年増√開始
「縁があればまた会おう」
「うん、いつかまた」
四十八周目。
前回と同じく幸男を見送ったルイだがその目に涙はなかった。
(そう、また会える。何度でも何度でも)
繰り返しが苦にならない精神構造をしているが同時に損得勘定を優先するのがルイだ。
幸男と出会う以外の利益がないルートは旨味がないので繰り返すか迷ってしまう。
だがこのルートでもモモと師弟関係を結べることが判明した以上、躊躇する理由はなくなった。
(思う存分、愉しもうじゃないか)
そして前回の流れを完全にトレースして無事、モモと師弟関係を構築。
前回は師弟関係を構築した後は様子見に徹していた。
この周回で何が起きるかの把握に努めるためだ。
それも終わったので今回からは鍛錬にも精を出すつもりだった。
「フフ、いやはや何だか照れるね。弟子を取るなんて経験初めてだからどうにもくすぐったい」
「……」
そんなこんなで指導初日。
土曜ということもあり昼過ぎからルイは九課の訓練施設でモモと向き合っていた。
「どうかしたのかい?」
「いや仕事が早いな、と」
アパートで話し合った翌日にはもう手続きは済ませていた。
恐らくルイの家を出た後、徹夜で諸々の処理を終わらせたのだろう。
(前回も思ったが九十九を介した出会いより好感度が高いな)
九課職員であることよりハジメを優先するスタンスを示していたからだろう。
このルートだとそれがないから好感度が高いのかもしれない。
不都合はないし精々利用してやろうというのがルイの考えだ。
「言っただろ? うちは万年人手不足だって。昨今の情勢を考えると特に、さ」
「昨今の情勢?」
「器物解放戦線という組織を知っているかな?」
「いや知らないな」
「人と付喪神の共生を掲げるカルト染みた組織さ」
ルイは目を白黒させているがこれまでの周回でその組織の名は知っていた。
(器物解放戦線……あからさまな組織なんだけどなあ)
ハジメとの出会いを経て裏に入ったルートでもルイはその名を聞いている。
だが如何にもな感じなのについぞ深く関わることはなく周回を終えていた。
ステータスが足りないということなのだろう。
「嘆かわしいことだ。者になった物との共生なぞ出来るわけがなかろうに」
共生と言えば聞こえは良い。
だが先ほどカルトと称したように器物解放戦線には問題がある。
「無害な付喪神を保護し営みに紛れさせるぐらいならまあ出来なくはない。
だが付喪神の存在を周知させ、その上で人と同等の権利を与えろというのはね」
その問題というのがこれだ。
付喪神の存在を衆目に明かすということはオカルト全般の実在を明かすということ。
この時点で社会の混乱は必至なのに権利も与えろと来た。
当たり前の話だが付喪神は普通の人間より強く、その上寿命も存在しない。
一般人が付喪神に勝る点は子孫を増やせるということぐらいだ。
そんな付喪神に権利を与えてしまえば種族間の衝突は必至。
「結果争いが起きても人が生み出したのだから自業自得とか馬鹿の発想だろ」
言葉は辛辣だが社会秩序を影から支える人間としては致し方なかろう。
「まあそういう連中がここ最近、どうにも元気が良くて困ってるのさ」
「使える駒が欲しいから僕の九課入りを急がせたってわけか」
「そ。パッと見でも私を除けばうちの誰よりも強そうだしねえ」
と、そこでモモがパチンと扇子を閉じた。
「というわけで、だ。師匠としても上司としても正確な実力を把握したいわけだが」
「分かった。全力でぶつからせてもらうよ」
「話が早くて結構。さ、どこからでもかかっておいで」
「では遠慮なく」
前回と違い今回は幸男の指導と並行して自らの鍛錬も行っていた。
修行の中で新たに身に着けた技術を試す良い機会だとルイは指で虚空をなぞる。
「……清明桔梗」
ぽつりとモモが呟く。浮かび上がったのは五芒星の陣。
ルイが陣の中央に首から提げていた指輪を放り込むと指輪は二体の人型に変貌した。
狩衣風の装束を纏った能面の男女二人。男は太刀を、女は弓を構えている。
「ハッハ、よりにもよって私の前でモドキを使うかね」
ルイが陰陽術で生み出したのは付喪神モドキの式だ。
「親の愛ほど恐ろしいものはない。名はさしずめ“父と母”と言ったところかな?」
流石と言うべきかモモは式神の成立背景も一目で看破していた。
指輪は恐らく父母の形見か何かなのだろう。
そこに染みついた我が子への愛情を核とし不足分をルイが霊力で補った結果だと。
「中々どうして初手から愉しませてくれる」
母の式が矢を放つと一本の矢は無数に分かたれモモへと殺到。
同時に駆け出していたルイと父の式。二人には矢が当たらず勝手に逸れて行く。
誤射を気にしなくても良いというのはかなりのアドバンテージだろう。
「ハッハ! やぁるじゃないかルイくん!!」
ルイとその式は正しく阿吽の呼吸で攻め立てるが何一つ届かない。
かつてのようにその場から一歩も動かぬままというわけではない。
だが移動に使う足を除けば使っているのは扇子を持っている片手だけ。
ただそれだけで嵐の如き攻勢を捌き切っている。
そんな状態でやるじゃないかと言われても嫌味にしか思えない。
「おっと」
父の式がモモの顔面目掛け太刀を投擲。
だが軽く首を傾けるようにしてあっさり回避。だがそれも織り込み済みだった。
背後に回っていたルイが太刀をキャッチし返す刀で首筋に一閃。
「これも防ぐか……!!」
が、扇子を間に挟み込まれて受け止められてしまう。
ルイは全力で殺しにかかっているのにモモは遊び気分のまま。
両者の絶対的な差が残酷なまでに表れている。
これに掠り傷を負わせるためには一体どれだけの時を要するのか。
(なぁああっめやがってぇええええええええええええええええええええええ!!!!)
普通なら心が折れてしまうところで折れないのはある意味、美徳なのかもしれない。
燃え滾る憎悪は天井知らず。何時か必ずその刃を届かせることだろう。
「よし、とりあえずはこれぐらいかな」
まあ今はどう足掻いても不可能なのだが。
「やはり実際に手を合わせてみないと分からないものだね。見立て以上だったよ」
「師が良かっただけさ」
舐めるなよ僕だぞ! という本音を隠しつつ無難な返答をしたのだが、
「……ふぅん?」
モモは何やら不機嫌顔。
一見すればそうとは分からないが付き合いも長くなったルイには何となくそれが分かった。
何故? と内心疑問に思っていると、
「そうだ。君に良い物をあげよう」
これまでの周回ではなかった新たなイベントが発生した。
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