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お前がスパダリになれなかったせいで世界が滅びました。あーあ  作者: カブキマン


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猛毒ママ

「ぅ……! 気絶していたのか……す、すまん直ぐに」


 気絶から復帰した幸男が立ち上がろうとするのをルイは手で制する。


「休憩を入れよう。続きは体力を回復させてからだ」


 ルイの指導はモモのそれをベースにしているがそのままというわけではない。

 モモなら気絶も休息は休息だろうと再開していただろう。

 ある程度緊張状態を維持したまま体を休ませられたのだから十分だと。

 しかしそれはルイだから。性能の違う幸男が耐えられるわけではない。


「いや俺は大丈夫だ。まだやれる」

「さっちゃんの意思は関係ない。これは効率の問題だ」


 闇雲にやっても最終的な成果は小さなものになる。

 あれこれ手を出して何一つものに出来ないのと同じ。


「君は何のために強くなりたいんだ? 心を蝕む焦りから逃げるためか?」


 もしそうなら止めない。楽になりたいのなら続ければ良い。

 突き放すような物言いに幸男は唇を噛み、小さく頷いた。


「……すまん。俺が間違っていた」

「良いさ。逸る気持ちも理解出来るからね」


 それに休めるのは体だけ。休憩時間中は別のことをすると続ける。


「別のこと?」

「お勉強さ」

「……俺は強くなりたいわけで頭を良くしようとは思っていないのだが」

「知識は力さ。これは単なる比喩表現じゃないよ? 君が求める力も包含されている」


 論より証拠。口で説明するより実際にやってみようとルイは幸男を立たせた。


「体力を回復させようと言っといて何だけどとりあえず僕に殴り掛かってくれるかい?」

「……分かった」


 何をするのだろうと疑問に思ってはいるのだろう。

 それでもすっかるルイに信頼を寄せているので特に疑わず頷いた。

 そして言われた通りに殴り掛かろうとして、


「ッ……か、からだが……!」


 棒立ちのまま動けなくなってしまった。


「僕が今何をしたか分かるかい?」

「……じゅつ、か?」

「違う。霊力による身体強化はしているけどやったことは単純。幾つかの箇所を打っただけさ」


 そんな馬鹿なと目を瞠る幸男にルイは言う。


「勿論、ただ殴っただけではこうはならない」


 体を動かす上で基点となる場所や神経節を的確に打ち据えた。

 だから麻痺のような状態に陥ったのだ。


「必要な場所を打つためには人体の構造を熟知していなければいけない」


 だが人体の構造を熟知しているだけでは足りない。

 大まかな構造だけ知っていても個人差はある。

 必要な速さ必要な強さで打つためには観察力や計算力も必要だ。


「対人にしか使えないだろうって? いいやそんなことはない。

付喪神のような器物タイプは別だが怪異の中にも肉や骨、神経を持つ者は居る」


 人間のそれとは当然、構造も異なる。

 だが知識を応用すれば今やってみせたようなことも出来る。


「仮に出来なくても役には立つ。例えば巨人。真っ向から殴り殺せるなら良い」


 しかし真っ向勝負がキツイなら頭を使うしかない。

 その際、蓄えた知識は役に立つ。

 人体の構造に関する知識を応用しそこを突けば有利に立ち回れそうな場所を探し出せる。


「知識というのは容易く暴力にも転用が出来るんだ。

君が求める強さからは外れるけど銃を始めとする兵器が良い例だろう」


 銃火器を十全に扱うためには訓練が必須だ。

 しかしただ使うだけなら引き金を引くだけで事足りる。

 個人の才覚に左右される要素をなるべく減らし、その上で如何に効率良く敵を殺傷するか。

 それを突き詰めて人類は多種多様な兵器――知識を用いた暴力の結晶を数多生み出した。


「……恐ろしい、話だな」

「そう。恐ろしい話だ」


 話を戻そうと咳払いをしてこう続ける。


「君が求める分かり易い力。体術なんかにも知識は役立つと理解出来たと思う。

でも体術だけじゃないぞ。術の類もそう。高度な術には数学的思考が必要不可欠だからね」


 強さを求めるのであれば学びから逃げるわけにはいかないのだ。


「……言わんとしていることは分かった。その通りだと思う」

「何か懸念が?」

「お、俺は……その、何だ。頭もあまり良くなくて……」


 バツが悪そうな顔でそっぽを向く幸男。


(あ、あざとい! 何てあざといのかしらこの子!? ドスケベ!!)


 そしてルイは大歓喜。

 さもありなん。コイツからすれば可愛い女の子が無防備に胸元やパンツをちらつかせているようなもの。

 健全な男がパンチラで滾るようにルイは他者の劣る部分に滾ってしまう不健全な生き物なのだ。


「高校は?」

「……一応、通っている」

「直近の数学のテストは何点ぐらいだった?」

「……サ、サンジュウチョット」

「……ギリギリ赤点を逃れたって感じかな」


 もう大好きだ。今直ぐ抱き締めてキスしたい。

 それぐらいにルイは興奮していた。

 美女であるモモと二人きりで聖夜を過ごしたていた時すらそんなことは思わなかったのに……。


「僕のところとは範囲も違うかもしれないから何を習ったか覚えている限りで良いから教えてくれるかな?」

「分かった。まずは数学からで良いか?」

「うん」


 話を聞きつつ現在の知識レベルは正確に算定していく。

 一足飛びで知識を与えたところで身に着かないからこの把握は必須だ。


「カリキュラムの作成もあるし本格的な座学は明日からにしよう」

「なら今日は体を動かすだけか?」


 と嬉しそうに聞いてくるが当然、そんなことはない。


「頭の体操や簡単な計算問題なんかは今日でも出来るからね」


 ちょっと待っててとルイはキャンプからノートと筆記用具を持って来た。

 本来は夏休みの宿題に使うためだったが最早どうでも良い。

 幸男の指導にかこつけて劣る部分を観賞すること以上に大事なタスクはないのだから。


「よし。とりあえず幾つか問題を作ったから僕が戻るまでこれを解いておいて」

「どこかに行くのか?」

「夕飯の調達にね」


 まだ昼前だがこれからもガンガン体を酷使するのだ。

 粗食では体が保てないし作られない。


「幸いにして獣の類には事欠かないからね。今夜は焼き肉でもしようか」

「ああ……ありがとう」

「何の何の」


 じゃあ、と軽く手を振りルイは全力で駆け出す。


(たんと動いてたんと学んでたんとお食べ……さっちゃんや)


 ママかな?


(お前の無駄な努力を支えるためなら僕は何だってしてやるさ!!)


 毒親だった。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
やっぱカブキマンさんといえばクソ野郎主人公とナレーションの軽快なやりとりだよ。 たまんねぇー。
あぁ、この気持ちまさしく愛だ。 そんな感じなんですね。 限界が低めの人間を慈悲の心で眺める。 まさしく神の視点。
ルイは他者の劣る部分に滾ってしまう不健全な生き物なのだ。なんて悲しきナマモノなんだ、これがスパダリの皮を被った未来の救世主かよ… 万が一さっちゃんが覚醒しようものなら発狂しそうだな
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