初対面だが僕はもうお前が好きだ
(タメぐらいかな? 年齢は良いとしてコイツは……)
ルイが甘い顔立ちの美形なら少年は凛々しい顔立ちの男前といったところか。
だが目の下の隈や少しこけた頬が少年の魅力を損なわせている。
少年はハッとして頭を下げると、
「……すまない、邪魔をするつもりはなかったんだ」
そう言って別の場所に行こうとする。
だがルイは即座に彼を引き留めた。
「まあそう言わないでさ。ここまで来るのに疲れたろ?」
コーヒーでもどうぞとルイは少年をテーブルに誘う。
少年はいや……と遠慮がちに言うが良いからとキャンプチェアに座らせ茶を出した。
え、何急にキモいと思ったあなたは実に正しい。
(初対面だが僕はもうお前が好きだ)
同性愛者というわけではない。
かと言って異性愛者かと言われると首を傾げるのだがそこは置いておこう。
(分かる。分かるよ。“諦め切れない”んだな?)
人には身の丈というものがある。
どう頑張っても届かないことがあってそれを知って人は大人になっていくのだ。
だが中にはどうしても諦め切れずに必死でしがみ付いてしまう人間が居る。
諦めずに頑張った結果、報われる。そうなれば素晴らしいことだが現実は残酷だ。
大体は夢のような幸運は訪れずにズルズルと沈んでいく。
(お前は自分が足りないことを知っている。そしてそれが埋めようのないものだとも)
それでも諦め切れず必死にもがき続けている。
十代半ばという若さで泥濘に足を囚われ苦しみ喘いでいる姿が刺さったのだ。
無論、ポジティブな意味ではない。純然たる悪趣味だ。
(……堪らなく愛しいよ)
必死に頑張ってるのに報われず挙句こんなのに目をつけられる。
少年が一体何をしたというのか。この世に神は居ない。
「……すまない」
「そこはありがとうの方が印象良いと思うよ」
「あ、う……そうだな。その通りだ。感謝するよ。ありがとう」
「フフ、どういたしまして。お菓子もどうだい? 疲れた体に糖分は効くと思うよ」
携帯食料のチョコバーを渡すと少年はおずおずと受け取った。
彼はチョコバーとルイの間で何度か視線を彷徨わせ、躊躇いがちに口を開く。
「何故、初対面の俺に良くしてくれるんだ……?」
「はは、怪しいって?」
「い、いやそういうことでは」
少年が不器用な人間であるのはここまでのやり取りで容易に見て取れるだろう。
そういう要領の悪さもまたルイ的にはポイントが高かった。
何ならハジメやモモなど見目麗しい女性よりよっぽど好感度を荒稼ぎしている。
「ついさっき会ったばかりで名前すら知らない。
君がどこから来たのかも、そこでどんな暮らしをしていたのかもまるで想像がつかない」
けど、とルイは優しげな眼差しで言う。
「君が随分と諦めの悪い男だというのは分かる」
「……ッ」
「何のためかは分からない。でもどれだけ絶望的でも歯を食い縛って必死に足掻き続けている」
「な、ぜ」
「生き方というのはその人の外見に表れるものだからね」
もしそうなら鏡の向こうには怪物が居るはずだろう。
「見ず知らずの人でも必死に頑張ってる誰かを見たら応援してあげたいと思うのは普通だろ?」
微笑みと共に放たれた言葉は相手が相手なら殺し文句になっていただろう。
スパダリ(見習い)の面目躍如といったところか。
いや何で無関係の男にスパダリムーブしてんだお前。
「っと、初対面の相手に不躾だったね。ごめん」
「……いや」
余裕のなかった少年の顔に小さく笑みが浮かぶ。
「ありがとう。お前は俺の好きな人と、どこか似ている」
その好きな人に失礼が過ぎるぞ。
(僕ほどの優良物件なんて宇宙に存在するわけないだろ!!)
宇宙を巻き込むな。
「そっか。僕は神央累。君の名前は?」
「……狭間。狭間 幸男だ」
ここで更に少年こと幸男はルイのポイントを稼ぐ。
何でって、
(僕と比較するのも烏滸がましい芋い名前! 1ポイント!!)
全国の幸男さんに謝罪しろ。
「それはそうと、神央は大丈夫なのか?」
「うん? 何がだい?」
「いや、えっと……その、何だ。ここは整備された道もないし」
もごもごと言葉を濁す幸男を見てルイは言わんとしていることを理解した。
そして更に幸男はルイのポイントを稼いだ。何だこのポイントゲッター。
「ああそうか。気付いてなかったんだね」
「?」
「これなら分かるかい?」
突風が吹き抜けた。ルイが霊力を軽く解き放ったのだ。
「お前も……」
幸男の額には冷や汗が浮かんでいた。
「そう。君と同じ霊力持ちだ」
ルイは最初から気付いていたが幸男は今の今までルイを一般人だと思っていた。
『実力差も見抜けんのか間抜けめ』みたいな台詞がバトル漫画でよくあるが正にそれだ。
これで幸男が力に価値を見出していないなら良かったが残念ながら違う。
彼が必死に頑張っているのは力を求めるがゆえ。
それを初見で看破していたからこそルイは好感を持ったのだ。
「だからまあこの場所に居ても特に問題はないんだ」
勿論、しっかり対策した上でだけどと付け加える。
パワースポットの危険性は知っていますよと暗に告げているのだ。
まあ実際は危険性なんて自分にはありはしないと根拠もなしに信じ切っているのだが。
「心配してくれてありがとう。やっぱり君、良い奴だ」
「いや、そんな」
顔を赤くしてもごもごとどもる幸男。
母性強めな女性なら可愛いという感想を抱くのではなかろうか。
ルイもそう。理由は異なれど可愛いと思っている。
(はぁ~良いわぁ。気の利いた返しの一つも出来ない無様さ! いとかはゆし)
その人間性、いとわろし。
「え、と……そうだ! 神央は何故、ここに……?」
「誤魔化すのが下手だね。まあ見ての通りレジャーさ」
少し嫌なことがあってね、と言葉少なに告げる。
不器用ではあっても何もかも察せないほど愚鈍でもない。
ルイの目論見通り幸男は表情から重い何かがあるのだと読み取り口を噤んだ。
客観的に見ればまあ重い事情を背負わされているんだが……何だかなあ。
「ぁ」
謝罪すべきか迷っていると幸男の腹が鳴る。
ルイは一瞬目を丸くするが直ぐにクスリと笑いこう提案した。
「そろそろ良い時間だ。夕食にしよう。一人じゃ寂しいし付き合ってくれると嬉しいな」
「……分かった」
ルイの息抜き周回はまだ始まったばかりだ。
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