屑ゥ!!
【お前がスパダリになれなかったせいで世界は滅びました。あーあ】
「ふぅー……」
【……何やら満足げですね】
四十七周目が終わり何時もの定型文で未来のスパダリを迎えたブラウン。
何時もなら大体悪態を吐いているのに今日のルイは酷く穏やかな顔をしている。
歯に衣着せずに評価するならキモいぐらいだ。
「今周は中々の満足度だったからね。点数をつけるなら100点満点中85点はあげても良い」
【え、世界の滅びってマイナス15点?】
採点基準どうなってるんです?
「いや世界が滅ぶのはマイナス10ぐらいだよ」
もっと酷かった。
「残り5はあれだね。一ノ瀬と絡んだりとか諸々合算してって感じ」
【……一ノ瀬女史はどれだけ嫌われてるんですか】
「国民の血税を無駄遣いする公務員なんて好きになれる要素ないだろ」
何が酷いってルイは特対での職務経験があるのが酷い。
九課の長であるモモの仕事を見た上でこれなのだから本当に酷い。
モモもかなりの高給取りではあるが職務と見合うかと言われればそんなことはない。
どう考えても見合っていないのに未だ税金泥棒と謗られ続ける。一体モモが何をしたというのか。
【まあ一ノ瀬女史のことは良いです。世界が滅んだのに高得点って】
繰り返しのお陰で本当の意味で終わりが訪れないとはいえ、だ。
それを差し引いても理不尽に世界が滅びてもご機嫌なのはどういうことなのか。
ブラウンの疑問をルイは鼻で笑い飛ばした。
「重要なのは僕がどう感じるかだろう。世界が滅びるかどうかは関係ない」
流石素面で僕動説を提唱する男だ。面構えが違う。
「本当に今回の周回は得難いものだったよ」
【……余程あの少年がお気に召したようですね】
ブラウンも時折観察はしていたので幸男のことは知っている。
そしてどうやらルイが本当に気に入っていることも。
まあ性格を知ってるのでロクでもねえ理由だろうなとも思っているが。
「それはもう。泥中の蓮、掃き溜めに鶴。このくだらない繰り返しの中で彼こそが僕の癒しだった」
【うぉぉ】
語彙が死ぬほど引いていた。
口を開けば他人を貶す言葉ばかりのルイから飛び出した賛辞が酷くキショかった。
「さっちゃんは僕を愉しませるために生まれて来たのかもしれない」
【かつて耳にしたどんな悪口雑言より酷いことを聞いてしまった……】
これが国家間のやり取りなら絶滅戦争待ったなしの侮辱である。
「彼の徒労を見ているだけで疲れた心がすぅー……っと」
【……】
「何だよ?」
【いえ別に】
思うところはあれど最優先は世界を救うこと。
メンタルケア役として一人の少年が犠牲になるのも許容するということだろう。
ただそれはそれとして、
【年頃の男子が同年代の男子に癒しを求めるって】
「何だよ」
【私も詳しいわけではありませんがあなたぐらいの年齢だとその、ねえ?】
いわゆるヤりたい盛りで性欲をぎらつかせているのではないか。
特にルイは表面上のスペックは激高だ。
周回の息抜きにそこらの女を食い散らすことも容易だろう。
【何十年とあなたを見て来ましたがその手の欲がまるで感じられない】
一人で処理などはしているのかもしれない。
プライベートな時間は必要が無ければ見ていないのでブラウンにも断定は出来ない。
だがそういうところで処理をしていたとしても、あまりに色欲が見えないのだ。
「失礼だな。僕がEDだとでも? 性欲ぐらいはあるさ」
【その割には一周限りの火遊びすら見たことはないのですが】
極まった独善の人であることはもう分かっている。
自分の役に立つことが他者の幸福であると信じ切っている愚か者だと。
だからこそ女を欲求を処理するために使うなどということも平然としそうなものだが……。
という本音を城塞レベルのオブラートで包みブラウンが問う。
「いやだって」
その問いに対して返って来た答えが、
「――――そんじょそこらの女に僕の柔肌に触れさせたくないし」
これ。
「というか見せるのも嫌だよね。身の程を知れっていうか」
そして更に追撃。
【――――】
ブラウンは恐怖した。ルイの返答があまりにも気持ち悪かったからだ。
単なるナルシストならここまでの戦慄は覚えなかっただろう。
だが神央累という少年は有象無象のナルシストとはモノが違う。
「過去現在未来を見渡してもこれ以上はないっていう評価受けてるアイドルとか女優で最低ラインだよ」
そこでようやく考えてやっても良いかなとルイは肩を竦める。
考えてやって良い。OKというわけではないのだ。
何なら軽く考えてやっぱなしもあり得るということ。というかその可能性のが高い。
【な、何という】
「……?」
見ろこの顔を。ブラウンのリアクションに心底不思議そうな顔をしている。
ナルシストというのは自分に酔ってる感がどうしたって滲み出てしまう。
だがルイは違う。太陽が東から昇り西に沈むように。林檎が重力に引かれて落ちるように。
極々当たり前のことを言っているだけという認識なのだ。
「ああでも」
何か思いついたように渋い顔をしたルイを見てブラウンは猛烈に嫌な予感を覚えた。
聞かない方が良い。さっさと説教部屋を追い出すべきだ。
理性はそう囁くが同時にここで聞かねばこのモヤモヤがずっと続くとも思ってしまう。
【な、何です?】
気付けばそうメッセージを表示していた。
踏み出してしまった。もう後戻りは出来ない。
「ほら、僕は将来スパダリになるわけだろ?」
【……そうですね。それが?】
「いやね。僕もかったるくはあるが勉強したんだよ」
いわゆるスパダリ的なキャラクターが出て来る女性向け作品だ。
その手のものを読み漁りルイなりに色々と学びを得た。
「物語の中盤ぐらいでもヒロインと肉体関係結ぶのも割とあったなって」
もう腐臭が隠し切れていない。何となく続きが察せてしまった。
ブラウンの胸中を絶望が浸食していく。
「そうなると僕も可能性の一つとして九十九の奴をどこかで抱いてやらなきゃいけなくなるかもしれない」
【はぁ……はぁ……】
「そこでも完璧を求められるなら練習が必要かもしれない」
【……れ、練習?】
「何かまととぶってんだ気持ち悪い。手頃な女を練習台にする必要があるかもって話だよ」
やっぱりそうだった。
先ほどブラウンは欲求を処理するために女を、などと考えていた。
それでも、これはあまりにも……。
「ああそうだ」
【ま、まだ何かあるんですか……?】
「一ノ瀬だよ。あの年増、僕に気がある風じゃない?」
【そ、それが?】
「見知らぬ人間を一から口説くより手間がないしアレで済ませるのも良いかなって」
【手間!? アレで済ませる!?】
止まらない。止まらない。怒涛の屑発言だ。
「ああでも、やっぱ嫌だな。練習台とはいえこの僕に抱かれる栄誉を奴如きにくれてやるなぞ」
【屑ゥ!!】
ブラウンは反射的にルイを追い出してしまった。しょうがないね。
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