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お前がスパダリになれなかったせいで世界が滅びました。あーあ  作者: カブキマン


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28/84

ステ不足のため再会はできません

(体が軽い。動きが恐ろしく切れている)


 奈落の樹海から関西に帰還した幸男は戦いに明け暮れていた。

 人の世に仇成す怪異、異能者。打倒すべき敵はごまんと居る。

 今宵も地元から少し離れた町の郊外で一人怪異とやり合っていた。


(頭もこれでもかってぐらい冷静だ)


 とは言え最低限、留年しない程度には学業にも励んでいた。

 これまで幸男の中で学校の優先度は問答無用の最下位だった。

 育ててくれた両親への義理立てで辛うじて糸が繋がっていただけ。

 正直な話をすると夏休み明けには辞めるつもりだった。

 それでも辞めなかったのは、


『ただ鍛えるだけが強さに繋がるわけじゃないよ』


 友の存在ゆえだ。

 幸男は己が立派な人間だなどとは微塵も思っていない。むしろその逆。

 何をしても駄目どころか大切な人さえ護れず傷付けてしまう最低のクソ野郎とすら思っている。

 そんな自分を友と呼んでくれた彼は比べるのも烏滸がましいほど素晴らしい人間だった。


『君を取り巻く全てが君を育ててくれるんだ』


 関係ないと切り捨てたところにもきっと大切な学びはある。

 そう言ってくれたからこそギリギリで踏み止まった。

 そしてその選択に後悔はなかった。


(ルイ、お前が正しかった。俺が見ていなかったものの中にも大切なことは山ほどあった)


 本当に何気ない些細なもの。見過ごしていたもの。

 目を向けてみればそこには大切な輝きが幾つもあった。


(俺が求める本当の強さとはきっと――――)


 最後の一体を倒したところで幸男は深々と息を吐いた。

 以前までなら考え事をする余裕もなかったような相手とも戦えている。

 これは驚くべき進歩だろう。


「……強くなっている。確実に」


 樹海に居た頃も手応えは感じていたがその時の比較対象はルイだ。

 心身共に強く自分の理想そのもののような相手では成長も実感し難い。

 関西に戻り実戦を繰り返す中でようやくだ。

 自らの成長を改めて実感し口元を綻ばせる幸男だが、


【確かに驚くべき進歩だ】


 聞こえたノイズ混じりの機械音声が一瞬でその喜びを刈り取ってしまった。

 険しい顔で振り向くと点滅する街灯の下に古びたロボットの玩具が佇んでいた。


「……機人佰號」


 付喪神機人佰號。

 幸男にとっては怨敵であり同時に恩人ならぬ恩神でもある複雑な存在だ。


【この短期間でここまでとは一体何があったんだい?】

「それを貴様に説明する必要が?」

【つっけんどんだなあ。少しは社交性というものを身に着けたらどうだい?】

「俺に社交性がないのはその通りだが改善しようとは思っている」


 ただ改善したとしてもお前に向けるべきものではない。

 明確な敵意と拒絶の意思を示されても機人佰號はどこ吹く風だった。


【顔だけが取柄の根暗で卑屈な君が随分とまあ変わったねえ】

「で、何の用だ?」

【進捗を確認しに来ただけさ。あの日君“たち”を見逃した僕にはその責任がある】

「……」

【確かに君は強くなった。でもそれは常識的な範囲で、だ】


 驚嘆に値する進歩ではあるがそれだけだと嗤う。


【刻限まで一年と少し。彼女を護れるほどの力には到底届かないよ】

「やってみなければ分からない」

【分かるさ。君より遥かに強い僕が言うんだから間違いない】


 機人佰號は幸男に歩み寄り手を差し出した。

 Cのような形をした手には黒いビー玉のようなものが握られている。


「……これは?」

【独裁者の付喪神。その断末魔の結晶さ】


 曰く、少し前二千年に大暴れした強大な付喪神が居たのだという。


「……二十年以上を少し前とは呼ばんだろう」

【黙れ】


 ともかくだ。

 その付喪神が死に際に残した呪詛を時間をかけて育てたものがこのビー玉なのだという。


【これを取り込めば君は逸脱した力を手に出来るだろう】


 当然、リスクはある。

 僅かな可能性を掴めねば死。掴めたとしても精神の均衡が崩れ発狂するかもしれない。

 危険極まる賭けだ。だがそれだけにリターンは大きい。

 受け取ると良い。機人佰號の提案を、


「断る」


 幸男は躊躇なく跳ね除けた。


【何故だい? 真っ当な手段では最善どころか次善すら掴めないのが現状だろうに】

「以前までの俺ならば安易にその手を取っていただろうが今は違う」

【下手に成長したものだから命が惜しくなったのかな?】


 無茶をせずともやれるかもしれない。

 あんな甘い夢を見てしまったのかとせせら嗤うが、


「命は惜しくない。アイツを護れるなら喜んでくれてやる」

【なら迷う必要は】

「惜しんでいるのは心だ」

【……何だって?】

「友が教えてくれた。己を誇れる生き方を」


 そして幸男は語り出す。あの一ヵ月で得た答えを。

 拙いながらも堂々とした言葉はしかし、


【――――要らないんだよねそういうの】


 あっさり切り捨てられた。


「ッ……か、体が!?」

【雑魚の綺麗事ほど惨めなものはない。結局、言い訳だろうに】


 綺麗事で自分を慰めたところで何か変わるのか? 何も変わりやしない。

 言えば言うだけ恥を晒すだけだ。

 機人佰號は溜息と共に幸男のシャツを破り胸元を露出させる。


【くだらない慰めで何を掴めるというのか】

「や、やめ――――」


 そして躊躇なく心臓のあたりにビー玉を押し付けた。

 皮膚に触れた瞬間、ビー玉は根を張りその肉体を浸食し始めた。


「う、ぐ……があああああああああああああああ!?!!?!」

【そんなだからお前は選外なんだよ。少しは役に立て】


 そんな機人佰號のぼやきなど幸男の耳にはもう届いてはいなかった。

 心と体。内側からも外側からも自分が引き裂かれるような感覚。

 すり潰されかき回されよく分からないものに変わっていく恐怖。


(き、消える……俺が……“ハジメ”……)


 必死で踏み堪えようとするが風前の火よりも頼りない。


(――――ルイ……!!)


 最後に呼ぶのそいつかよ。


【これはこれは驚いた、ね】

「……当たれば儲けもの。外れてもゴミが処分されるだけ。と言ったところか?」

【ははは、頭の巡りも良くなったらしい。そうだね。だが君は勝った。気分はどうだい?】

「最高の気分だ。くだらぬ意地で遠回りをするところだった」


 その点だけは貴様に感謝してやっても良い。

 そうせせら嗤う幸男はこれまでの彼とは別人だった。


【それはどうも。なら礼代わりに聞かせてくれるかい?】

「何をだ」

【誇れる生き方とやらを教えてくれたお友達の話をさ】

「フン、あんな何もかもを持ち腐れている男の話などしたくはないが……まあ良い」


 幸男は樹海での出来事を手短に語ると直ぐに去って行った。

 手に入れた力を振るいたくなったのだ。

 残された機人佰號は点滅する街灯の下でぽつりと呟く。


【神央累、ね】

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
付喪神に意思疎通出来るのが居たんだね。 しかも、さっちゃんハジメちゃんの知り合いっぽい? て、言うか片想いだよね。 この事を踏み躙る機械君。 今後どうなるのか。
あーんさっちゃん消えちゃったー! 清涼剤でボーナスタイムで心の友()が… まあでもボコして心の強さ()云々でマウント取れるし二度おいしそう
悲報!さっちゃんが悪堕ち覚醒した件 ルイ君的にはどうなんだ?無様な悪堕ちで御機嫌になるのか覚醒した事に解釈違いで不機嫌になるのか? そしてヒロインちゃんにちゃんとしたヒーローがいるんですけど(笑)
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