカルトな衣類を一般のクリーニング屋に預けるってどうなんだろう。
「つい指導に熱が入ってしまった。申し訳ない」
「お気になさらず。僕にとっても得難い時間だったので」
「フフ、優しいねえ。とは言えそれでは私の気が済まない」
さっさと帰ろうとするルイを引き止めたのは、
「一緒に食事でもどうだい? ご馳走するよ」
伝家の宝刀タダ飯。
これを抜かれてしまえばルイに抗う術はない。
遠慮する姿勢を見せつつもモモに押し切られるという形を作り誘いを受け入れた。
おめえは何回タダ飯に釣られるんだ。
(コイツはカスだけど気前の良さは唯一の美点だね)
助手席で夜景を眺めながらルイはそんなことを考えていた。
ブラウンも飯を奢ることが出来れば反省文を回避出来たろうに……惨いことだ。
「さ、好きなものを頼むと良い」
連れて来られたのは個室中華。
ドレスコードが定められているほどではないが中々お高そうな店でルイの機嫌は急上昇。
ただそれはそれとして疑問があった。
(……前回と同じルートを進んだのに前回より好感度高いの何でだ?)
清明装束を贈られたりと何がモモの琴線に触れたのか。
修行はしていたので戦闘力のステータスは上がっているがそれでも微増程度。
式神で戦術の幅は広がったがモモからすれば誤差だろう。
(ハジメと関わるルートでも役に立ちそうだし今回はそこらを探っていこうか)
そう方針を定めたところで思い出す。近々使えそうなイベントがあったなと。
(ならその布石も今から打っておくか)
ルイは注文を終えるとモモにこう切り出した。
「ところでモモさんはどうして特対に?」
「どうしたんだい急に?」
「急にも何も僕が言ったことをもう忘れたの?」
「……ああ、そう言えばそうだったね」
あなたを知りたい。それが九課入りを受け入れた理由の一つだ。
昨日の食事とは違い今回は本当にただの私的な交流。
ならばこういう話をしても良いだろうと言われモモもその通りだと頷く。
「ただそう面白い話でもないよ」
そう前置きし語り始めるが、
(――――嘘だな)
ルイは即座に虚偽を看破した。判断基準は仮面の有無と被り方だ。
普段の胡散臭いモモと好意を滲ませている時のモモはルイから見て露骨に印象が違う。
今のモモは前者。だがそれだけでは虚偽かどうかまでは分からない。
そこで重要になるのが仮面の被り方だ。
好意を示す時以外でも素の顔がちらつくことはある。
その際の仮面の戻し方と好意を示している状態から再度仮面をつける時では微妙に違いがある。
(そんなに後ろめたいものなのかね。僕には理解出来ないや)
好意の程度としては恋愛感情とまではいかないだろう。ちょっと良いなぐらい。
だがそのぐらいの相手でも好きな相手に嘘を吐くという行為自体が後ろめたいのだろう。
好意を示している状態から仮面をつける時はその後ろめたさが香るのだ。
「とまあそんな感じだ。面白くなかったろう?」
「面白いかどうかはさておき、あなたのことを知れたのは嬉しいよ」
見極めるとか抜きにしても誰かを知り距離が縮まるのは喜ばしいことだから。
ルイがそんな綺麗事を抜かせばモモは少し嬉しそうに笑った。
(よしよし。また一つ明確な嘘を収集出来たな)
今の段階で真実を直接、見抜くのは難しい。
だが嘘を並べて真実を少しずつ浮き彫りにしていくことは出来る。
迂遠なやり方だが幸いにしてルイには腐るほど時間があるので問題はない。
こういう地道な積み重ねを出来るのはやはり強い武器だ。
「さて。私ばかりというのも不公平だ。次は君が一つ、私に君を教えておくれよ」
「良いよ。答えられることなら話そうじゃないか」
「フフ、言ったね? なら問おう。ずばり好みの女性のタイプは何かな?」
「年上」
「――――」
即座に投げ返された答えにモモが面喰う。ルイの狙い通りだ。
好みの、あたりでルイはこれをチャンスと捉えた。
モモとしてはからかうつもりで投げた問いだろう。ゆえにそれが隙になると。
(いよし成功)
ちょっと良いなと思ってる相手から年上が好みですと間髪入れずに答えられたらどう思う?
自分のことでないと分かっていても少しはドキっとしてしまうのが人情だろう。
通るかどうかは75%ぐらい。SLGとかなら微妙に信頼出来ない数値だ。
しかし失敗したとて何の損もないのだからやり得である。現にルイは目論見を達成した。
「おやおや、口説かれてるのかな?」
「自意識過剰?」
「酷いねえ。ま、それはさておき何故年上が?」
「一つじゃなかったの?」
「これは同じ話題だし包含されてるだろ。ノーカンだよ」
「まあ良いけど」
年上好きというのは嘘で理由などないが問題なし。
数秒の遅延会話を挟むことで既に嘘の理由は組み上がっていた。
「僕、わりと甘えたいし甘やかしたいタイプなんだよね」
「ほう、それで何故年上に?」
甘えたいなら年上は分かる。だが甘やかしたいのに年上?
モモの疑問は尤もだろう。
「僕、わりと駄目な感じの甘やかし方をしそうでさ。友達ならまあ大丈夫だと思う。
壁をキッチリ守れるけど恋人ぐらい親しい関係だとそこら辺が心配なんだよ。
でも甘えさせてくれるぐらいしっかりした年上の人ならそこらの心配も要らないでしょ?」
ずるずると引き摺られることなく踏み止まってくれる。
だから年上が良いのだという答えにモモはなるほどと頷く。
「確かに面倒見良さそうだもんね君。出来の悪い子ほど熱心に世話を焼きそうだ」
「……そんな風に見える?」
「見える」
「初めて言われたよ」
まあ、間違いではない。
動機はゴミだが出来の悪い子を可愛がった結果がこのルートなのだから。
「しかしそうか。恋人になればしっかりした君がデレデレしているところを見られるわけだ」
「口説かれてる?」
「さてどうだろう。フフフ」
そうして(表面上は)楽しいディナーを漫喫する二人なのであった。




