運命の出会い
「まったく……馬鹿は話を聞かないから困る。まあ馬鹿だから仕方ないな」
四十七周目。
毎度お馴染み自宅アパートで目覚めたルイは開口一番ブラウンをディスった。
「まあ馬鹿は良い。馬鹿に関わり過ぎて時間を浪費するのは馬鹿らしいからな」
この短期間で馬鹿頻出し過ぎである。
ルイの酷使ワードランキングを作れば上位い食い込むのは間違いないだろう。
「さてどうしたものか」
考えるのは当然、目下の課題についてだ。
九課に保護されて最初の大きな選択肢。ハジメが拘束された際に動くか動かないか。
前者が正解なのはもう確定で良いだろう。しかしただ選ぶだけでは意味がない。
感情、知性は満たせたが暴力面での条件が満たせていないからだ。
「……どの程度だ?」
理想を言うならあの場でモモをぶちのめすのが最上だろう。
しかしそれはあまりに非現実的。
「現状、僕の実力は九課でも一流どころには入るはず」
肉体面でのリセットはかかってしまったがそこはリカバリーが利くので今は考えなくて良い。
問題は一流に食い込んだ今のルイを以ってしても一ノ瀬百の正確な実力が測れないことだ。
つまり両者の実力差はそれだけ隔絶しているということ。
「奴を倒そうと思えば奴の指導だけでは足りない」
最大で一年の夏からリミットである三年の冬まで鍛錬に費やすことが可能だ。
しかしそれを繰り返すだけでは早々にレベルは頭打ちになる。
神央累の才能は上澄みだし努力の面も問題はない。
これがスポーツならそれこそ世界の頂点までスムーズに辿り着くだろう。
だが霊能力者の実力というものは才能と努力だけでは足りない。
『心を大きく揺さぶる“刺激”こそが霊能力者の成長に一番必要不可欠なものだ』
とはモモの言である。
曰く、
『誰かとの出会い。強敵との死闘。形は問わない。というか問えない。
だって何に心揺さぶられるかなんて人それぞれだろう? だからこそ難しいんだ。
どれだけ才能があって努力を惜しまずとも運命的な刺激に出会わなければ壁は超えられない』
才能、努力、運。この三位一体を揃えられる者こそが超一流の領域へと至れる。
モモを倒せるレべルにまで成長しようと思えば一つ二つの刺激では足りない。
なので倒すというのが突破条件にはならないと見て良い。無茶振りが過ぎる。
「最初の一刀で手傷を負わせる……ぐらいが妥当だとは、思うけど」
言葉の歯切れが悪く、表情も苦い。
ぬいぐるみ相手に粘着し続けていた頃に比べれば楽なのでは? 否、そんなことはない。
昆虫走法で粘着してモモの動きを学習してなんてやり方も通用しない。
何度も言うが両者の実力差はそれだけ隔絶しているのだ。
「まずは頭打ちになるレベルまで鍛えよう」
それでも無理ならそこでまた考えれば良いのだ。
「長い道のりになるな」
そう呟く改めてスタートを切った。
そして時は流れ全てが始まる高校二年の夏休みに突入。
新たな目標を達成するため長く険しい道を歩き始めたルイは、
「――――やっぱり自然は良いね。心が洗われるようだ」
大自然を漫喫していた。修行のため? いや違う。
青く生い茂る木々の中、キャンプセットを背負い悠々と歩いてる姿を見れば分かるだろう。
今、この男は完全に夏のレジャーを楽しんでいる。
(アイツらがどれだけストレッサーだったかがよく分かるね。いやホント)
モモに手傷を負わせ新たな道を切り開くんじゃなかったのか。
長い道のりになるとかシリアス顔で言ってたじゃん。
反省文ハラスメントを受けていたブラウンが居れば鬼詰め待ったなしだ。
(焦ってもしょうがない。ゆっくり息抜きをして気が向いてからやりゃ良いんだよ)
正論だけど何か腑に落ちないのはその人品ゆえだろう。
ともあれ少なくとも今周、ルイはまるでやる気がない。
この周回は完全な余暇のつもりで三年間を楽しむつもりだ。
その証拠にハジメと出会ってすらいない。意図的に遭遇イベントをキャンセルしたのだ。
(しかし、ふむ情報通りだね。呼吸をするだけで活力が満ちていく)
今、ルイが居る樹海は通常のレジャー客が訪れるような場所ではない。
道は整備されおらず険しく、熊や猪など危険な獣も多く存在している。
どうしてそんな場所をレジャーに選んだかと言えばここがリアルパワースポットだからだ。
何でそんな場所を知っているのかと言えば前周までの九課職員としての経験である。
職務上知り得た情報には当然、守秘義務が存在するが次の周ではリセットされるので問題なし。
ある意味これもループにおけるライフハックと言えよう。
(浅瀬でこれだ。一番気が濃いところに行けば効果はもっとだろう……フフ)
活力増進だけでなく運気向上なども望めるのがリアルパワースポットだ。
ただ当然、上手い話は早々ない。
この樹海のように立地がカスで効果が出るところまで辿り着くのが困難なのが一つ。
もう一つはキャパシティ超過による反転。
薬も過ぎれば毒となるのと同じで良い気もその人の許容量を超えれば裏返ってしまう。
なので裏の人間であってもその扱いは慎重にならざるを得ない。
(さあ、もっとだ……もっと僕に力を寄越せ……ッッ)
が、ルイはまるで気にしていない。
根拠もなしに自分ならば大丈夫と信じ切っている。
いや一応本人なりに理屈はあるが……。
(何たって僕はいずれ世界を救うんだからな!!)
地球そのものとそこに住まう多くの命の営み。
それらが混ざり合った結果がパワースポットに満ちる力の正体だ。
だからいずれ世界を救う自分にはその恩恵を受けるのが当たり前。
マイナスを被るなどあってはならないというのがルイの根拠だ。
まんまアホの理屈である。
「ここにするか」
最深部付近の開けた場所に辿り着く。
水辺も近いしキャンプをするには打ってつけの立地だ。
ルイは荷物を下ろすと早速、キャンプの準備を始めた。
「次は食料だな」
テントの設営等を終えるとその足で食料確保に向かう。
持参した食料もあるが滞在は二週間ぐらいの予定だ。
現地での調達は必須。地形や植生を調べるためにも早い内に動いておいた方が良い。
知識を頼りに食べられる野草や茸を確保しつつ熊も仕留める。
戦利品を持って帰還すれば下処理の時間だ。
霊力を用いてのやり方をすればその日の内に熊肉を美味しく食べられる。
「ふぅ。ようやっと一息――む」
作業を終え身を清めたところで寛ぎタイム……とはいかなかった。
木々の暗がりから一人の長い髪を後ろで尻尾のように束ねた少年が姿を現す。
「……先客が、居たのか」
それは運命の出会いだった。
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